現代の1日の情報量は江戸時代の1年分!? 大量の情報に溺れないための「考える練習」
大量に情報が溢れる今、現代人が1日に触れる情報量は江戸時代の一年分、平安時代の一生分とも言われています。
あまりに情報が多すぎて一つ一つの情報をしっかり考えることが出来なくなっているように感じています。コロナ禍においても、陽性者数、感染者数、実行再生産数、病床使用率などたくさんの情報がある中で、どの情報を使ってどう考えればよいのか迷うこともありました。
分からないことがあれば誰でもすぐにインターネットで調べることができる現代、情報をただ「知っている」人はもう重宝がられません。
ではどのような人が求められているのか。
それは、情報をそのまま右から左に流す人ではなく、情報を元に自分自身でしっかりと考えて独自の意見をアウトプットできる人、ではないでしょうか。
大量情報時代だからこそしっかり「考える」ことが重要になっているのです。
今回オススメしたいのは柳川範之さんが書かれた『東大教授が教える知的に考える練習』(草思社文庫)です。
柳川範之さんは東京大学大学院経済学研究科・経済学部の教授で、NIRA 総合研究開発機構、事業再生実務者協会など数多くの機構、協会の理事としてもご活躍です。フリーランス協会のアドバイザーボードのお一人でもあります。
柳川さんは中学校卒業後、お父様の海外転勤にともないブラジルへ渡りました。ブラジルでは高校に行かずに独学生活を送り、高校卒業後は大検を受け慶応義塾大学経済学部通信教育課程へ入学。大学時代はシンガポールで通信教育を受けながら独学生活を続け、慶応義塾大学卒業後は東京大学大学院経済学研究科博士課程を修了しています。
この本には、独学で道を切り開いてきた著者ならではの「じっくり考えることとはどういうことなのか」「たくさんの情報を使って何をすればよいのか」など「頭の使い方」が具体的に書いてあります。
「考える土台」を身につけることができる1冊です。
「考える」とはどういうことか?
変化の激しい時代、どんなに多くの情報を集めても世の中が予想もしない形で変わるとそれらが一瞬のうちに役に立たないものになってしまう可能性があります。
コロナ禍において、ビジネスの現場や生活の場でそれまでの常識があっという間に変わってしまったことは記憶に新しいと思います。
情報収集はかなり容易になりました。このような時代に必要とされる力は、情報収集力ではなく、情報を自分なりの発想や自分なりの考え方で処理する力です。
「発想力」「考える力」がより求められているのです。
では「考える」とは具体的にどういうことでしょうか。
■考えるとは調理すること
本では、「考える」ことを「調理する」ことに例えて説明してあります。
「『考える』という作業は情報を『調理すること』だ。」
よほど新鮮で美味しい素材でない限り、何の手も加えずにそのまま出したらあまり喜ばれません。
情報も同じことです。
「よほど新鮮で優れた情報でない限り、その情報を右から左に流しても、よい解決策になることはほとんどありません。」と書いてあります。
調理する際、素材を一定期間寝かしたり、火を入れたり、ほかの素材と組み合わせたり、調味料を加えたりすることで食べる人が喜ぶ料理が出来上がるように、情報も、寝かしたり、様々な角度から検討したり、ほかの情報と組み合わせたり、価値判断を加えたりすることで、有意義な解決策になるということです。
これが情報を適切に調理すること、つまり「考える」作業だと書いてあります。
食べる人の笑顔を想像しながら「美味しくなぁれ」と調理するように、解決策を受け取る人の笑顔を想像しながら、情報も調理していきたいものです。
■知っていることと理解していることの違いとは
また「考える」ということは疑問を持つことだと書いてあります。
「なぜ?」という問題意識を持つことで考えるきっかけが生まれるそうです。
「なぜか」というプロセスを経ていない情報、つまり考えていない情報は単に脳内に格納されただけの知識であり「知っている」だけの情報です。自由自在に使いこなすことはできません。
「なぜ?」という問いを立て「理解した」情報、つまり考えた情報になって初めて使いこなすことができるのです。
日々いろんな本を読みます。
読み終えた後、他者に読んだ本の内容を伝えようとすると、うまく伝えられる時と伝えられない時があります。両方とも読み終わった時には理解したつもりになっているのですがこのように差がはっきりと出るのです。この本を読んで、自分の読み方が原因だったことが分かりました。
うまく伝えられるときは自分に引き寄せて問いを立てて読んだ時です。「この内容は仕事で使えるかなあ」「この内容は私には当てはまらないかな」など脳内で自分と会話をしながら読んでいるときには内容がしっかりと残るので他者にも内容をうまく伝えられます。
しかし活字を追っただけの読み方をしたときには、自分の中で情報が整理ができておらず言葉がうまく出てきません。知識のまま脳内格納庫に放置されている状態です。
情報を使いこなすことができるように、「問い」を立てることを忘れないようにしたいものです。
考える前に必要な「考える土台」作り
本には、いきなり考え出さずにまずは「考える土台」を作ることが大切だと書いてあります。
土台作りに必要なことは二つあります。
一つ目は発想を変えることです。
情報は調理しなければ使えないのだという発想をもつことです。この発想をもって情報に接することが大切だと書いてあります。
二つ目は具体的なものを抽象化して捉えることです。
個別性の高い情報をできるだけ抽象化・一般化しておくと、他でその情報を使うことができます。歴史のエピソードを抽象化させて現代の課題や問題を解決するヒントにするということは抽象化の代表例です。
■抽象化するクセをつける頭の使い方とは
物事を抽象化することはなかなか難しいことです。
本では三つのステップで説明してありました。
・1ステップ 幹をつかむ
枝葉を外して幹を捉えること。
「一言で簡単に表現してみる」というワークが有効。
・2ステップ 共通点を探す
幹の部分に共通点がないか探すこと。
すべての問題を自分の身近な話に置き換えてみるワークが有効。
・3ステップ 三つめは相違点を探す
似たものに違う点を見つけること。
いろんな事象を比べるワークが有効。
こうして情報は加工しなければ使えないという発想を持ち、物事を抽象化して捉える癖をつけられたら土台は完成です。
本には情報の取り方にも触れてあります。
情報は自分にとって関心のある情報だけではなく自分から遠い情報にも注目することが必要だと書いてあります。なぜなら情報に偏りがあると思考が偏ってしまうからです。
「考える」とは、
考える土台を作り、
遠い情報・近い情報の両方に触れ、
「なぜ?」という問いを立て、
情報を調理して、
有意義な解決策をアウトプットする、ことです。
この本を読んで私は考えているようで考えていなかったのかもしれないと感じました。
情報を鵜呑みにすること、問いをもたないこと、そして、知っていると理解しているを混同していたことが多かったように思います。
この本で学んだことを自分の血肉にして、今後しっかりと使っていくことができるように、まずはこの本の情報を素材にして調理をしたいと思います。調理するとき(考えるとき)には「美味しくなぁれ」を合言葉にしていきます。