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企画を“通す”人から“求められる”人に圧倒的成果を残す“刺さる”発想のオキテ

ビジネスの始まりに、不可欠なのが「企画」。どうしたらターゲットの心をわしづかみする提案ができるのかと、頭を悩ませるフリーランスも多いのでは? そこで“企画のプロ”に話を聞こうと教えを乞うたのが、株式会社tonari 代表取締役社長で、動画メディア『ReHacQ』のプロデューサーを務める高橋弘樹さんです。

これまで高橋さんが手がけた番組といえば、タクシー代と引き換えに終電を逃した人たちの自宅に押しかけ、ありのままの姿から人間ドラマを引き出す『家、ついて行ってイイですか?』に、『ジョージ・ポットマンの平成史』、さらには『日経テレ東大学』とひねりが利いた作品がずらり。他の民放には真似のできない独自路線を貫くバラエティの数々は、“テレ東(テレビ東京)ブランド”の立役者といっても過言ではないでしょう。

昨春18年間勤めたテレビ東京を退職し、フリーの映像ディレクターとしての活動を開始。オンラインにも主戦場を広げ、『世界の果てに、ひろゆき置いて来た』(ABEMA)はこの夏、一躍話題となりました。

そんなヒットメーカーの企画術となれば、さぞかし緻密な計算のもと、観る人を虜にする秘策が散りばめられているはず…! と思いきや、「ヒットって、狙って打てるものではないんです」と高橋さんから意外な言葉が。とはいうものの、コンスタントに人気番組を世に送り続ける裏側には、私たちがアイデアを練るときに役立つヒントが潜んでいるはずです。

ということで、本稿では高橋さん自らが分析した、代表作のヒットの要因をご紹介。“刺さる企画”のエッセンスを考えていきます。

※この記事は、2023年11月1日に開催したフリーランス協会「Independent Power Fes 2023」内のセッション「刺さる企画の創り方」の内容をもとに作成しました。

高橋 弘樹さん
株式会社tonari代表取締役社長 ReHacQプロデューサー
2005年に株式会社テレビ東京に入社後、制作局にてバラエティやドキュメンタリーを制作。『家、ついて行ってイイですか?』などを企画・演出。同番組でギャラクシー賞、民放連賞。Webでは『日経テレ東大学』を企画・制作統括し、100万人超のチャンネル登録者を獲得する。2023年3月に独立し、株式会社tonari代表取締役CEOに就任。新メディア『ReHacQ』を立ち上げる。また株式会社サイバーエージェントに入社しABEMAに出向中。著書に『TVディレクターの演出術』(ちくま新書)、『1秒でつかむ』(ダイヤモンド社)、『天才たちの未来予測図』(マガジンハウス)、『なんで会社辞めたんですか?』(東京ニュース通信社)編著。

心をゆさぶる体験が企画の源泉

「番組をつくるとき、ヒットはもちろん意識します。でも、狙いどおり“ハネる”(世間で話題となり、人気が出ること)とは限らない。『これは!』と思ったアイデアも、映像になると意外とつまらないということも、往々にしてありますから。確かに僕はいくつかヒット作に恵まれましたが、結果として当たったという感覚ですね」

その高橋さんがクライアントに自身を説明するときに用いるのが、“3割”という数字。大外しはしない、普通よりは高い確率でヒットを出せる状態を表します。

「結論を言えば、常にホームランとはならないわけです。でも『この人ならいい仕事をしてくれるかもしれない』という“期待”と、そこに確実に応えていくことが関係を築くうえで大事だと思うんです」

そして高橋さんが手がけた番組のうちの“ハネた3割”は、次の5つに分類されると説明します。

1)自分の欲求に素直に従っている
2)日常・読書・映像などのワンシーンで心が動いた瞬間を切り取る
3)未知の世界を興味のない人に届ける工夫があるもの
4)バカげた無茶
5)自己表現を形にしたもの

「たとえばテレ東時代に制作した『吉木りさに怒られたい』は、典型的な1)のパターン。当時、めちゃくちゃ怖い上司がいて、心が病みそうなくらいによく怒られていました。で、あるとき怒られている最中に、『目の前にいるのは美少女だ…!』と心の中で言い聞かせていたたら、めちゃくちゃラクになったのがきっかけ。それで笑顔が魅力的なグラビアアイドルの吉木りささんに、ひたすら怒られ続ける番組をつくったんです。

『世界の果てに、ひろゆき置いて来た』あたりは3)ですね。人間、未知のものには興味が沸くのですが、めんどうくささが勝ってなかなか行動に移せない。それを事業家のひろゆきさんが、予算10万円、移動は陸路のみという条件で、アフリカ縦断に挑むという疑似体験に、視聴者は食いついたんだと思います」

高橋弘樹さん。「僕は今年の3月(取材当時)にフリーランスになったばかり。先輩フリーランスのみなさんの前で話すのは、ちょっと緊張しますね(笑)」

5つに共通するのは、高橋さん自身の心が揺さぶられた経験が起点となっているところ。原体験こそ、企画の源泉だと話します。

「怒りや欲望、知的好奇心、いたずら心など、自分の“心”を観察し続けること。同時に社会を観察し続け、互いをすり合わせていくことで、アイデアが形になっていくのだと思います」

ちなみに高橋さんの場合、アイデアが浮かぶと、その場でメールを書いて企画専用に設けたアドレスにメールを送るそう。

言葉にする作業を通じてひらめきが整理されるから、企画につながりやすい。おすすめです」

要素の重なりの最大化×テクニックで企画を“ハネる”番組に

「企画の源泉は自分の中にある」とはいうものの、それだけでは独りよがりになってしまうのもまた事実。番組制作に携わる後輩には、「会社の強みやニーズにも目を向ける必要がある」とよく指摘するそうです。

「次の図のA~Cの重なりが大きいほど、刺さる可能性は高くなります。まずBは、会社のリソースにあたるでしょう。テレ東がタレントとのコネクションを築くのがうまいフジテレビと同じ戦い方をしても、太刀打ちできない。でもロケ力だったら他のキー局にも負けません。『家、ついて行ってイイですか?』をテレ東でつくれたのは、一度外に出たら、きちんと撮れ高を確保できるクルーがいたからです。

そしてCのニーズも、絶対無視できない要素です。地上波のテレ東とオンラインのABEMAでは、やっぱり狙う層が違う。テレ東が家族みんなでご飯でも食べながら気軽に見られるイメージだとしたら、ABEMAはもう少し年代も絞り込む。またオンラインでは視聴者が能動的に番組を“選ぶ”動作が入る分、視聴後に届くベネフィットも意識していますね」

ただ、3つの重なりを広げて“いい企画”を立ち上げたとしても、ヒットにつながるかはまた別の話。企画から番組へと落とし込んでいくプロセスでは、技術的に“ハネる”状態をつくり出すのもディレクターの腕の見せどころです。ここでは代表的な3つのテクニックを、教えてもらいました。

1)根本価値の否定
「既にあるもの、今ある形を覆す、疑うと、面白くなる場合があります」

たとえば『家、ついて行ってイイですか?』で終電を逃した人たちと一夜を共に過ごす撮り方は、高橋さん曰く「即興・短尺のドキュメンタリー」。取材対象者に数カ月、数年と密着し続け、信頼を築く中で素顔を撮る方法とは対照的です。

「この即興性こそ番組のキモ。先に関係を築いてしまうと、事前に部屋をきれいにされちゃってその人の素が見えてこない。それに人って、他人になら意外と自分をさらけ出せちゃうもの。思いがけず、人間らしい話が聞けるから深みが出て面白くなるんです」

2)狙う脳内物質の特定
ドキドキしたり涙が溢れたり、番組を見ていると途中で感情が高ぶる瞬間が訪れることがあります。高橋さんによれば、視聴者が脳内物質を放出するタイミングを、つくり手側が意図的に仕掛けているといいます。

「キャスト同士のファイトを見せてアドレナリンを放出させる、しんみりする場面でビートルズのLet It Beを流して没入させるといった具合に、エンタメの人間は視聴者の脳のスイッチに魔法をかけるんです。特に、先ほど説明した企画の特徴の『3)未知の世界を興味のない人に届ける工夫』で、よく用いる手法です」

高橋さんがこの演出を選ぶときは、あざとさを抑えるように意識しているとか。「脳内物質を放出させた先に、自分が伝えたいことは何なのかをよく考えてから使うようにしていますね」

高橋さんが講演すると聞きつけて、会場にはたくさんの参加者が。地方を中心にオンラインでライブ視聴する人も多く、注目度の高さがうかがえた。

3)痛烈なアンチテーゼ
反骨精神も、観る人の共感を掻き立てる要素。高橋さんはあえて権力や因習に歯向かう構図を、バラエティに何度か持ち込んでいます。

「『日経テレ東大学』で企画したRe:Hackは、報道局へのアンチテーゼが含まれています。確かに権力の監視は、ジャーナリズムの重要な役割です。でもそれが行き過ぎて、ただの揚げ足取りになったり、内輪受けになったり。かえって国民の政治離れの原因になっていて、社会損失につながっているんじゃないか。

それでバラエティのフィルタを通して、政治や行政を伝えてみたらと始めたんです。政治家の愚行ではなく、魅力に迫ってインタビューを敢行したり、地上波の経済番組だと視聴率が取れないと敬遠しがちなスタートアップにフォーカスしたり。あえて報道の常識にメスを入れて、視聴者の関心を誘うというやり方ですね」

高橋さんは政治に限らず、アイドル番組にもこのテクニックを応用。人の“抗いたい心理”をうまく生かして、魅力的な番組をつくり上げています。

1.5倍の圧倒的成果で“求められる人”になろう

高橋さんによれば、テレビ局で企画を提出して番組化に至るのは、1000本のうちせいぜい7~8本程度なのだそう。テレ東時代に数々の話題作を世に送り出し続けてきた仕掛け人は、“刺さる”企画を考えるよりも先に、大事なことがあると語ります。

「改めてこれまでを振り返ると、『いい企画だから通った』というより、『(周囲から)企画を求められたから番組になった』ことがほとんどです

テレビ局でどんな番組を放送するかを決めるのは、ヒットメーカーではありません。そうした人たちに、『あいつなら、何かおもしろそうなものつくれそう』って思ってもらうことで、企画が形になっていった気がしますね」

では周りに期待されるようになるには、どうすればいいの…? その疑問に、「つまるところは、圧倒的成果だと思う」と答えた高橋さん。

「自分の出世作となった『ジョージ・ポットマンの平成史』も、上司の覚えがよくて自分にチャンスが巡って来たことで生まれたもの。そこで話題となったから、『家、ついて行ってイイですか?』などその後の機会につながっていきました。

つまり置かれた場で、相手が求める1.5倍の成果を出すことが大事なのではないか。1.2倍じゃダメだし、0.8倍なんて論外。周りが驚くアウトプットによって、自分のブランドを確立するのです。『あいつがいないと回らない』と思われたらしめたものです」

ただし、これだけの成果を出すとなると、自身も激しく消耗してしまうもの。「『死ぬ気でやるのは2年』という具合に、時間を区切るのがコツ」と、高橋さんはアドバイスします。

淡々とした口調とは裏腹に、映像に対する思いと「カメラの向こうにいる人の素の姿に迫りたい」という好奇心の強さが、言葉の端々から伝わって来た。

その期間は徹底的に自分を追い込んで、抜擢の確変を起こす。そうすると、自分を切り売りしなくても安定的に回るようになる気がします。それができる人とそうでない人では、特にテレビの世界ではえげつないほどの収入差につながっているのが現実ですね」

また複数の肩書を持つのも、ポートフォリオの安定化につながると高橋さん。

「僕の場合は映像クリエイターと、ジャーナリスト、それから旅エッセイストの3つの顔があって、うまく名刺を使い分けることで機会につながっています。1つの顔だけだと、1周すると飽きてしまう。でも3つあればアレンジが利くし、何より飽きることがないです(笑)」

そして業界の先駆者は、まだまだ挑戦の手を緩める気配はありません。

「テレ東を辞めてすぐに立ち上げたのが、ビジネス動画チャンネルの『ReHacQ』です。政財界からアカデミック、フロントランナーと多彩な論客をゲストに招き、とにかく本音で語ってもらう、テレビではあり得ない組み合わせで化学反応を起こすような、番組づくりに取り組んでいます。野望とまでは言わないけれど、ReHacQをこれからの時代のマスメディアにできたら。どんどん、“ハネる”仕掛けを講じていけたらと思っています」

“究極の成果主義”ともいえるフリーランスの働き方。高橋さんの言う「圧倒的成果」の考えは、多くの人の共感を誘うものでした。

構成/フリパラ編集部
撮影/鈴木江実子


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