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スタイリスト兼ベビーシッター・平尾まさえさんの豊かなるパラレルキャリアライフ

フリーランス・パラレルキャリアの多様な暮らし・働き方をご紹介する「働き方の挑戦者たち」。
今回ご紹介するのは、スタイリストとして活躍するかたわら、ベビーシッターの副業もこなす平尾まさえさん。「もう本当に楽しいよ!」とはじけるような笑顔で語る平尾さんに、スタイリストとベビーシッターというちょっと変わった二足の草鞋を履くことになったきっかけや両立のコツ、50代半ばを迎えての仕事観の変化など、根掘り葉掘り伺います。

体型コンプレックスがスタイリストをめざす原点

スタイリスト・ベビーシッター/平尾まさえさん

平尾まさえさん
文化服装学園スタイリスト科を卒業後、坂本久仁子さんのアシスタントを経て独立。百貨店の広告ビジュアル、雑誌のファッションページ、CM、パーソナルスタイリングなどで活躍。2021年よりベビーシッターとしても働く。

広告ビジュアル中心に、雑誌やCMなどで活躍してきた平尾まさえさん。最近では、パーソナルスタイリングにも活動の幅を広げています。

「小さいころからぽっちゃり体型で、『まさえには本当に着せる服がないんだから』なんて言われて育ったの。そのコンプレックスが、私がスタイリストをめざした原動力。

自分はかわいくなれなくても、誰かをかわいくすることはできるんじゃないかという発想の転換が、服の仕事についたスタート地点です。だから、洋服が好きなのはもちろんなんだけど、誰かの悩みを軽くしたり、気持ちを明るくする手伝いをしたい、という思いはずっと根底にあったのかも」

パーソナルスタイリングでは、その人のコンプレックスやめざす姿を聞きながら、一緒に買い物をしていきます。

「自分の新しいスタイルが見つかるとアゲアゲになるのよ、本当に。それが仕事にもいい影響を与える。そんな姿を見ていると、すごく楽しくて、おもしろい。振り返ってみると、これまでの撮影現場でもそういうコミュニケーションが私はすごく好きだったなって。パーソナルスタイリングを始めて、改めて再確認しています」

撮影現場での何気ない会話から、自分の「好き」を発見

編集者やクライアントとの打ち合わせで、コーディネートのイメージをかためる。

平尾さんが、「コミュニケーション好き」を自覚し始めたのは、自身の出産を経て、活動の場が広告から育児誌やキッズ雑誌にも広がっていったころ。

「たとえば赤ちゃん雑誌の撮影では、衣装に着替えさせているときにお母さんがふと『うちの子、まだ寝返りしなくて』なんて話してくれたりするんですよね。そんなとき『寝返りって個人差が大きいですよ、うちもゆっくりだった!』なんて一言をかけるだけでも、お母さんは少し安心できる。

私自身も余裕のない子育てをしていたから、小さなことにも不安になるお母さんたちの気持ちは痛いほどわかって。おしゃべりの中でほっと表情がやわらいでいくのを感じられると、すごくうれしくなるんですよね。

人のほうに向くことが好きなんだな、とだんだん自分がわかってきたのが30代半ばからですね」

また、スタイリストという職業自体、そもそも人への想像力が必要とされる仕事でもある、と平尾さんは語ります。

「ファッションへのセンスはもちろん必要。でもそれだけではダメですよね。モデル、カメラマン、クライアント、多くの人が関わる現場で、『こんなパターンも撮ってみようか!』と急に新しいイメージが求められることもあるし、好みが分かれることだって当然ある。子どもの撮影では『これはやだ!』ってなることも。

いくつかのパターンをシミュレーションして、A案、B案、C案と準備をしていくのは当たり前だし、現場で組み合わせを変えることもあります。服だけでなく、着る人、見る人、作る人のことを考えて、臨機応変に対応していくことが大事だなと思います」

気軽に登録したベビーシッターにハマる!

「ふわふわの赤ちゃんとのふれあいは、仕事といえど癒しです」

そんな平尾さんに、新たな転機が訪れたのがコロナ禍です。対面で行う撮影の仕事は一時期ほとんどがストップ。ステイホームの日々がベビーシッターの仕事に踏み出すきっかけになりました。
 
「高校生の娘も休校措置でステイホーム。0歳から保育園に預けていたから、しばらくは新鮮で『娘とずっと一緒にいられるのって幸せ』なんて思っていたんだけど、ずっと家にこもっているともめることも多くなって(笑)。

スタイリストの仕事がないならバイトでもしようと『50代 バイト』って検索したんです。それでヒットしたのがベビーシッター。考えてみれば、子ども関係の撮影には長年携わってきたし、私自身もシングルマザーで娘を育ててきて、シッターさんに助けられたこともたくさん。『いいじゃん、ベビーシッター!』って軽い気持ちで登録したのが始まりです」
 
平尾さんが登録したのは、ポピンズシッター。子育て経験・保育経験のあるシッターが所属する、派遣型ベビーシッターサービスです。
 
「保育の安全やスキル、月齢ごとの遊びといったひと通りの研修を受けたら、ご家庭とのマッチングスタートです。『ダブルワークをしているので、先のご依頼は受けられません』と明記しているから、本業との両立も問題なし。スケジュールの管理や調整がしやすいシステムなので、無理なく働けています。スタイリストとベビシッターってすごく相性がいいですよ、スタイリスト仲間にもすすめているくらい(笑)」

仕事だけど息抜き! パラレルワークで日々の仕事が新鮮に

シッター歴2年になる今、平尾さんは副業があることで、本業にもプラスの効果を感じているといいます。

「基本的にずっとおうちにいるのがシッターでしょ。おうちや公園で5時間、6時間と過ごしていると、『そろそろ街を見たいな』と思うわけ。スタイリストは展示会に行ったり、プレスを回ったり、百貨店を上から下までリサーチしたりと、撮影日以外は基本的には街をウロウロしているんですね。1日2万歩歩くこともザラ。

だから、お互いがいい気分転換になるというのかな。スタイリスト仕事が続くと、お子さんたちと向き合うゆったりした時間が本当に楽しいし、その逆もまたしかり、なんです」

絵本の読み聞かせや手遊びなどはもちろん、沐浴や離乳食、お昼寝の寝かしつけなども。

「シッターの仕事は、私にとって子育ての学び直しでもあります
カリカリ怒ってばかりのママだったけど、シッターという立場になれば、たとえば子どもが飲み物をこぼしたって全然かまわない。だって私があとで拭けばいいんだもん。乳幼児期の子どもにとっては、こぼすのだって五感を発動するすばらしい刺激。存分にこぼして、さわって、ぐちゃぐちゃにする経験を積むことで、だんだん上手に食べたり飲んだりできるようになっていくわけです。

でも、家事も仕事も抱えながらの子育てでは、なかなかそんな余裕はないですよね。慣れない子育てでいっぱいいっぱいのママ・パパも、私が見ている3時間だけでも肩の力を抜いてくれたらいいな、と思うし、期間限定の数年間でもいっしょにお子さんの成長を喜んで見守る存在でありたい、と思います」

経験豊富なベテランこそ新しいチャレンジがしやすい!

「子育ても一段落した50代だからこそ、身軽に新しいチャレンジを楽しみたい!」

「思い立ったが吉日」とばかりに軽やかに、マイペースにパラレルキャリアを楽しむ平尾さん。「50代は新しいことを始めるのに最高な年代だと思う!」と、力を込めます。

「楽しいな、好きだなと思うことが、年を重ね、経験を重ねるなかでつながって、それが仕事にも結びついたのが今なのかな、と思うんです。同世代の仕事仲間に副業のことを話すと、『興味はあるけれど、本業以外のことは何もできないし……』なんて声も。でも、自分のなかのリミッターを取り払ってみると、意外とこれまでのスキルを別の場所で活かせることも多いんじゃないかな、と思います。
若い世代は、2つ、3つの仕事を持っている人も増えていますね。私の人生もパラレルに踏み出して確実に豊かになっている、と実感しています。

とくに50代って子育てが一段落している人も多いし、もう一度自分に時間をかけられるとき。体力も十分にある!  新しいことを始めるのに絶好のタイミングだと思います」

新しいチャレンジは、変化していく自分に合わせた働き方を見つけることにもつながるのかもしれません。

「大事なのは、心が動いたときに体も動かすこと。
パーソナルスタイリングのお客様でも、『かわいいですね、すてきですね!』と言いながらも、考えすぎて購入の決断ができない人がいます。もちろん無理強いはしないけれど、見ているだけでは永遠にスタイルが完成しないんですよね。変わりたい気持ちはあるのに、変われない。これって値段の問題じゃないな、と思うんです。
『かわいいかも!』で即決して、『家族にほめられた』『会社の人にどこで買ったの?って聞かれた』『おしゃれに自信が持てた』っていうほうが、断然楽しい。変化を起こしたいときには、身軽に直感で動いちゃうことも必要じゃないかな、なんて思います。

私自身も、先のことはわかりません。やってみたいと思うものがでてきたら、たとえば1年後には全然違う仕事を始めているかも! 心が動いたときにすぐに動ける自分でいたいし、そう考えると未来がますます楽しみです」

撮影/千葉 充

取材・文/浦上藍子
出版社勤務を経て、2014年にフリーランスの編集・ライターとして独立。雑誌、ウェブでの記事制作、書籍のライティングなどを中心に活動しています。趣味はフラメンコと韓国ドラマ鑑賞。



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