闘病記(2 2) 「成り行きっス」じゃなかったっス。
入院中に、「どうして看護師になったのか」「介護士になった理由は何か?」といった質問を20代とおぼしきスタッフの人たちにしたことがある。照れて答えてもらえないだろうと思っていたのだがそんな事はなく、しっかりと答えてくれる人が多かった。例えば、「小さい頃からおじいちゃんやおばあちゃんに育ててもらったので、今している事はその恩返しに当たることだと思っています。」とか。「スポーツ1本で学校生活を送ってきて、高校の時に実力の限界を思い知りました。目標が何一つなかったその時、親に今の仕事を勧められました。そういう意味では、完全に親の敷いたレールに乗っかっただけです。でも、今はこれこそが僕の仕事だと思っています。」など。自分の場合は中学校の教師と言う選択をしたが、完全に「音楽業界にデビューするまでの腰掛け」と割り切っていた。「腰かけ」だからこそ、仕事で下手を打つわけにはいかないし、簡単なことで休んだりしてはいけないと思っていた。すべては、ミュージシャンとしてデビューしたときのキャリアになるのだから。今にして思えば、どこまでも馬鹿で怖いもの知らずで、そしてピュアだった。 今回の質問に答えてくれた人の中に「ぼくッスか。」「そうッスね…。」が口癖の男性がいた。それまで誰に質問をしても、とてもまっすぐな(ある種、立派な)答えが返って来ていたので、自分はその彼の口癖にこれまでの人たちとは異なるちょっとラフな回答を期待していた。「そんなもん、成り行きっス。」みたいな。彼に質問をすると、 「そうッスね…。」自分は心の中でガッツポーズをし、「成り行きッス」と言う言葉を待った。しかし、続けられたのは、「幸せはめぐりめぐっているものだと思うんスよ。目の前の患者さんの為を思ってすることが、他の人の幸せにつながっていく。そういうもんだと思うんス。そうやってどんどん広がっていく輪みたいなものの中に、ぼくも入っていたいんスよね。」 それを聞いた自分の表情はさぞや間の抜けたものであったと思う。 「なんだか、偉いんだなぁ…。」としか言えなかった。 自分のことしか考えていないおじさんは、穴があったら入りたかったよ。
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