見出し画像

STAR*18編集長記「誰かがそこで生きていた」

TEXT by Ryotaro Okazaki ILLUSTRATION by yiii

 子供の頃、祖父母が住んでいた古い家の少し薄暗い和室が好きだった。大人から聞く、ここに住んでいたと言う「思い出の人」は、この畳の上で同じ外の景色を眺めていたのだろうか。私はいつも部屋の真ん中に座り、外を眺めていた。そうしていると不思議と誰かと繋がっている気がした。古びた建物は、誰かがそこに生きていたことを伝えてくれていたのだと思う。

「人によって作られたものが朽ちていくのは避けられない。だからよく見ておくのよ」と、昔誰かに教わった。誰が言ったのかは、もう覚えていない。もっと話を聞いておけぱ良かったと後悔するのは、いつも随分時間が経ってからだ。

 だから、変わっていく景色の中でひっそりと残る誰かの記憶を、誰かの夢を、誰かが声にした言葉を、私は知っていたいと思う。

 もう会えなくても、たとえ戻らなくても、刻まれた傷に触れたこの感覚の中で、誰かが今も生きているのだから。

Cover Illustration「刻まれた記憶」by yiii


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?