見出し画像

銀行業務は経理に通じる?

 「銀行に勤めていたのだから経理ぐらいできるだろう」
こう思われている経営者、人事、銀行にお勤めの方、結構いらっしゃるのではないでしょうか。
 
 今回は、この誤解を解きたいと思います。

会計情報への関わり方の違い

 経理は日常的に銀行との関わりが多い部署です。資金調達では大変お世話になりますし、日常的な支払や入金の確認でも銀行の存在なしには考えられません。
 また、会社内部では「とりあえず、お金のことは経理に聞こう」といった認識が一般的なので、「経理→お金→銀行」といった具合に連想ゲームでも容易につながります。
 
 銀行に融資をお願いする際は、決算書をはじめ、会社の状況を書面だけではなく様々な形で開示することが必須です。融資を担当される銀行の方は、それら会計情報を基に融資に関する判断を行っています。
 つまり、銀行員の方々は会計情報を読み解くプロです。その能力は、会計情報を作成する経理以上でしょう。
 しかし、この銀行の役割が大きな誤解の原因です。「読み解くこと」ができれば「作成すること」も当然にできると思われているのです。
 
 経理の私に言わせればこの2つは別種の能力です。
 経理、つまり会計情報を作成していれば、それを読み解けるかというと必ずしもそうではありません。
 もちろん、経理は会計情報を作成しているので、他社の会計情報を見た際にある程度その裏にある取引等の経済活動の実態を想像し仮説設定することはできます。
 しかし、経理は業務上他社の会計情報を多く見る必要に迫られないため、銀行の方と比較すると場数が圧倒的に不足しています。(自社の情報を分析できるのは一つ一つの取引を容易に把握できる立場だからに過ぎません。)

 
 一方、銀行員、つまり会計情報を読み解いていれば、それを作成できるか。これは、経理が会計情報を「読み解く」以上に困難なのではないでしょうか。
 会計情報の作成には「複式簿記」が必須です。「複式簿記」を理解し、日々の取引を「仕訳」に変換できなければなりません。また、「仕訳」のために必要な情報を適時適切に収集する仕組みを構築する能力も必要です。

会計情報を自動車に例えると

 ここで、「会計情報」を「自動車」に置き換えて考えてみます。
 
 経理部は自動車を製造する工場であり、経理担当者はエンジニアや作業員です。同じ経理担当者であっても、その知識や経験、スキルはバラバラです。しかし、各員が協力・分担して工場を安定的・効率的に稼働させて、自動車(=会計情報)を製造しています。
 
 そして、国が求める「確定申告」を代行する税理士(税理士法人)は、「車検」や「定期点検」を行う自動車整備工場・整備士に例えられるかもしれません。(運転しないので細かい相違等はご容赦ください。)
 また、「会計監査」を担う公認会計士(監査法人)は、いま話題の「型式指定」はじめ自動車を販売する際に必要になる様々な審査・認証機関といったところでしょうか。
 
 最後に、銀行(員)をはじめとする金融機関は、自動車を利用するドライバーと言えるでしょう。
 ドライバーにとって、その自動車がどのように製造されたかといったことはそれほど重要ではないはずです。それよりも、どんなデザインなのか。乗り心地はどうか。そして、燃費や安全性はどうか。このような事柄こそが重要です。
 
 「経理」「税理士」「公認会計士」は、自動車の製造プロセスや道具としての構造に焦点を当てています。それに対し、「金融機関」は、自動車を道具として利用すること自体に焦点を当てています。

「経理」と「財務」の違い

 今回提起した誤解は、「経理」という言葉の定義・認識が人によって異なることが根本原因かもしれません。
 「経理」と密接な部門・分野として「財務」があります。先に挙げた資金調達や日々の支払などは、厳密に言えば「財務」業務です。しかし、会社の規模などの事情によって「経理部」が「財務」も行っている場合が多く、厳密に使い分けることもあまりありません。
 その曖昧さと分かりにくさ、説明不足が、「お金」という単純なキーワードによる理解につながってしまったのではないかと思います。
 
 各人の認識の相違が誤解につながり、その誤解によって苦労・苦悩する人や不満を抱える人が生まれます。そういった状況は避けたいものですね。

余談

 ドラマ『半沢直樹』で滝藤賢一さん演じる「近藤直弼」が、出向先の会社で「銀行さん」と呼ばれ馬鹿にされていたシーンを覚えている方もいらっしゃるかもしれません。ひどい扱いだと憤りを覚えた方もいたはずです。
 しかし、経理をやっている者としては、馬鹿にしていた側の気持ちもよく分かります。言葉を選ばず言うならば、「ド素人」が上司になったわけですからね。面白くありません。しかも、唯一期待した「借入(財務)」ですら成果が出ていませんでしたからね(彼の能力が原因ではありませんでしたが)。
 ドラマでは、奮起した「近藤」が不正を発見して痛快な展開となりましたが、転籍前だからできたことかもしれませんね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?