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自分で自分をプロデュース!「オンリーワンの働き方」を作る方法を、フリーランスの熱燗DJに聞いてみた

正解のない、フリーランスとしての働き方。会社員と違い、同僚や先輩がいないため、自分なりの働き方を掴むまで苦戦している新人フリーランスも多いのではないでしょうか。

フリーランスにとって欠かせない作業である確定申告を、「新たな出会い」を生み出すきっかけにしよう!と企画された「円宴縁日(えんえんえんにち)」。イベント当日は、総勢17人の個性豊かなフリーランスたちが集まりました。

▲当日のイベントレポートはこちら→やさしい確定申告×大自然サウナ⁉️解放感と笑いに溢れた、円と宴の縁日

そんな参加者の一人である「熱燗DJつけたろう」さんは、日本酒に対する愛情に溢れた、お湯とフロアを沸かす熱燗DJ。

料理人とのペアリング、酒蔵・行政・地域プロジェクトとのコラボ、酒器プロデュース、日本酒ライター、酒販業や酒蔵へのアドバイザー業……などなど、「日本酒」に関わる様々な活動を行っています。「円宴縁日」では、会場であるゲストハウスLAMPのラム火鍋とペアリングした熱燗の振る舞いをしてくれました。

しかし気になって仕方がないのは「熱燗DJって一体何者???」ということ。イベント終了後に突撃し、つけたろうさんの話を聞いてきました。

この世にまだない肩書きを名乗ることの自由と難しさ、「好きなこと」を仕事にするゆえのオンオフの切り替えの大切さ、駆け出しの頃の仕事の受け方……。フリーランスとして働く上でのヒントが詰まった、つけたろうさんのインタビューをどうぞ。

「熱燗DJつけたろう」の名前のおかげで、自由に動けた

ーー「熱燗DJ」という職業はおそらくこの世でオンリーワンだと思うのですが……。熱燗の店をしよう、ではなく「熱燗DJ」と活動するようになったのはどうしてなんですか?

僕は毎日同じことをするのも片付けも苦手なので、お店は絶対に向いていないと思ったんです。当時、熱燗の専門店がちょこちょこ世に出てきてはいたので、場所に縛られないフリーランスになって全国的に動けたら、めっちゃニッチな需要があるんじゃないかと。

でも僕自身、「熱燗で独立」って意味がわからなかったんですよ(笑)。

ーー(笑)。

熱燗で独立する、でも店をもっていない。となると、イベントをメインで活動するしかなくて。

そうしていざ始めてみたら、意外と全国に細々としたニーズがあったんです。というのも野外で大人数相手に熱燗をつけられる人や、場所や空間に縛られずに熱燗をつけられる人って、なかなかいないんですよね。なので、独立直後は日本各地のイベントに出店しまくりました。

あと、僕は食にも興味があったので、料理と日本酒のペアリング提案もするようになりました。例えば、お寿司15貫に日本酒15種類を合わせるとか。スペイン、フレンチ、中華、カレーなど、いろんな料理に日本酒を合わせる仕事をしてきましたね。

▲円宴縁日でラム火鍋と日本酒を楽しむ参加者たち

ーー昨日のラム火鍋と熱燗のペアリングもおいしかったです。お酒だけじゃなくて、食も絡めて仕事の幅を広げていったんですね。

ペアリングイベントをするようになってからは、もっとおいしく熱燗を飲める酒器も自分でプロデュースすれば作れるんじゃないかと考えるようになりました。

例えば、お酒の元になる酒米を育てている田んぼの土から酒器を作って、その田んぼでとれたお米で作ったお酒を飲む。そんな商品を陶芸家と一緒に開発するなど、いわばお酒を軸にした味覚体験のプロデュースの仕事を勝手に始めちゃったわけですね。

ーー自分で勝手にプロデュース! なるほど、需要があるかわからないなら、まずは自分で仕事を作っていけばいいんですね。

▲円宴縁日のトークセッションにも登壇したつけたろうさん

僕はこんな見た目だし、人前に出るのも苦手じゃないので、メディアに出るタレントっぽい動きも最近はしていますね。今回みたいなイベントに呼ばれるのもそうですし。

独立したての頃は、熱燗一本で死ぬほど頑張ったんです。でも、これを5〜10倍の売り上げへスケールしていくには、ひたすら働かないといけない。それって現実的じゃないなと思って、仕事の仕方を徐々に変えていきました。

ーーそもそも、つけたろうさんってもともとお酒や飲食のお仕事をされていたんですか? どうして独立しようと思ったのか、気になりました。

もともと、9年ほど会社員として働いていたんです。上場企業でマネジメントの仕事をしたり、事業を立ちあげて事業責任者をしたり、紆余曲折ありながら複数社で働きました。「(精神的な疲れもあって)会社員はやりきったな〜、もう違うことをしたいな」と思った時に、ハマっていたのが熱燗だったんです。なので「よし、熱燗で生きていこう!」と独立しました。

ーーえっ、もともとお酒の仕事をしていたわけじゃないんですね!

そうです。でも、僕は二十歳の頃から日本酒がずっと好きで、これまでとんでもない量のお酒を飲んできたんですよ。山梨に移住したのも、サラリーマン時代、家にお酒を置ききれなくなったからなんです。

ーーなるほど……。でも、どうして「燗つけ師」ではなく「熱燗DJ」と名乗り始めたんですか?名前の由来が気になります。

「熱燗DJつけたろう」は、友人が酔った勢いで思いついた名前。だから名前にこめてる意味とか何もないんです(笑)。DJと名乗ってはいますが、ターンテーブルは触ったことすらありませんし。

ーー練りに練って考えた名前だと思っていました。酔った勢いだったんですね!(笑)。

でも、今はこの活動名をつけて本当に良かったなと思っています。

▲愛知県常滑在住の磁器作家・小池夏美さんとコラボした、燗酒が最高においしく飲める平杯。
自身のオンラインショップ「つけたろう酒店」で販売中

というのも、僕は今、酒器やお酒、お酢を作ったりもしているので、もし「燗つけ師」と名乗っていたら、「燗つけ師なのに、なんでお酒のプロデュースなんかしてるの?」と言われてしまったと思うんです。ふざけた名前を名乗っていたおかげで、何をしても、何も言われない。

ーー名前のおかげで自由に活動できた。

そうです。ただ、前例がないから受け入れられづらくもあり、一長一短でしたね。活動を始めたばかりの頃は酒蔵で名刺を渡すたびに「熱燗DJ……?」と怪訝な顔をされました。酒蔵を訪問するお願いを断られたり、中に入れてもらえないこともたくさんありましたし。

ーーそこからどうやってお酒の世界に入り込めるようになったんですか?

理由は、大きくわけて二つあります。一つは、世間的にプロとして認められたから。愛知にある澤田酒造という酒蔵さんが、蔵開きの日に熱燗のプロとして僕を呼んでくれたのが転機でしたね。

もう一つは、第一印象がマイナスだから、そこからはもう上がるしかないんですよ。初めは「熱燗DJ?なにそれ?」と思われても、いざ話をすると「こいつ、ふざけた名前なのにお酒のことちゃんと知ってるな」と思ってもらえる。話していてお気づきかと思いますが、僕は根がくそまじめなんですよ。

ーー最初は「どんな方なんだろう……」とドキドキしていたんですが、まじめな人柄がビシバシ伝わってきています。

印象の振れ幅が大きい分、信用度も高くなるんです。僕は見た目もキャッチーにしているので、名前と相まって忘れられないですし。ただ、意識的に奇抜な自分にしようとは思っていなくて、あくまで好きなようにしています。そうじゃないと続かない。

心と身体が乖離しないよう、体力と気力を分けて考える

ーー好きなようにしないと続かない、というのは?

無理して奇抜なキャラクターを作って、「活動」と「心」が乖離してしまうと、やっていけなくなっちゃうからです。好きで始めたはずなのに、心や体を壊して続けていけなくなるのが一番もったいない。

僕はサラリーマン時代、精神的にまいってしまい二回休職したことがあるんです。それから独立したての頃、とにかくお金がなくて死ぬほど働いていた時期もある。その時に「これじゃあ続かない」ってわかったんですよ。

ーー私もフリーランスになったら、休み方のバランスがわからず困っていて……。つけたろうさんは、オンオフの切り替えはどうしていますか?

僕は、家の中と外で完全に別れていますね。家に帰ると「オフたろう」です。

ーースイッチを完全に切っていると(笑)。

▲イベント中、サウナ後の外気浴で「オフたろう」に

「つけたろう」のままでいると、頭がフル回転になっちゃって眠れないんですよ。仕事のパフォーマンスを上げるために、オンとオフを明確に切り替えるようにしています。

でもこれはパフォーマンスのための切り替えの術だから、少し違うかな。仕事のバランスという話だと、体力と気力を分けて考えることが大事ですね。

若いと体力が空になっているのに気力だけでいけちゃうから、気づかずに体を壊しがちなんですよね。逆も然りで、体力がある分、気力はとうに尽きてるのに仕事を続けられてしまって、どこかのタイミングで精神的に崩壊してしまうこともある。

体力は、シンプルに休息が必要ですね。気力に関しては、回復の仕方が人によって違う。一人で読書がいい人もいれば、友達とご飯がいい人もいる。

ーーそれぞれの残量を意識してバランスを考えた方がいいんですね。

僕は、最近はようやくそのバランスが取れるようになってきました。今のスケジュール感の中で、どういう仕事の仕方をすれば気力と体力を継続して保てるかがわかってきた感じです。

自分のキャパや向き不向きを最短で見つける大事さ

▲オンラインショップ「つけたろう酒店」では、まだ世にない特別な日本酒が隔月で届く会員制のサービスを展開中

ーー駆け出しだと、バランスのいい仕事の入れ方がわからないと悩むフリーランスの人も多いと思います。

僕個人の意見としては、初めはどんどん仕事を入れちゃっていいと思います。とにかく一旦なんでもやってみて、自分のキャパを知っておくのが大事なんじゃないですかね。そもそも、フリーランスとしての働き方が自分の性に合ってるかを最短で見つけた方がいい。向き不向きがある働き方だから、早めに気づけた方がいいと思います。

ーーそもそもフリーランスの働き方が向いているかどうか、独立したてだとわかりませんよね。

どういう仕事を受けると、どういう風に自分の気力が減るかを理解するためにも、まずはとにかくなんでもやってみるといい。やりたくない仕事を受けると気力が減るんですよね。逆に、めっちゃ楽しい仕事はあんまり気力が減らない。

僕も独立したてで色々やってみたことで感覚がつかめてきたので、今は「気分が乗らない仕事は受けない」という方法を取っています。

ーー気分が乗らない段階で受けないと決めちゃっていいんだ!

そうです。お金をいっぱいもらえるけど楽しくなさそうとか、思ってもないことをPRする仕事ってつまらないんですよ。気持ちが乗らないと、どんなに頑張っても100%のパフォーマンスが出ない。そういう案件は、お金はある程度もらえたとしても一発で終わってしまう。

ーー無理してなんとかやっても、結局先に続かない……。

逆に、お金は全然もらえないけど、めっちゃ面白そう!って気持ちが乗ったら、100%のパフォーマンスができる。そうすると、その人が恩を感じてくれたり、「つけちゃんよかったな」って思ってもらえたりして、2〜3年後にその仕事が大きくなって返ってくる。100%のパフォーマンスの仕事ぶりを見た人から、「よかったらうちでも」って声が掛かるとか、なにかが起きるんですよね。

https://twitter.com/atsukan_dj/status/1644749198968131584?s=20

▲日々、日本各地で熱燗プレイしているつけたろうさん


ーー仕事が、また次の気分が乗る仕事に繋がる。理想的なサイクルですね。

ただ、時間や身体の余裕があるのに断るのは独立1〜2年目だと悩んじゃう部分だとも思います。「もう無理、受けられない!」となるまで、まずは一旦、全部受けてみるといいんじゃないかな。

「向いていないから断る」と考えてしまうと、心にブレーキがかかってしまって一歩踏み出しづらくなってしまう。だからポジティブな部分に目を向けた方がいいですよ。「あ、自分卑屈になってる!」と思ったら、反転してしちゃえばいいんです。

ーー反転、ですか?

「向いていないから断る」じゃなくて、「自分が最大パフォーマンスを出せる領域を把握して伝える」ことをすればいいんです。

例えば、僕に「お酒の飲み方マナー講座」みたいな仕事がきたら、「僕は酒なんて気軽に飲めればいいと思っているから、それは僕の仕事じゃないです。僕は酒をエンタメにして楽しんでもらうのが得意です」と伝える。自分の強みをわかっている人の方が信頼できるし、一緒に仕事をしたいと思ってもらえるから、また別の機会で仕事につながるかもしれない。

ーーそうか、「私はこれができない」じゃなくて、「私はこれが得意です!!」をプッシュしていけばいいんですね。

苦手なことはアウトソースしてもいい

▲円宴縁日で領収書の山に向き合うつけたろうさん

ーーつけたろうさんは、独立して五年が経ちますよね。今でも不安になったり悩むことはありますか?

全然ありますよ。お金の不安はついてまわりますね。補助金を取りに行くとか、行政系の書類を作る、メールをする、そういう事務作業も大嫌いです。サラリーマン時代に比べて、得意なスキルがめっちゃ尖った分、他の苦手な分野が壊滅的になっちゃった。

だから、今は次のフェーズに入る頃だなと思っています。これからは、苦手な領域をプロにアウトソースしていきたい。

ーーフリーランスになってから今までは、どういうフェーズを経てきたんですか?

大きく分けて三段階あります。一段階目が、パンクするまでなんでもやる「ガムシャラ期」です。僕の「ガムシャラ期」が終わったのは、風邪をひいて鼻がつまった時でしたね。熱燗って、温度を決めるときに香りを嗅いで香りの変化を見るんです。だから、匂いがわからないって致命的なんですよ。

そこで初めて「熱燗一本で生きていくのってリスクじゃん」と気づいて、酒屋や商品開発など、事業の幅を広げました。これが「拡張期」

ーーそして今、自分の強みがわかって余裕もできて、苦手分野を手放すフェーズに?

それもあるし、これまでそれぞれのスキルを研ぎ澄ましていた段階から、持っているスキルを掛け合わせて「複合職」になりだした時期ですね。

ーー複合職というと、どういうお仕事をしているんですか?

例えば、僕が今、愛知県の半田市観光協会でしているお仕事は「プロデュース」×「ペアリング」×「タレント」ですね。

半田市の位置する知多半島にはたくさん酒蔵があるんですが、地域の調味料や食材を僕が掘って、地酒とのペアリングを考えてレシピを納品するんです。そして、タレントとして酒蔵や町に取材にいって記事を書いたり、音声コンテンツやSNSで発信する、という地域の食の再編集みたいなことを企画&提案して、プロジェクトにしながらお仕事をさせていただいています。

ーーそれぞれのスキルが合わさって、「熱燗DJつけたろう」にしかできない仕事に。

「点」だったスキルがだんだん「面」になった感覚がありますね。それがさらに「立体」になり始めた。そうなってくると、いわゆる同業のライバルはいなくなっていくんです。

でも、求められるクオリティも唯一無二になってくるので水準も上がる。そんな中で、自分が苦手なことに時間と手間をかけてる暇なんてないんですよ。

ーーフリーランスとしてのフェーズとは別に、つけたろうさんがこれからしたいことはありますか?

「熱燗のカルチャー」を作ることです。ビールなら、「オクトーバーフェス」があるじゃないですか。アートや音楽と絡めて、「日本酒を飲むのがイケてる」みたいなカルチャーを作りたいです。……いや、ちょっとかっこつけました。やりたいことはないです。

https://www.facebook.com/pigkenzo/posts/pfbid02jrRzg8Sx2XN89iPpNT2DD9kTgYrwy5FamnWvw3Uo1BJAqA7Yf6r7aeFxV3Ek6M25l

来てくださった方、応援してくださった方、心配してくださった方、本当にありがとうございました。 3/18(土)に予定していた熱燗フェス「KAN KAN...

Posted by 吉田 研三 on Thursday, March 23, 2023

▲今年の3/18には、つけたろうさんが主催する熱燗フェスを東京・下北沢で開催


ーーえっ、ないんですか?

ただその時の自分がしたいことをしているから、これからやりたいことはないんですよね。世の中がどうなるのか、お酒の未来がどうなるのかはめっちゃ考えますよ。でも、自分がどうなるのかは考えられない。確定申告の準備すら終わらない計画性のないやつが、何か考えたところで達成できないですから。

ーー私も計画性がないタイプなのでちょっとわかるかもしれないです。先のことを考えたところでな、と思ってしまうので、あまり夢や目標がなくて。

先が見えて、「こうしたらうまくいく」がわかっちゃうと、飽きちゃう。こうすればうまくいくってもうわかっているのに、なんでこれをしないといけないんだろう?ってしたくなくなってしまう。だから、常に予測できない未来を自分の前に置き続けたいですね。

ーー私の不安も少し軽くなった気がします。つけたろうさん、今日はありがとうございました。

☆円宴縁日の当日の模様はこちら


執筆:風音
編集・撮影:友光だんご(Huuuu)

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