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「無駄づくり」藤原麻里菜×「途中でやめる」山下陽光 フリーランスならではの悩みとの向き合い方

年収は高いほうがいい。貯金はあればあるほどいい。お金を持っていればいるほどいい――。いまの社会のなかで、働くこととお金について考えてみようとするとき、当たり前のようになっているそんな価値観があります。しかし一人ひとりに合った働き方や生き方の形は、必ずしもその価値観の中だけに存在するわけではありません。
頭に思い浮かんだ不必要な物をつくる「無駄づくり」主宰の藤原麻里菜さんと、リメイクブランド「途中でやめる」を手がける山下陽光さんは、生産性や効率性といった観点からは「不要なもの」とされる価値観を屋号に掲げながら、お金を稼ぎ、暮らしを成り立たせています。そんな二人に話を聞いてみることで、今よりも自分がもっといきいきと働けたり、我慢や無理をしないで暮らしていけたりするような労働やお金との付き合い方のヒントが見つかるかもしれません。
独自の働き方、お金の生み出し方について話した前編に続き、後編では事務作業や仕事の依頼への対応の仕方、仕事と生活の心地良いペースをどのようにつくっていくかなど、フリーランスをしていくうえで向き合うことの多い話題について、語っていただきました。

freeeの機能があったから会社設立も簡単にできた(藤原)

─フリーランスのなかには、お金にまつわる実務や事務作業が苦手な方もいると思うのですが、お二人はいかがですか?
藤原:
会計士さんにお願いしている部分もあるんですけど、基本的に帳簿をつけたりするのは、freeeを使って全部自分でやっています。クリエイティブや事務作業など、いろんな方向に脳みそを使い分けることで、頭の中のバランスが取れて、自分を保てている部分がありますね。クリエイターは一つのことに集中したい方も多いと思うんですけど、私はいろいろなことをやりたいタイプなんです。

─いろいろなこと」に創作活動だけじゃなく、事務作業も含まれるんですね。
藤原:確定申告や経費を計算する作業はすごく好きですね。学生の頃はあんまり勉強もできなかったし、数字にも苦手意識があったんですけど、やってみると案外楽しくて。

左から藤原麻里菜さん、山下陽光さん

─藤原さんは法人化されていますが(株式会社無駄)、freeeの機能で会社設立に必要な書類が案外簡単にできることがわかって会社をつくってみたそうですね。
藤原:会社をつくる工程も楽しくて。法務局とか監査局とか、普段行けないところに行けたし、電子定款のデータが入ってるCD-Rをもらって保管しなきゃいけないこととかも、どれもが面白くて。自分のものづくりもそうなんですけど、その先どうなるか考えずに、とりあえず手を動かしてみるのが好きなんです。

─山下さんはいかがですか?
山下:全然だめです。メールを返すのも嫌だし、「プロフィールを送ってください」って言われただけでも仕事をしたくなくなるぐらい(笑)。つくることと、その周りのこと以外は、本当は誰かに全部お願いしたいです。妻がやってくれている部分もあるんですけど、どうしてもやらなきゃいけないことは、大体自分にしかできないんですよね。

─「嫌だな」と思うタスクがあるときは、どうしていますか?
山下:「わかりました!」って引き受けるんだけど、やらない(笑)。それで依頼してくれた人に申し訳ないなとずっと思いながら暮らしています。

藤原:私は逆にやらないっていうことができないですね。もやもやするから、メールも見たらすぐに返信しなきゃと思っちゃいます。それはそれで、なんだかだめな気がするんですけどね。

失礼な依頼や、仕事でもやもやすることがあったときにどうしてる?

─山下さんはそもそも「受けない」という選択肢をとることもあるんですか?
山下:断ることも結構多いですね。だって依頼ってずるくないですか? 1回も会ったことがないけど、向こうは俺のことを知ってて、「2万あげるからやってみる?」みたいなことを言ってくる。なんでやらなきゃいけないんだ? って思いますよ。

藤原:そういう考え方もあるんだ。

山下:ひどい依頼もいっぱいあるんですよ。会ったことがないスタイリストの人から、有名なタレントが着るかもしれないから服を送ってくれと連絡をもらって送ったのに、「すいません、使いませんでした」って言われたりすると、なんなのこれ? って。
向こうはなんなら、100人に同じようなメールを一気に送れちゃうわけじゃないですか。昔だったらそういうお願いって、会わないとできなかったはずだけど、会いに行く労力を使うでもなく、100人に送ったうちの2人くらい釣れたらいいか、くらいに思っているかもしれない相手に、返信をしないがために、悪いことをしているような気分になったり、「傷つけないように、断りメールを考えなきゃ」って思わされたりすることがすごく嫌なんですよね。

藤原:私は初めましての人からメールが来るのは、知ってくれているんだなと思ってすごく嬉しいんですけど、たまに明らかに他の人に送ったメールのコピペが送られてきて、宛先が私と似たようなことをやっている人の名前になってることがあって。そういうときは「あ、この人に振られたから私に連絡がきたんだな」って思いますね。

─仕事の中でそういうもやもやすることがあったとき、どうしていますか?
山下:僕は家族や同業の友達に「こういう依頼がきたんだけど」って共有したりはしますね。
 
藤原:私も夫に愚痴ります。まったく違う職業だから、前提がまずわからないので、説明しているうちに言語化されて結構すっきりします。

山下:あと、やりたくないけど、ギャラがめちゃくちゃいい依頼もあったりするじゃないですか。本当はお金があんまり入らない方の依頼をやりたいけど、こっちにイエスって言ったらめちゃくちゃ金が入ってくるんだよな、みたいなことで結構苦しむというか。藤原さんも僕も先輩がいる業種じゃないから、そういう謎の依頼を断っていいものなのか、未知すぎるんですよね。

藤原:それ、すごく悩んでいて。お金をもらってものづくりができるから、広告系の仕事って好きなんですけど、あんまり自信がなくて。マーケティングをやっている人と違って、バズる仕組みをまったくわかっていないので、広告の仕事でバズることを期待されていると怖いんです。あんまり期待されてない仕事の方が、のびのびできるところはあります。無駄づくりもすごく好きなコンテンツなんですけど、最近は無駄な時間をつくることや、無駄なことをしてみることにも興味があって。そっちの方もどうにかできないかなと思っていますね。

─興味が移ってきたのはどうしてですか?
藤原:一昨年に、不安障害という病気になったんです。多分仕事で忙しくしすぎたんですよね。そのときになにか無駄なことをしようと思って、寿司の握り方を学びに行ったりしたんです。そうやって自分の未来には関係がないことをいろいろしていたら心に良かったので、そういうことをもっとやりたいなと思っています。

死ぬほどお金を持っていなくても、死なないくらいの貯金さえあればいい(山下)

─山下さんは、仕事と生活のペースについて、いまはどういう状態でいると心地良いですか?
山下:僕がアイデアを考えて、手を動かしてくれる人にお願いして大量に服をつくったら、いくらでも儲かる気がするんですよ。でも、そういう生活をしたいかというと、別にそうじゃなくて。死ぬほどお金を持っていなくても、とりあえず死なないくらいの貯金さえあればよくて、お金がなくなったり、しばらくなにもしてないなと思ったりしたら働くか、みたいな感じでいるのがいまはちょうどいいですね。

─お金はあるだけあった方がいいし、ないと不安になるからもっと稼がなければと思っている人も少なくないと思うのですが、山下さんがそうは思っていないのはどうしてですか?
山下:いよいよやばくなってから焦ればいいだけなのに、そういうふうに思う人は8億円あげたところで、「7億になったらどうする」って一生言い続けるような気がしますね。本来仕事って、自分が働くことで誰かを助けられているから、お金が入ってきているわけですよね。でも「お前この仕事をやっとけよ」って指示を出す人が一番お金をもらっていて、指示されている人がどれだけ頑張っても指示している人を超えることは絶対ない。その歴史がずっと続いているんですよね。
いまは自営業がやりやすい時代だし、スマホっていう便利な装置ができて、誰がなにをやっても大コケはしないはずだから個人で起業することもできると思うんだけど、みんな「ちゃんとしないとだめ」っていう教育を受けて育ってきたから、そうは思えない。「俺もちゃんとしてないけど食えてるし、大丈夫だから」っていくら言っても、自分でやらないとわからないですもんね。

藤原:自分でやらないとわからないことってありますよね。最近、自分ではやっていないのに口を挟んでくる外野からの圧がすごいなと思います。たとえばお蕎麦屋さんをやりたいという人がいたときに、「そんなの儲からないよ」とか、すごく嫌なことを言ってくる野暮な人が増えた。SNSを見ていると、自分でやったことがあるわけじゃないし、言ったことに責任を持つわけでもないのに、他人に対して無責任でいられないというか。そういう人が増えている気がします。

─失敗を恐れている人ほど、人にもそう言いたくなるのかもしれないですね。
藤原:なにが失敗かなんて、わからないと思うんですよね。私、多分はたから見たらめちゃくちゃ失敗してると思うんですけど、自分の中では失敗した感じがしていなくて。これはだめだったな、合わなかったなっていう経験はいっぱいあるんですけど、それも失敗だと思っていないんです。私が会社をつくったことも、もしかしたら失敗だったかもしれないです。いろいろ面倒くさくて、自分に合ってないんじゃないかと思うこともあるし。でもとりあえずは、本当に嫌になるまでやってみようかなって。

集まってなにかをするというより、集まっていることでなにかが生まれる(藤原)

─最後に、フリーランスを始めたばかりの人に、アドバイスがあれば伺いたいです。
藤原:横のつながりをつくるのが早ければ早いほどいいんじゃないかと思います。最近、同じように役に立たないものをつくっている知り合いに声をかけて、8人ぐらいでグループを組んだんです。Discordにグループのチャンネルがあって、仕事であった嫌なことをそこで共有したりもしています。

─どうしてグループをつくろうと思ったんですか?
藤原:私は明和電機さんを先輩だと思っているので、相談することもあるんですけど、もっとライトなものづくりをしている層の横のつながりがないから、みんなで固まろうと思ったんです。集まったみんなでなにかをしようというよりは、とりあえず集まっていることでなにかが生まれるんじゃないかなって。

山下:クリエイティブ系は「俺が俺が」って別々にいたがる人も多いけど、ユニオンみたいなものは絶対にあった方がいいですよね。

藤原:フリーランスって、一つの芯を持ってやる人もいると思うんですけど、ころころいろんな興味のほうに転がっていって、いつの間にかどんどん大きくなっている場合も多いと思うんです。私の場合も、あちこちに行って、「やっぱりこっちの方がいいな」みたいな感じでやってきたので、隣に誰かがいてくれた方が、いろいろなことが相談しやすかったり、嫌な思いをせずにすんだりするような気がします。フリーランスってホームがないじゃないですか。それが結構怖いところだと思うんです。

─個人事業主だからといって、一人で頑張らなくてもいいというか。
藤原:ライバルをつくらない方がいいと思うんです。似たようなことをやっている人が少ないからこそ、フリーランスになったという人も多い気がするので、ニッチな職業であればあるほど、仲間を見つけて一緒に成長していけるといいんじゃないかなと思います。

<プロフィール>
藤原麻里菜

1993年生まれ。コンテンツクリエイター、文筆家。
株式会社 無駄 代表取締役。
2013年から頭の中に浮かんだ不必要な物を何とか作り上げる「無駄づくり」を主な活動とし、YouTubeを中心にコンテンツを広げている。
2016年、Google社主催の「YouTubeNextUp」に入賞。2018年、国外での初個展「無用發明展- 無中生有的沒有用部屋in台北」を開催。25000人以上の来場者を記録した。2021年「考える術(ダイヤモンド社)」「無駄なマシーンを発明しよう(技術評論社)」を上梓。
「総務省 異能vation 破壊的な挑戦者部門 2019年度」採択/「オンライン飲み会緊急脱出マシーン」文化庁メディア芸術祭エンターテイメント部門審査委員会推薦作品に選出/ 2021年 Forbes Japanが選ぶ「世界を変える30歳未満」30 UNDER 30 JAPANに選出される。青年版国民栄誉賞TOYP会頭特別賞受賞。
Webサイト:https://fujiwaram.com/
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCHFvKf-ATrhs3jbjj793N6w
Instagram:https://www.instagram.com/mudazukuri/
X(Twitter):https://twitter.com/muda_zukuri

山下陽光

1977年生まれ。【途中でやめる】という名前で洋服をリメイクしたり、作ったりしてます。学校を卒業する頃から景気悪くなるぞー、なったぞ、今年が今までで1番景気悪いってのを更新し続けてて、コラー、このヤローとか言いながらいよいよ洒落にならないくらいの不景気と絶望!どうしてくれんだ!バイトやめんだよ!で、『バイトやめる学校』って本を2017年に書きました。
途中でやめるショップ

執筆:松井友里
撮影:山本佳代子
編集:野村由芽(me and you)


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