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コラム『誠実な仕事を重ねるために、必要なレビュー』

ブランディングというと、「イメージの良い広告を打つこと」。そう捉えられている節がありますが、本質ではありません。誠実な仕事を積み重ねること。それによって信頼関係が長く続く状態が、ブランディングの本質です。

自社に期待されている質を提供するために、仲間にでも耳の痛い「ダメ出し」をしなければならない場面が多々あります。「ダメ出し」が一番気が重い。期待するクオリティに届いていない時、あなたは相手にどう伝えていますか?

「ダメ出し」は、する方もされる方も嫌なもの。できるなら、避けたいです。場合によっては相手の人生を変えてしまったり、恨まれて敵を作ってしまったり、損な役回りですから。でも、相手に修正してもらわなければ、望む成果が出せなかったり、自社の信用を毀損し続けるので、何らかの手は打たないとなりません。

フリーランスの世界でよく使われる方法は、「フェードアウト」です。納品後「ありがとうございました!またよろしくお願いします」と笑顔で別れながら、次回は呼ばれない。誰しも経験がありますよね。二度とリピートされないパターンです。これが双方に負担が少ない。曖昧ですが、日本人に合う方法として、多用されています。

例えば、劇団ひとりさんがメインキャスターとして始まった報道番組でも、そうだったようです。何ヶ月かはメインキャスターを勤めていたのですが、ある日「劇団さん、ちょっと立ち位置ずれてもらって...」と端っこに立たされました。「池上さん、もうひとつ隣へずれて」という感じで、気づいたら池上彰さんがメインになって、劇団さんはほんの少しコメントをする程度の脇役になっていた。そして次第に、収録自体に呼ばれなくなり、フェードアウトということです。

その間、一度も具体的に「ここがダメだから、修正してもらえないか」とか「外れてほしい」という相談はありません。ダメだと指摘すると角が立つので、お互いの心を守るためにぼやかすのです。

「このプロジェクト、予算が出なくなって終了するから」と告げられて、残念だけどしょうがないなぁと解散を受け入れた。でも、そのメンバーのSNSで漏れてきて気づいたんだけど、実は自分以外のスタッフそのままで続いていた、なんて話もあります。予算削減になったのは本当なんだけど、そこで誰を外すかという時に、角を立てたくなかったのでしょうね。

でもこれは悪手で、ちゃんと事情をみんなに説明して、みんなで考える時間を持てばよかった。「そんな事情なら、自分はボランティアでもやりますよ」というメンバーがいるかもしれないし、「みんなで20%ずつ報酬を下げて乗り切ろうか」とか、団結する方法はあったかもしれない。

これまで会社員であれば、上司から白黒はっきりした正直なフィードバックが受けられましたが、これからは違います。複業やジョブ型雇用が一般化し、これから会社員でもフリーランス的になっていきます。部下を長期的に育てようとは思わないし、ダメ出しも一歩間違えると、パワハラで訴えられるリスクもあります。

人材が流動化しているので、会社を辞めても別の職場で会う可能性もけっこう高い。切った、切られたみたいな遺恨を残すと、今後別の仕事で会った時にやりづらいです。生存戦略としては、曖昧に笑顔でやり過ごすほうが理にかなっているわけです。

「外れるのはカズ、三浦カズ」

当落を曖昧にできないサッカー日本代表選考は、監督が嫌われ役を背負って、伝えねばなりません。責任者は落選理由まで問われるので、言葉を慎重に選びながら本人と周囲を納得させる必要があります。

というわけで今、正直なフィードバックをもらえるところはありません。フィードバックは、もはや自ら積極的に手に入れに行かなくてはならなくなったのです。ここ5年くらいで感じている変化は、本気で仕事として高みを目指しているメンバーは自由大学の講義でも、自分のプレゼンに対して改善点の指摘を求める傾向が見られます。講義では、「いいね、いいね」の良い講評だけで終わらせると「物足りない」というのです。「悪い点、改善すべき点もぜひ教えてください!」とストイックに食い下がり、妥協をよしとしない。

周囲は誰もダメ出しをしてくれないので、「今や学校でしか正直なフィードバックが期待できない」というのです。さらなる高みを目指すなら、現状でよしとせず自己修正し続けなければなりません。耳の痛いレビューをしてくれる人こそ、そばに一人は置いておきたいものです。

TEXT:自由大学 学長 深井次郎 (自分の本をつくる方法教授)

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