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神様が死んだ日

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この短編小説は、小説家コミュニティ内で題名だけ指定されたものを、1000文字以内の制限を設けて創作したものです。
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「ケンケンパッ!ケンケンパッ」
「パパー!はやくはやくー!」

「わかったわかった!」

少し遅めの初詣。僕は妻の手を取り、愛娘が振り返る階段を愛おしく眺めた。
僕と妻、もうすぐ6歳になるひなたの3人家族は、ゆっくりとのぼり、凹の形になってお参りをした。


「パパ!なにお願いしたのぉ?」
「えー、内緒だよー!ねっママ!」
「願いごとは言わない方がいいって言うしね。ひなたも内緒だよ。」

なんてことはない。

家族3人、慎ましく健康に暮らす毎日をお願いしただけだ。
今年はひなたが小学校に入学する。親バカではあるが、元来元気で人気者の娘のことだから、きっと友達もたくさんできることだろう。

親の不安なんかどこ吹く風で、幸せな毎日が続くと思っていた。


そんな時だ。誕生日を数日後に控え、ケーキを買いに出かけた妻とひなたの歩く歩道に、鉄の塊がつっこんできた。
チューリップが咲く温かい昼下がりだった。

妻は自分を責め、僕は行き場のない怒りを妻にぶつけた。
うつろな目で会社から帰ってくると、出番を失った赤いランドセルが玄関で埃を被っている。


半年以上のあいだ、僕と妻はすれ違い、しだいに僕は、出張と偽ってホテルに入り浸るようになった。
 
いつも僕の心の支えはひなただった。

ランドセルを背負って小学校への期待と喜びで、今も笑顔で語りかけてくる。
その日も指をスライドさせると、不揃いなひらがなで「サンタさんへ」と書かれた「ほしいものりすと」がでてきて、欲張りな愛娘に一番ほしいものを選ばせた1年前の記憶が蘇ってきた。

そして僕は気がつくと、「ほしいものりすと」を上からポチポチとし始め、ためらいながらも妻の番号をタップした。


「ひなたの欲しかったものを買っちゃったよ。今の僕らをみたらなんていうかな?僕は今まで逃げてたんだ。悪かった。やり直そう」

そして続けた。

「僕らのささやかな願いを叶えてくれない神様なんてもういらない。本当に死んだのは僕たちの天使を殺した神様なんだ」

それから半月が経ち、神社を横目に見ながら妻と並んで歩いている。

(ケンケンパッ・・・・・・ケンケンパッ)
今年も誰かが願いを捧げている気配がする。

「これからは二人の足で歩いて行こう。僕らはもう神様なんて信じない。すがる神がいないことが怖いんじゃない。ひなたとの思い出が風化してしまうことが怖いんだ。」

でも妻と一緒なら乗り越えられる。
今年の僕らは、願いではなく誓いを刻んだ。
(996文字) 

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次の週末は「手紙が来た」という内容で執筆予定です。

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