落語『蒟蒻問答』とデリタの『聞き手(読み手)中心主義』
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最近、世の中的に『受け手がどう思うか。』に重点が置かれすぎているような気がしています。発信者がどういう意図だったのか、ということよりも受け側がどうとらえたかが正になっているような感じです。
『受け手がどう思うか。』ということを面白おかしく語る『蒟蒻落語』というものがあったり、西洋には受け手中心の考え方ともいえるデリタの『脱聞き手(読み手)中心主義』という考え方があったりと、意外にも同じような考え方は以前からあったようです。
このNOTEでは、落語『蒟蒻問答』とデリタの『聞き手(読み手)中心主義』を引用し、『受け手がどう思うか。』にフォーカスした話は昔からあったことを説明しつつ、現代においても結局は『受け手がどう思うか。』という状況であることは変わっていないことを書きます。
✅1、落語『蒟蒻問答』
落語『蒟蒻問答』は、古典落語の1つです。豆腐屋の主人と修行僧のやりとりを面白おかしく表現した物語です。
あらすじはこうです。
あるところに、豆腐屋の家にやっかいになっている男がいました。『ずっと遊んでいてもしょうがない。』と一念発起してお寺の和尚になります。しかし、その男は、和尚になっても酒を飲んでばかりで、お経すら読めませんでした。
あるとき、他のお寺から修行僧がやってきます。聞くと『禅問答をしたい。』とのことでした。お経すら読めない男は、『自分は下っ端でトップの和尚は留守だ』と嘘をつきます。
修行僧は『であるなら、戻ってくるまで何度でも伺います。』と言いました。男が困っていると豆腐屋の主人がやってきて『私が和尚の格好をして代わりに問答しよう。』と提案してくれます。
次の日、修行僧がやってきて和尚の格好をした豆腐屋の主人に質問をしていきます。当然、豆腐屋の主人は質問の内容が分からないのでずっと黙っています。修行僧がなんとか身振り手振りで伝えようとすると、豆腐屋の主人は訳の分からない身振り手振りをします。
修行僧は、豆腐屋の主人の訳の分からない身振り手振りを『これはありがたい禅の教えだ。』と都合良く解釈し、気持ちよく帰っていきました。実は豆腐屋の主人は、豆腐屋の主人が豆腐の文句を言ってきたと勘違いおりそれに答えていただけでした。
これが、落語『蒟蒻問答』の概略です。
訳の分からない身振り手振りをしていても、受け手の解釈によってありがたい教えにも変化してしまうのです。結局は受け手の解釈次第です。
✅2、デリタの『聞き手(読み手)中心主義』
落語『蒟蒻問答』と同じような考え方は近代西洋哲学でも見つけることができます。デリタは19世紀〜20世紀を生きた西洋の哲学者です。『聞き手(読み手)中心主義』という考え方を打ち出した方です。
コミュニケーションとは、話し手が何かしらの意図を持って話し、聞き手がその意図を理解しようとする作業です。これまでは、話し手の意図がどんなものかということに重点が置かれていましたが、デリタはその重点を逆転させます。結局、聞き手がどう解釈したかということが重要であると説いたのです。
例えば、本を読むことを思い浮かべてください。私たちは文字から書き手の意図を推測します。筆者に会うことができれば、『この本に書かれている意図は〇〇ということでしょうか。』と質問することができます。しかし、筆者がすでに亡くなっている場合はどうでしょうか。もはや、意図を確かめることができません。このとき、読み手の理解がどうであったかが重要になり書き手と読み手の重点が逆転するのです。
『文字通り、辞書通りに解釈すれば書き手の意図を正しく理解することができるのではないか。』と考えたとします。しかし、これでも書き手の意図はとらえることができないのです。例えば、『めんどくさい』という言葉が出てきたとします。人によって『めんどくさい』の意味は異なります。『やる意味のないこと』『やる意味はあるがその過程が煩雑なこと』『自分が感情的に受け付けないもの』など人によって、また、同じ人でも状況によってその言葉の意図は様々に変化します。
文字通り、辞書通りに解釈したとしても書き手の正しい意図に到達することはできません。
現代におけるハラスメントも『聞き手(読み手)中心主義』である傾向が強いと思います。言う側がどのような意図で言ったかは関係ないのです。聞き手がどう感じるかに重点が置かれています。判断は第三者に委ねられる場合が多いと思いますが、これもその第三者がどう判断するかであって、真に客観的な指標ではありません。
✅3、まとめ
結局受け手がどう思うかなのです。だから適当で良いということを言いたいのではありません。落語や哲学が指摘しているように、話し手中心の考え方は危ういのです。
受け手側の解釈次第でどうにでもなってしまう危うさをここでは強調しておきます。結局、相手がどう思ったか重要なのです。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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