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森井の鑑賞記録 2021年11月

【11月13日 ピョートル・アンデルシェフスキ ピアノリサイタル(紀尾井ホール)】

全編バッハ平均律クラヴィーア曲集第2巻からセレクトのプログラム。バッハという脚本を深く読み込んだ練達の名優による緊迫した朗読劇を聴いた。更にアンコールのパルティータでその緊張を解いてみせた。モダンピアノならではのダイナミックな表現を存分に堪能した。

チェンバロ原理主義な向きには些か刺激が強かったかもしれない。此方もまさか第2巻で目が覚ませられるとは思わなかった。

さらに一夜明けても尚よみがえる余韻がある。ピリオド楽器に一切忖度しないモダンピアノが、平均律第2巻からという燻銀のプログラムでバッハの「雄弁さ」を露わにさせた。しかしあれほど劇的に表現しても、誇張も逸脱も破綻も見られなかった。それはきっと熟考と親炙の賜物だと思う。

【11月16日 ヒレ・パール&マハン・エスファハニ ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのデュオリサイタル(BACH FROM HOME 配信)】

バッハの滋味あるヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタ全曲を、両者ソロの無伴奏チェロ組曲第2番とフランス組曲第2番をアクセントにして披露した。女王の深く自在な弓捌きに気鋭の円やかなチェンバロは応える。徐々に温まってゆく感じが心地よかった。

【11月16日 ジャン・ロンドー チェンバロリサイタル (BACH FROM HOME 配信)】

12月来日が叶わなかったのでせめて配信で贅沢する。バッハの祭典であるのに冒頭が何とフレスコバルディ。スウェーリンクとフローベルガーで現実と夢幻のあわいに駆け出した。鉄板バッハは中盤から現れた。映し出されるチェンバロの軽やかな指さばきから圧倒的な空間が生まれる神秘。