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【感想】ノーカントリーを劇場で観て人生完結したので、この余生を使ってお家鑑賞時の違いをつらつらと並べる回


序 オールタイムベスト映画

私、フラペンタは映画が好きだ。
映画を何作も観ていくと自分の中でベスト作品が自ずと出てくるわけで、それを映画界隈では今までの人生で出会った中で最高の作品という意味で「オールタイムベスト」とよく呼ぶ。
当然私も自分自身のオールタイムベストを堂々と掲げていて、とりわけぶっちぎりでオールタイムベスト1位の作品が、表題にもある「ノーカントリー(原題:No Country for Old Men)」なのだ。
どれくらい好きなのか説明するのは難しいが、具体的な数値を出すならおそらく50回くらいは最低でも観てるし、原作本も最初に出た扶桑社ミステリ版、最近発売されたハヤカワepi文庫版、さらには英語版も持っている。ちなみに原作と映画は大筋は同じだがキャラ造形に差異があって、私は映画の方が好きだ。こういった話はまた後日行うとして…………

1. ついに映画館でノーカントリーを観てしまう

2023年7月18日、私は昇天するーー。
目黒シネマでノーカントリーが上映されているのを終映前日に知り(というのも、駿最新作「君たちはどう生きるか」ネタバレ回避でSNS絶ちしていたためとても危なかった……)、全ての予定を投げ捨てて急いで駆け込んだ。16時台上映回にて、観客は10人程度。確認した限り学生は自分を除いて見当たらなかった。選りすぐりそうな観客を周りに構えた中で、ついに館内が暗転し、スクリーンが広がる。そして、懐かしのミラマックスロゴに添えて、哀愁漂う主人公ベルのモノローグが始まったーー。

終始、目がスクリーンから離れず、ノーカントリーのことだけを考え、ノーカントリーのことだけを見つめられた。そして夢を語ったベルが恥ずかしげに妻から目を逸らして暗転、そして監督名から始まるエンドクレジット。最高 of the year、受賞。至福の一時だった……。

全てが美しかった。今までBlu-rayディスクが擦り切れてしまうほど観てきたノーカントリーを、数倍大きな画面で観られたのは大変感慨深い。人生の目標の一つだった「ノーカントリーを劇場で観る」が早くも完結してしまった。これから私はどうしていけばいいのだろう。そう路頭に迷いかけたが、やはりオールタイムベストを映画館で観た体験を記す使命があると考えたので、ここに記そうと思う。
内容としてはいつも通り素晴らしいノーカントリーであり、同時にまた少し違った素晴らしさを持ったノーカントリーも魅せてくれた。

2. 映画館鑑賞で感じたお家鑑賞との差異

ようやく本題へと入るのだが、事実としてお家鑑賞時と比較して大きく2つの差異があった。

  1. 大画面

  2. 生活音を一切排除した環境

まずは「1.大画面」による影響について。
何でもそうなのだろうが、画面が引き伸ばされたことで、作品のディテールをより鮮明に掴めるようになるのがわかった。それも、50回は観てるノーカントリーだからこそ、痛烈に実感する。映画館で観て初めて気づいたネタはかなり多い。
具体的には、ルウェリンモスがホテルから飛び降りた後に脇腹に銃弾をかすめてしまい、血がじんわりと染み付くシーンがある。実はこのシーンは血がどくどくと流れ出ている。細かいのだが、私は今までてっきり染みついただけだと勘違いしていたため、これは驚きだ。もしかしたら気づいていた人の方が多いかもしれないが、自分自身初めて認識したことであり、美術や小道具のこだわりが伝わってきてよかった。改めて大画面で観る重要性を知ったのだ。「現代はスマホで映画を鑑賞可能だが、細部は何もわからないんだなぁ」と、縁側で1人この言葉を吐き捨てたい気持ちになる。悟りを開いてしまったかもしれない。
そして、もう一つ意外だったのが、画面が引き伸ばされたことで画質が粗くなったのだ。それによっていい意味での古さ、とりわけ西部劇のような感覚が得られたのだ。もとより、ノーカントリーはモス登場時の荒野地帯を始めとして西部劇チックなロケーションが多く、適度な粗さでより味わいを感じられたのは貴重な体験だ。おそらく製作が2007年ということで、15年以上前の技術が用いられているために粗さが現れたのだろう。正直家で観ているときは粗さはまったく気にならなかった。この粗さが目立たないことはロジャーディーキンスが撮る美麗さを楽しむ上でもちろん良いのだが、まさか画質のグレードダウンがここまで作品の印象を変貌させるとは思わなかった。これもまた味がある。素晴らしい。

大金を見つけるシーンは粗さと相性が良い

「1.大画面」に関してはここまで。
続いて「2.生活音を一切排除した環境」による影響について語っていく。
2については必然と映画音の話に向かっていく。当たり前のことだが、余計なノイズが無くなったので、没入の真骨頂とでもいうような体験が生み出されていた。極限の緊張感で始まるホテルでのモスvsシガーは映画館でしか味わえないだろう。ちなみにこのシークエンスで今まで気づかなかったところがある。それは、ホテルの部屋でモスがブリーフケースから探知機子機を見つけた時のシーンなのだが、遠くからものすごく小さな音でサイレンサーの音が聞こえていたのだ。これは従業員がシガーによって撃たれたときの音と思われるのだが、その音を聴いたことによってモスが確認の電話をフロアに入れるわけだ。もちろん応答はなく、フロアに生きている者は誰もいなくなったのが示唆され、緊張が走るのだ。何か、恐ろしい誰かが近づいている。命の危機を感じる。足音が大きくなっていく……。
ここは作中屈指の緊張感を醸し出すのだが、これまでの鑑賞の中で1番それが大きかった。音が研ぎ澄まされた環境下ではこうも増幅されるものなのかと驚いた。非常に貴重な経験であった。

部屋にシガーが近づいてくる極限の緊張シーン

3. 終わりに

 今回、初めて劇場で大傑作「ノーカントリー」を鑑賞したのだが、正直良すぎた。これが家でも楽しめたらなお幸せなことだろう…………
 ………ということで、ノーカントリーを劇場で観るという一つの人生は完結したが、ホームシアターを作り劇場環境下を再現するという、「新たな人生」が始まるのだった。
 まだ生きる理由、ありました。ノーカントリーライフは終わらない。

 以上


参考:
ノーカントリー


お世話になった目黒シネマ様 (他の映画館様も上映していただけるとありがたい……!)



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