見出し画像

チェコでの一日(地元の大学生の誕生日会に誘われる編)

バックパッカーとして、旅をする中で何が一番怖いかって、それは右も左も分からぬ初めての地で迷子になることである。特にそれが夜であると一層マズいことになる。

そう、僕に起こった災難とはこのことである。

チェコの首都であるプラハ本駅に着いたのはもう夜も遅い9時頃であった。列車に乗っていた時から知っていたが、改札の外はすでに暗い。普通に街灯を灯してもらわなければ星に光を、と願いたくなるレベルである。

僕はチケットを捨て、一息ふっと吐くとバックパックというという頼もしい足枷を背中に括りつけ、今日の宿となるドミトリーに向け、駅舎の外に出た。

だが焦っていたというわけでは特になかった。なにせ僕にはmapsがあるのだ(mapsというのは中々優秀なアプリだ。事前に登録さえしておけば、方角と道の名前を頼りに本当に建物一つ違わずに、僕のような迷い人を目的地まで案内してくれる)。

この時も、僕は絶大の信頼をmapsに置いて、その彼の指し示す方向へ歩いて行き、ものの10分でそれらしい通りに辿り着いた。どうやら公園の前らしい。

角っこまで行き、隅の建物から逆算して目的の宿を探し当てる。どうやらレンガ敷きの、五階建てと思われるマンションの一室のようだ。

入ろう、と思ったちょうどその時、中から住人らしき二人の中年女性が出てきた。僕はすかさずその人達に宿がこの場所であっているか訊く。

すると、答えはNO。ここではないとのこと。

僕は一歩すがり、また相棒のmaps君を見る。どうみても彼が指し示しているのはこの建物だ。???。

僕はもう一歩だけ下がり、てくてくさっき行った角っこまで戻る。やはり公園の前のこの通りで間違いない。建物の順番を数え直す。間違いない角から五番目。この建物だ。

そうして艱難苦難していると折しもよく、一台の車が路肩に止まった。見ていると中から地元の大学生と思わしき若者合計5名。僕はすかさずバックパック背中にそのグループに分け入り、リーダーと思われる男に声をかける(自分ルール。夜でも自分から声をかけた場合は安全)。どうにかこうにか地図を見せ、Bookingから送られてきた予約表から宿の名前を彼らに見せる。

すると、なんという偶然だろう。彼らも同じホステルに泊まるというではないか。

僕はふうと一息安堵して、英語が出来るリーダーの後ろに引っ付いて、彼らも今日泊まるいう目的の宿までひっついて行った。

そして着いたのは同じ通りの一区画隣のホステル。まるで家族経営のホテルのような大きな作り。白くて、窓が横並びに何個もある。ホステルの前に着くと彼らの中の一人がグループから抜けだし、門の横のポストに取り付けてあった銀板にキーを打ち込んでいく。ポストが開き、中から鍵を取りだす。

いや、待て待て待て。そんなややこしいホステルに今日泊まる憶えはないぞ。例えもしそういうややこしい暗証キーなるものが必要ならば、事前に何かしらメールか何かの手段で受け取っているはずだ(そして僕は受け取ってなどない)。

鍵を手に入れがやがやとホステルの中に入っていく彼らに追い縋り、どうにか僕はこの苦境をリーダー格の男に伝える(このままいけば僕は宿なしだ)。どうも僕のホステルはこのホステルじゃないみたいだ、と。そして、このままでは俺は宿なしだ、何か宿を見つける方法はないか、と。すると彼はSHIT!!とののしりつつも、優しくしゃあねえな俺たちのところに来るか、と言ってきた。

僕が返事をしかねながらも、彼らについて行く。階段を上り、赤いカーペットの敷かれた廊下を歩き、一つの大きな木材で出来たドアの前にたどりつく。グループの中の一人によってドアが開かれる。中は広く、キッチンにリビング、それに付け加えちょっとしたクローゼットまである。さっき彼らはホステルといったが、どうやら一室借り切っているようだ。雰囲気から察するに今から彼らの一人の誕生会をこの部屋で執り行うらしい。見るからにみな張り切っている。それと対照的に僕は一日の移動でもうずぶずぶに疲れている。なにせウィーンからはるばる一日かけやって来たのだ。夕食すら食べていない。それで愛哀しくも、誕生会に参加しないかと訊いてきたリーダー格の男にここまで付き合ってくれた感謝の意を告げ、僕はその場を後にし、また同じ通りに、あの公園の前の同じ通りに繰り出すこととなった。

※最終的に目的のホステルは最初に行った建物の三階にあった。夜の11時を過ぎて着いた僕に向かって怒るホステルのオーナーに、ここの住民に否定されたんだけどと伝えると、彼女もあきれ顔で、知っているはずだ、なにをばかな、との彼女も一点張り。なんだかな。こういうことがあるから夜の移動は嫌なのだ。


サポートしてくださると、なんとも奇怪な記事を吐き出します。