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ギリシャでの一日(いけすかないお店編)①

ギリシャでやることと言えば、たぶんパルテノン神殿が聳える丘に血気盛んに登っていき、それからそこら一帯のアゴラと呼ばれる、今で言う街の中心街に歩を進め、加えてちょっくら白亜の像でも見てみるかということで、美術館に赴くぐらいのものではないだろうか(失礼なことは百も承知)。

そういう旅ガイドに乗っているような凡例に漏れず、僕も朝からせっせと息を切らせ、ひと汗かきながらアテネの陽光を背やら腕やら至る所に浴びつつ丘を登り、工事中のパルテノン神殿を見学し、写真を一枚、もう一枚と重ね、そしてそこら一帯を知った顔で一人散策し、丘の後ろ側に回って新アクロポリス美術館と称される発掘現場の上に築かれた近代美術館を見学して回った。

はて、これから何をしようか。それがこれら辿るべき道を恐ろしく正確に回った僕が思ったことだった。

さらに足を伸ばしてソクラテスさんが投獄されたという牢屋を見る?土くれでも拾って古代からの歴史に浸る?アイスでも買ってベンチで異国の風に吹かれる?それともTシャツ脱ぎ捨てランニング?(ここ陽光の地アテネでは裸で石畳の上を走り回る人間があまりにも多すぎる。)

そんな暇人の元にある一人の人間が声をかけてきた。見たところ40台と思われる中年の白人で、話を聞くところによると、なんだか街の中心地まで行きたいらしい。

こういう時、僕はなるべく優しく、まるで相手を名付け親に生後三か月で捨てられた子猫のように扱うようにしてる。何しろ、僕は日頃地元民に色々手助けしてもらっている立場なのだ。

この際も同じで、僕は丁寧に街の中心部はこの丘を回った反対側、つまりは逆までいかなきゃならんのですよ、と彼に伝えた。

彼は僕からの丁寧な返事にいたく感動したようだった。最初道案内から始まった僕らのトークは彼の出身地へと延び(スペイン、マドリード)、彼の職種(工事の現場監督としてきたのだそうだ)、彼の家族(単身赴任でちょっとばかし寂しい)へと至った。

僕は僕で、彼からの質問へ紳士な態度で答えた。(学生。旅の途中でイタリアから来た。スペインにも行くつもり。だけどマドリードじゃなくってバルセロナ)

そうこう質問をかわしているうちになぜか僕達の会話は、彼が今投宿しているホテルの話になり、これまたなぜかホテルの近くにめっちゃいい食べ物屋があるから一緒に来ないかと言う話になった。

こういう時(二度目)、僕はなるべく誘いに乗るようにしている。なぜかというと、旅と言うのはこういう予想外の出来事から成り立つのあり、そうした物事が旅を成り立たせるからだ。

僕は一言返事で彼の誘いを承諾し、彼の後ろからその食べ物屋に向かった。

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