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ドイツワイン規則の最終的な改正内容

1.序
3月26日、ドイツ連邦参議院本会議においてワイン規則改正案への同意が決議された。ワイン規則(Weinverordnung)は、ワイン法(Weingesetz)の下の行政府が定める規則(日本でいえば政令とか省令)だが、ドイツでは、州レベルの行政に影響がある場合、連邦参議院(ドイツの参議院は各州の代表によって構成されている)の同意が必要とされる。

今回のワイン規則の改正については、原案作成段階から色々と議論があり、議会においても、政府(連邦食糧・農業省)が連邦参議院に提出した原案に対し、連邦参議院の農業・消費者保護委員会で修正意見がとりまとめられ(グローセス・ゲヴェクス等に関する規定の追加など)、さらに連邦参議院本会議でヘッセン州とラインラント・ファルツ州から修正案(新規定の例外なき適用を一定期間猶予する経過措置を設けること)が提案され、最終的な姿となった。

ワイン規則改正については、既に2度記事をまとめてきており、重複する部分も少なくないが、議会での修正部分を確認しつつ、最終的な改正内容を改めて整理することとしたい(なお、改正趣旨については2月8日の記事に詳しいので、そちらを参照いただきたい)。

2.ワイン規則改正案の各条項の具体的内容

【試験栽培品種の生産面積及びワイン生産量等】
○ 非認定ブドウ品種を試験栽培するための畑の面積は、一事業所当たり0.1ヘクタールに限り認められ、当該試験栽培品種から生産し販売可能なワインは、一事業所当たり年間20ヘクトリットルまでに限られる。また、ブドウ品種が(どこかの生産地域で)認定品種となった場合、(他の生産地域の事業所は)6年目からは試験栽培品種によるワインとして販売することはできない(5年間は引き続き試験栽培品種によるワインとして販売可能)。(第6条第1項及び第2項)
(注)第1項の面積の制限は、議会修正で追加された。
○ 州政府は、規則によって、非認定ブドウ品種を試験栽培する畑の所在地を原産地呼称保護ワイン(g.U.)又は地理的表示保護ワイン(g.g.A.)の生産エリアに限定することができる。(第6条第4項)
(注)本項は議会修正で追加された。現在は試験栽培は原産地呼称保護ワイン等の生産エリア内で行われているが、「できる」規定とすることにより、原産地呼称保護ワイン等の生産エリアがない州が不利益を被らないようにすると解説されている。

【ラントヴァインの味わい制限の撤廃】
○ 現行ワイン規則第16a条では、ラントヴァイン(Landwein)の残糖は原則としてハルプトロッケン(halbtrocken)の表示基準の最高値を超えてはならない(=ハルプトロッケンまでの辛口に限定)とされていたが、今次改正で同条は撤廃される。

【ブラン・ド・ノワール表示】
○ ドイツ国内産ワインの゛ブラン・ド・ノワール(Blanc de Noirs)”の表示は、当該ワインが原産地呼称保護ワインであって、赤ワイン用ブドウ品種から白ワインと同様に圧搾され、白ワインに典型的な色調を示している場合にのみ認められる。(第32条第3項)
(注)政府案では、「赤いブドウから白ワインと同様に圧搾され」「このタイプのワインに典型的な明るい色調」という文言が用いられていたが、議会で修正された。修正案については、規定を明確化し、ゲヴュルツトラミナーやグラウブルグンダーのような赤っぽい品種(グリ系品種)から゛ブラン・ド・ノワール”が造られることを防止する必要がある、と説明されている。
このブラン・ド・ノワールの規定に関しては、2020年ヴィンテージまでは、規定制定前(規定がなかった状態)の条件で生産されたワインも販売が認められる(議会修正により追加された第54条第18項)。

(参考)従来、゛ブラン・ド・ノワール“の表示については、法令による規制はなかったが、今般新たに導入される。なお、赤ワイン用ブドウを用いた赤ワイン以外のドイツ国内産ワインについて、現行ワイン規則第32条では次のように規定されている。
《ロゼワイン》(第32条第1項第3号)
○ クヴァリテーツヴァイン(Qualitätswein)又はプレディカーツヴァイン(Prädikatswein)の場合には、赤ワイン用ブドウ品種のみから造られており、淡い(blass)赤~明るい(hell)赤の色調のもの。
《ヴァイスヘルプスト(Weißherbst)》(第32条第5項)
○ クヴァリテーツヴァイン又はプレディカーツヴァインであって、単一の赤ワイン用ブドウ品種から造られており、95%以上は色付かないように圧搾された果汁から造られていること(訳注:したがって、色調を整えるために若干(5%未満)の赤ワイン又は赤ワイン用の果汁を混ぜることは可能)。ヴァイスヘルプストの表示と共に品種名を表示しなければならない。なお、ヴァイスヘルプストの表示をする場合、ロゼワインと表示することは認められない。

【エアステス・ゲヴェクス及びグローセス・ゲヴェクス】(第32b条)
○ エアステス・ゲヴェクス(Erstes Gewächs)(第1項)
エアステス・ゲヴェクスの表示は、白ワイン又は赤ワインであるクヴァリテーツヴァインで、以下の条件を満たす場合に限り許される。
① 単一の品種で造られていること
② 生産地域の特徴にふさわしい品種で造られていること
③ 収量は1ヘクタール当たり60ヘクトリットル(シュタイルラーゲにあっては70ヘクトリットル)を10%を超えて超過しないこと
④ ブドウは健全性・成熟度の観点から選別して収穫されていること
⑤ 潜在潜在アルコール度数が11%以上の果汁であること
⑥ 単一畑(Einzellage)又はより狭い産地表示であること
⑦ 収穫年表示であること
⑧ 辛口(trocken)であること
⑨ 甘みに関する味わい(辛口等)の表示は行わないこと
⑩ 収穫翌年の3月1日よりも前には販売しないこと

○ グローセス・ゲヴェクス(Großes Gewächs)(第2項)
グローセス・ゲヴェクスの表示は、白ワイン又は赤ワインであるクヴァリテーツヴァインで、以下の条件を満たす場合に限り許される。
① エアステス・ゲヴェクスの規定の①、②及び⑥~⑨の条件を満たすこと
② 収量は1ヘクタール当たり50ヘクトリットル(シュタイルラーゲにあっては60ヘクトリットル)を10%を超えて超過しないこと
③ ブドウは手摘みであること
④ 潜在アルコール度数が12%以上の果汁であること
⑤ 公的品質検査番号(A.P.Nr.)付与後6か月以内に産地及び品種の特性を確認する特別な官能検査に合格すること
⑥ 収穫翌年の9月1日よりも前には販売しないこと。赤ワインの場合には更に9か月後とする(すなわち、収穫の翌翌年の6月1日以降の販売)

○ 原産地呼称の管理に当たる組織(Schutzgemeinschaft)又は業界団体(Branchenverband)は、各々の生産基準明細(Produktspezifikation)で、産地にふさわしい品種と満たすべき官能面での特徴を規定する。(第3項)

○ エアステス・ゲヴェクス及びグローセス・ゲヴェクスの表示に関し、原産地呼称管理組織又は業界団体は、産地の特性に鑑み、必要に応じて、果汁の最低潜在アルコール度数、最大収量、生産可能エリア等についてより厳格なルールを定めることができる。(第4項)

○ 業界団体によって既に用いられているエアステス・ゲヴェクス又はグローセス・ゲヴェクスの表示は、第1項から第4項の条件を満たしている場合に限って引き続き使用できる。(第5項)

これらのエアステス・ゲヴェクス、グローセス・ゲヴェクスの規定(第32b条)に関しては、2023年ヴィンテージまでは、規定制定前(規定がなかった状態)の条件で生産されたワインも販売が認められる(議会修正により追加された第54条第19項)。

【シュタイルラーゲ及びテラッセンラーゲ】
○ 従来スティルワインにのみ認められていた゛シュタイルラーゲ(Steillage)”(斜面畑)及び゛テラッセンラーゲ(Terrassenlage)”(段々畑)の表示は、発泡性ワイン(但しSekt b.A.又はQualitätsperlwein b.A.クラスのみ)でも認められる(注;スティルワインの場合、ラントヴァインクラス以上なら可)。(第34b条)

【フェーダーヴァイサー(Federweißer)】
○ 「消費に供される発酵途中の果汁」(=いわゆるフェーダーヴァイサー)の規定が一部変更され、”Federweißer”の表示が認められるのは、従来は原産地呼称保護ワインの場合は指定生産地域がフランケンとラインヘッセンのものに限定されていた(ラントヴァイン=地理的表示保護ワインの場合は、全ての産地で表示可能)が、全ての指定生産地域で”Federweißer”の表示が認められることとなった。(第34c条)

【原産地呼称保護ワインに関するルール】
○ クヴァリテーツヴァインクラス以上(プレディカーツヴァインの他、ゼクトb.A等の同レベルの発泡性ワインを含む)のワインの産地名の記載ルールは次のとおり。(第39条)
(1)グロースラーゲ(Großlage;集合畑)又はベライヒ(Bereich)の名称を記載する場合には、同じ色・書体・大きさの文字で“Region”と直前に並べて記載すること
(注)政府案では、"Region"の文字の大きさは1.2ミリ以上とされていたが、消費者に対しより明瞭に表示する必要があるとして議会修正された。
(2)市町村名またはオルツタイル名を記載する場合には、
① 果汁糖度は、カビネットクラス以上の最低アルコール度数に達しうるものでなければならない。
② 収穫年の12月15日以降でなければ最終消費者に提供してはならない。
(注)政府案では、販売開始は収穫翌年の1月1日以降とされていたが、雹や遅霜により収穫が極めて不良な年があることや、気候変動でそのような年が増える可能性も考慮する必要があるとして、議会修正された。
(3)単一畑(Einzellage)の名称を記載する場合には、
① 市町村名またはオルツタイル名を並べて記載すること。
(注)政府案では、ラベル(表・裏の2か所など)で重複が生じる場合は、市町村名等に代えて単に"Lage"(「畑名」)と書くことも許容されるとしていたが、"Lage"という新概念の導入は消費者にはメリットがないとして、議会修正で削除された。
② 収穫年の翌年3月1日以降でなければ最終消費者に提供してはならない。
③ 使用できるブドウ品種は、当該ワインの生産基準明細で認められたものに限られる。
④ 果汁糖度は、カビネットクラス以上の最低アルコール度数に達しうるものでなければならない。
(注)政府案では、上記に加え、肩書(Prädikat)を表示する場合は甘口(lieblich以上)であること、その例外としてカビネット(Kabinett)とシュペートレーゼ(Spätlese)については辛口(trocken又はhalbtrocken)も許容する、など味わいと肩書に関する規定があったが、議会修正で削除された。生産地主義と肩書システムの混合は消費者に複雑でわかりにくいので、透明で明瞭な規定にすると解説されている。
また、政府案では、生産地主義の頂点に立つのが単一畑であるとして、単一畑の中の区画名を表示する場合には、当該区画を包含する単一畑の名称を併記しなければならないとされていたが、その部分は議会で削除された。単一畑かその中の区画かは消費者にはわかりにくいし、産地名称が長くなるのは美的にもラベル表示的にも問題であるとの理由である。
(4)生産基準明細には、上記よりも更に厳格な基準やヘクタール当たり収穫量に関する基準を規定することができる。

この新第39条に関しては、2025年ヴィンテージのブドウから作られるワインまでは、改正前の第39条に従って産地名を記載することができ、その在庫がなくなるまで販売することが経過措置として認められている(第54条第16項)。

【収量基準、アルコール度数等】
○ 原産地呼称保護ワイン又は地理的表示保護ワインとして認められるためには、以下の条件を満たさなければならない。(第39a条)
(1)原産地呼称保護ワインの場合
① ヘクタール当たり収穫量基準を定めるに当たっては、過去7年間の収穫量に鑑みて定めること(当該ワインの生産基準明細で定める収穫量基準の改正時も同様)
(注)政府案では、「品質に相応しい収穫年かどうかも考慮した上で過去10年間の収穫量に鑑みて定める」とされていたが、既存の生産地域でなければ「品質に相応しい」かどうか判断できないこと、7年間の収穫量を見れば新しい畑を10年後には認定できるようになること、などから議会修正された。気候変動に適応するための方策として、新しい品種・新しい畑を意識した修正である。
② 果汁由来の潜在アルコール度数は、プレディカーツヴァイン以外の場合、ワイン生産地気候区分Aゾーンで7.0%、Bゾーンで8.0%を下回らないこと。プレディカーツヴァインの場合には、Aゾーンで9.5%、Bゾーンで10.0%を下回らないこと
③ 公的検査番号(A.P.Nr.)を取得すること
(2)地理的表示保護ワインの場合
① ヘクタール当たり収穫量基準を定めるに当たっては、過去5年間の収穫量に鑑みて定めること(当該ワインの生産基準明細で定める収穫量基準の改正時も同様)
② 果汁由来の潜在アルコール度数は、ワイン生産地気候区分Aゾーンで6.0%、Bゾーンで6.5%を下回らないこと
③ ワイン法及びワイン規則のラントヴァインに関する規定の一部(寒さによる果汁濃縮が行われていないこと、糖度調節に国外産のブドウ果汁を用いないこと等)を遵守すること
なお、第39a条の今次改正(に伴う従来の規定の廃止)により、原産地呼称保護ワイン(g.U.)と表示すれば、伝統的な「クヴァリテーツヴァイン」又は「プレディカーツヴァイン」の表示を省くことも可能となり(その場合、プレディカート=肩書も表示できない)、また、地理的表示保護ワイン(g.g.A.)と表示すれば「ラントヴァイン」の表示を省くことも可能となる。また、クヴァリテーツヴァイン又はプレディカーツヴァインの前提であった(13の)指定生産地域以外でも原産地呼称保護ワインの生産が可能となり、ラントヴァイン指定地域(26箇所)以外でも地理的表示保護ワインの生産が可能となる。

【生産地表示のないワインに表示が認められない品種】
○ 原産地呼称保護ワイン又は地理的表示保護ワイン以外のワインでは、2011年ヴィンテージ以降、次のブドウ品種名を(そのシノニムを含め)表示してはならない(第42条第2項)。
① Blauer Frühburgunder☆※
② Blauer Limberger
③ Blauer Portugieser
④ Blauer Silvaner
⑤ Blauer Spätburgunder☆
⑥ Blauer Trollinger
⑦ Dornfelder
⑧ Grauer Burgunder☆
⑨ Grüner Silvaner
⑩ Müller-Thurgau
⑪ Müllerrebe
⑫ Roter Elbling
⑬ Roter Gutedel
⑭ Roter Riesling
⑮ Roter Traminer
⑯ Weißer Burgunder☆※
⑰ Weißer Elbling
⑱ Weißer Gutedel
⑲ Weißer Riesling
この規定は、もともとこれまでのワイン規則にもあったもの(第42条第3項)であり、22品種が対象となっていた。今回の改正で、政府案では15品種に削減されたが、議会修正で最終的に上記19品種となった(☆印は議会修正で追加された4品種で、※印は従来のリストにもなかった新規追加、※の付いていない☆は政府案で一旦削除されたが議会修正で復活したものである。)。
従来のリストにあったが今回の改正で削除されたのは、Bacchus、Domina、Kerner、Rieslaner、Scheurebeの5品種である。
政府案では、歴史的に特定の産地と結び付きがあり、品種名が表示されることで当該産地のものと誤解を与えるような品種についてリストに含めると解説されている。
議会修正では、ブルグンダー(=ブルゴーニュ)系品種(フリューブルグンダー、シュペートブルグンダー、グラウブルグンダー及びヴァイスブルグンダー)について、ドイツでのラベルへの表示は、EU法上、原産地呼称保護ワイン又は地理的表示保護ワインであることが前提となっているとして、明確化と法的安定性確保のためにリストに加えるとしている。


【参照】
これまでの記事
ドイツワイン法及びワイン規則の改正(2月8日)
https://note.com/frankmic/n/n0e68fcd70767
ワイン法令におけるグローセス・ゲヴェクス等の規定の新設(3月20日)
https://note.com/frankmic/n/nf6420bae1b96

ワイン規則改正案(ドイツ語のみ)
政府提出原案
https://www.bundesrat.de/drs.html?id=175-21
連邦参議院委員会修正意見
https://www.bundesrat.de/drs.html?id=175-1-21
連邦参議院本会議決議
https://www.bundesrat.de/drs.html?id=175-21%28B%29

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