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ドイツワイン法及びワイン規則の改正

今次制度改正の狙い

ドイツワイン法(Weingesetz)改正案は、2020年11月26日に政府案を一部修正の上連邦議会で可決され、同年12月18日に連邦参議院の同意を得た。
この法改正に伴い、その下位法令であるワイン規則(Weinverordnung)も改正が行われる。
(訳注:Verordnungは日本でいえば政令(○○法施行令)又は省令(○○法施行規則)に当たるが、「令」の訳語を当てると戦前に制定された勅令(「○○令」の名称だが法律相当)との紛れが生じる恐れがあるため、ここでは「規則」の訳語をあてる。)

改正法は2021年1月26日の官報掲載により公布され、その翌日から施行された。規則の改正は、2021年第1四半期中に予定されている。
※ ヴュルテンベルク・ワイン生産者連盟の会員向け資料によれば、ワイン規則改正案については、連邦参議院で3月26日に議決される見込みとのこと。
(3月10日追記:3月9日付で公表された3月26日の連邦参議院本会議の議事予定の中に、ワイン規則改正案が盛り込まれている。)

今回の法改正の背景・目的について、政府が提出した法案では次のように書かれている。

「ドイツワインは、国際的に見るとここ数年継続して市場シェアを失っている。国内消費も傾向的に減少しており、収益の減少を招いている。競争に晒され量的には売上が減少する中で生産者の経済的な見通しを改善するため、市場を安定させるための措置を講ずるとともに、売上増大と価値創造の可能性を生み出し拡充しなければならない。ワイン法とワイン規則はこれに適するように改正する。ワイン法の改正とワイン規則の改正は相互に密接に結び付いている。双方の改正は、全体で一つのパッケージとして上記の目標達成に役立つものである。
以上のような経済的な理由に加え、個々の国内ルールをEU及び憲法の規定に適合させる必要もある。」

今回の法改正については、従来のドイツワイン法のベースにあった収穫時のブドウの糖度の高低に基づく品質等級から、表示される産地の広狭に基づく品質等級への転換に焦点が当てられることが多いが、その背景には上記のように、EUルールへの適合とともに国内ワイン産業の振興という狙いがある。このため、供給過多(による価格低下、収益悪化)を招かないよう、栽培面積の拡大を2023年まで毎年300ヘクタールに抑制する(2016年以来実施されている、栽培面積の増加を対前年0.3%に抑制する方策の実質的継続)などの規定も改正に盛り込まれている。また、マーケティング強化のため、連邦レベルのワイン振興予算を150万ユーロ(約1.9億円)から200万ユーロ(約2.5億円)に増額する措置も講じられることとなっている。


ワイン法改正の主なポイント

連邦食糧・農業省が提出した第10次ワイン法改正案及び連邦議会通過時の一部修正には、以下のような事項が盛り込まれている。

【クヴァリテーツヴァイン及びラントヴァインとEUの原産地表示ルールの統一】
○ ワイン法及びワイン法の授権に基づく規則で定められた規定で、クヴァリテーツヴァイン(Qualitätswein)と表示されるワインに適用される規定は、原則として、当該表示のない原産地呼称保護ワイン(g.U.)にも適用される。また、ワイン法及びワイン法の授権に基づく規則で定められた規定で、ラントヴァイン(Landwein)と表示されるワインに適用される規定は、原則として、当該表示のない地理的表示保護ワイン(g.g.A.)にも適用される。(新設第1a条)

○ クヴァリテーツヴァインの生産区域に関する部分の定義を「原産地呼称保護ワイン」と変更(第2条第24号)

○ ラントヴァインの生産区域に関する部分の定義を「地理的表示保護ワイン」と変更(第2条第25号)

○ プレディカーツヴァイン(Prädikatswein)の生産区域に関する部分の定義を「原産地呼称保護ワイン」と変更(第2条第27号)

これらの規定により、クヴァリテーツヴァインクラス以上のワインについては原産地呼称保護ワインと、ラントヴァインについては地理的表示保護ワインと、ルールの完全な整合性が図られることとなった。


【保護名称より狭い区域或いは広い区域の名称の使用】
○ 原産地呼称保護に基づく名称を記載したワインには、当該名称に加え、その原産地区域よりも狭い地理的範囲の名称を記載することができるが、次の場合に限られる。(第23条第1項)
① ワイン用ブドウ畑登録簿(Weinbergrolle)に記載された畑又はベライヒ(Bereich)の名称
② 不動産登記地図(Liegenschaftskarte)上で区画された地理的範囲で、その名称がワイン用ブドウ畑登録簿に記載されているもの
③ 市町村又はオルツタイル(Ortsteil)の名称

○ 地理的表示保護に基づく名称を記載したワインには、当該名称に加え、その原産地区域よりも狭い地理的範囲の名称を記載することはできない。(第23条第1a項)

○ 原産地呼称保護に基づく名称又は地理的表示保護に基づく名称を記載したワインには、当該名称に加え、その原産地区域よりも広い地理的範囲の名称を記載することができる。但し、各々の産地毎のワインの生産基準明細(Produktspezifikation)に定めがある場合に限られる。(第23条第2項)


【品種】
○ ワインの生産には、連邦農業・食糧庁(注:連邦食糧・農業省の執行機関)が公表する全てのワイン用ブドウ品種の利用が認められる。(第8条第1項)

○ 各州は、連邦農業・食糧庁に対し毎年一度6月30日に、各州内でワインの生産に認められる品種を届け出る。(第8条第2項)

上記第8条は政府原案に対し議会で修正がなされた規定であり、「新しいブドウ品種が官僚主義によらず速やかに市場に投入できる道を開いた」と解説されている。


ワイン規則の改正

ワイン法がより基本的、原則的な事柄を規定しているのに対し、我々日本の消費者にも関係するラベル表記のルールなど、細かい事柄はワイン規則で定められている。
以下では、2020年12月23日に連邦食糧・農業省から公表されたワイン規則改正案の主なポイントを見ていくこととする。


改正の狙い

規則改正案について、連邦食糧・農業省は、改正の考え方を次のように説明している。

「ワイン規則改正のベースの中心となっているのは、EUにおけるワインの品質に関する政策、とりわけ産地名表示の保護である。それ故、クヴァリテーツヴァインの領域においては、ドイツのシステムを、ラテン諸国のモデルに準拠した、地理的な産地により着目することを志向したシステムへと転換していかなければならない。その際には、各々の産地が明確な特徴を示すとともに、“表示される産地が狭いほど、品質は高い”という原則に従っていなければならない。産地に由来する特徴の明確化という方向は、多くの事業者が現在既に進んでいる方向であり、新しいワインの名前の保護や、呼称が保護されている原産地の中の更に狭い地理的範囲から生産したワインを市場で売り込むための自主的に決められたより厳格な品質区分(訳注:業界団体であるVDPが決めている特級畑等の区分を指す)に活用されている。このような進展に対し、生産者の目線からも消費者の目線からもはっきりとした枠組みを設けてわかりやすいものとするためには、統一的な法律に基づく枠組みが必要である。その法的枠組みは、同時に、生産者に対して、産地毎のワインの生産基準明細(Produktspezifikation)の変更に適合するために十分な時間的猶予を与えるものでなければならない。その際には、EU法で加盟国に与えられた権限を活用し、産地名として保護された範囲よりも更に狭い或いは更に広い地理的範囲の名称を使用することは制限されねばならない。
市場の拡大余地を活用しベースレベルのワインの供給を拡大できるよう、産地に基づく等級ピラミッドの頂点に位置する原産地呼称保護ワインのルールは厳格化する一方で、地理的表示ワインや産地表示のないワインについてはルールを緩めたり廃止したりする必要がある。」


改正の主なポイント

ワイン規則改正案には、具体的には以下のような事項が盛り込まれている。

【試験栽培品種からの生産量】
○ 試験栽培されている非認定ブドウ品種から生産可能なワインは、一事業所当たり年間20ヘクトリットルまでに限られる。(第6条第2項)

【ラントヴァインの味わい制限の撤廃】
○ 現行ワイン規則第16a条では、ラントヴァインの残糖は原則としてハルプトロッケン(halbtrocken)の表示基準の最高値を超えてはならない(=ハルプトロッケンまでの辛口に限定)とされていたが、今次改正で同条は撤廃される。

【ブラン・ド・ノワール表示】
○ ドイツ国内産ワインの“ブラン・ド・ノワール(Blanc de Noirs)”の表示は、当該ワインが原産地呼称保護ワイン(g.U.)であって、赤いブドウから白ワインと同様に圧搾され、このタイプのワインに典型的な明るい色調を示している場合にのみ認められる。(第32条第3項)

(参考)従来、゛ブラン・ド・ノワール“の表示については、法令による規制はなかったが、今般新たに導入される。なお、赤ワイン用ブドウを用いた赤ワイン以外のドイツ国内産ワインについて、現行ワイン規則第32条では次のように規定されている。
【ロゼワイン】(第32条第1項第3号)
○ クヴァリテーツヴァイン又はプレディカーツヴァインの場合には、赤ワイン用ブドウ品種のみから造られており、淡い(blass)赤~明るい(hell)赤の色調のもの。
【ヴァイスヘルプスト(Weißherbst)】(第32条第5項)
○ クヴァリテーツヴァイン又はプレディカーツヴァインであって、単一の赤ワイン用ブドウ品種から造られており、95%以上は色付かないように圧搾された果汁から造られていること(訳注:したがって、色調を整えるために若干(5%未満)の赤ワイン又は赤ワイン用の果汁を混ぜることは可能)。ヴァイスヘルプストの表示と共に品種名を表示しなければならない。なお、ヴァイスヘルプストの表示をする場合、ロゼワインと表示することは認められない。

【シュタイルラーゲ及びテラッセンラーゲ】
○ 従来スティルワインにのみ認められていた“シュタイルラーゲ(Steillage)”(斜面畑)及び“テラッセンラーゲ(Terrassenlage)”(段々畑)の表示は、発泡性ワイン(但しSekt b.A.又はQualitätsperlwein b.A.クラスのみ)でも認められる(注;スティルワインの場合、ラントヴァインクラス以上なら可)。(第34b条)

【フェーダーヴァイサー(Federweißer)】
○ 「消費に供される発酵途中の果汁」(=いわゆるフェーダーヴァイサー)の規定が一部変更され、”Federweißer”の表示が認められるのは、従来は原産地呼称保護ワインの場合は指定生産地域がフランケンとラインヘッセンのものに限定されていた(ラントヴァイン=地理的表示保護ワインの場合は、全ての産地で表示可能)が、全ての指定生産地域で”Federweißer”の表示が認められることとなった。(第34c条)

【原産地呼称保護ワインに関するルール】
○ クヴァリテーツヴァインクラス以上(プレディカーツヴァインのみならずゼクトb.A等の同レベルの発泡性ワインを含む)のワインの産地名の記載ルールは次のとおり。(第39条)
(1)グロースラーゲ(Großlage;集合畑)又はベライヒ(Bereich)の名称を記載する場合には、“Region”の文字を並べて記載すること(「並べて」の意味は、密接していれば良く、グロースラーゲ又はベライヒの名前の直前に限定されず、例えば直ぐ上でも良い)
(2)市町村名またはオルツタイル名を記載する場合には、
① 果汁糖度は、カビネットクラス以上の最低アルコール度数に達しうるものでなければならない
② 収穫年の翌年1月1日以降でなければ最終消費者に提供してはならない
(3)単一畑(Einzellage)の名称を記載する場合には、
① 市町村名またはオルツタイル名を並べて記載すること。但し、生産基準明細で認められれば、繰り返して(=表ラベル、裏ラベルの両方で)記載せず、”Lage"(畑名)とだけ表示することも可能である。
② 収穫年の翌年3月1日以降でなければ最終消費者に提供してはならない。
③ 使用できるブドウ品種は、当該ワインの生産基準明細で認められたものに限られる。
④ 果汁糖度は、カビネットクラス以上の最低アルコール度数に達しうるものでなければならない。
⑤ ハルプトロッケン(halbtrocken)の表示基準の最高値を上回る残糖度でなければ、肩書(Prädikat)を表示してはならない。但し、カビネット(Kabinett)とシュペートレーゼ(Spätlese)の表示については、当該表示に関するワイン法の基準を満たし、生産基準明細で認められていれば、可能である。
⑥ ハルプトロッケンの表示基準の最高値を上回る残糖度を有している場合、品質検査を満たした上で肩書(Prädikat)を表示しなければならない。但し、生産基準明細で認められていれば、表示しないことも可能である。
(4)生産基準明細には、上記よりも更に厳格な基準やヘクタール当たり収穫量に関する基準を規定することができる。
(5)ワイン法第23条に規定する、保護された原産地呼称の区域よりも更に狭い地理的範囲の名称を表示する場合には、当該地理的範囲を包含する単一畑の名称を併記しなければならない。

この改正により、これまでは存在した辛口のアウスレーゼ(Auslese trocken)などはなくなることになる。なお、この新第39条に関しては、2025年ヴィンテージまでのブドウから作られるワインまでは、改正前の第39条に従って産地名を記載することができ、その在庫がなくなるまで販売することが経過措置として認められている。

【収量基準、アルコール度数等】
○ 原産地呼称保護ワイン又は地理的表示保護ワインとして認められるためには、以下の条件を満たさなければならない。(第39a条)
(1)原産地呼称保護ワインの場合
① ヘクタール当たり収穫量基準を定めるに当たっては、品質に相応しい収穫年かどうかも考慮した上で過去10年間の収穫量に鑑みて定めること(当該ワインの生産基準明細で定める収穫量基準の改正時も同様)
② 果汁由来の潜在アルコール度数は、プレディカーツヴァイン以外の場合、ワイン生産地気候区分Aゾーンで7.0%、Bゾーンで8.0%を下回らないこと。プレディカーツヴァインの場合には、Aゾーンで9.5%、Bゾーンで10.0%を下回らないこと
③ 公的検査番号(A.P.Nr.)を取得すること
(2)地理的表示保護ワインの場合
① ヘクタール当たり収穫量基準を定めるに当たっては、品質に相応しい収穫年かどうかも考慮した上で過去5年間の収穫量に鑑みて定めること(当該ワインの生産基準明細で定める収穫量基準の改正時も同様)
② 果汁由来の潜在アルコール度数は、ワイン生産地気候区分Aゾーンで6.0%、Bゾーンで6.5%を下回らないこと
③ ワイン法及びワイン規則のラントヴァインに関する規定の一部(寒さによる果汁濃縮が行われていないこと、糖度調節に国外産のブドウ果汁を用いないこと等)を遵守すること
なお、第39a条の今次改正(に伴う従来の規定の廃止)により、原産地呼称保護ワイン(g.U.)と表示すれば、伝統的な「クヴァリテーツヴァイン」又は「プレディカーツヴァイン」の表示を省くことも可能となり(その場合、プレディカート=肩書も表示できない)、また、地理的表示保護ワイン(g.g.A.)と表示すれば「ラントヴァイン」の表示を省くことも可能となる。また、クヴァリテーツヴァイン又はプレディカーツヴァインの前提であった(13の)指定生産地域以外でも原産地呼称保護ワインの生産が可能となり、ラントヴァイン指定地域(26箇所)以外でも地理的表示保護ワインの生産が可能となる。

この12月時点のワイン規則改正案は、6月に公表された案から(ブラン・ド・ノワール規定の追加など)修正が加えられているが、これで最終版となるかどうかは不透明であり、実際に公布・施行されるまで帰趨を見守る必要があろう。

〔参照〕

第10次ワイン法改正案政府原案
http://dipbt.bundestag.de/dip21/btd/19/237/1923749.pdf

連邦議会修正
http://dipbt.bundestag.de/dip21/btd/19/245/1924512.pdf

ドイツ官報電子版HP
https://www.bgbl.de/xaver/bgbl/start.xav#

ワイン法全文(今次改正反映後)
https://www.gesetze-im-internet.de/weing_1994/WeinG_1994.pdf

第24次ワイン規則改正案(2020年12月23日連邦食糧・農業省公表)
https://www.bmel.de/SharedDocs/Downloads/DE/Glaeserne-Gesetze/Referentenentwuerfe/24-verordnung-aenderung-weinverordnung-ressortabstimmung.pdf?__blob=publicationFile&v=2

第24次ワイン規則改正案(2021年2月9日付で政府から連邦参議院に提示)
https://www.bundesrat.de/drs.html?id=175-21
(上記12月23日版から法技術的修正が加えられているが、実質的に大きな変更はない。)

第24次ワイン規則改正案に関する連邦参議院農業・消費者保護委員会の修正案(2021年3月11日付;グローセス・ゲヴェクスの規定創設など、ある程度の実質的変更があるが、上記日本語解説には未反映なのでご注意ください。)
https://www.bundesrat.de/drs.html?id=175-1-21


(以上)


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