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2023年8月に読んだ、おすすめの本 その1

8月は盆休みもあり、いつもより多く33冊読みました。その中で気に入った本とその紹介をしてく第1回です。

🌟発売済み『文芸/ホラー/ミステリ/SF 等』


「心臓の王国」 竹宮ゆゆこ 著
竹宮ゆゆこ先生の、現時点での最高傑作。
読み手の心を数知れぬ回数吹き飛ばす、鋼太郎と神威を中心とした17歳と言う熱過ぎる「せいしゅん」の群像劇。
頭を抱え、爆笑し、感動し、涙ぐみ、呆然として、終末に言葉もなく。なんと言う高密度。
そして、再読推奨。書名の意味と彼の名の由来、彼らを包む恐ろしい意図の存在を噛み締めながら、更に17歳の彼らの心の裏を知りつつ「せいしゅん」を読むと、更に心に響いてくる。

「イクサガミ 地」 今村翔吾 著
第2部
維新後、剣の達人達が存在意義を見失いかけた時代。時の流れに取り残されたと自覚しながらも、人間離れした技で切り結ぶ剣の達人らの様子は、前巻以上に圧巻。
そして、やっとこの「蠱毒」の意図が見えてくる。それが国のこれから先を左右しかねない規模とは。実在した人物をも巻き込み、グリフハンガーで終わる第2部。さらに混迷の度を深めていく。

「図書館のお夜食 」 原田ひ香 著
開館は夜間で、貸し出しなく閲覧は有料。(ちなみに図書館法第17条で「図書館無料の原則」が定められている) 更に、警備担当の図書館探偵までいる。そして、肝心のオーナーは絶対に姿を見せない。
そんな「夜の図書館」に勤め始めた乙葉は、本の為に、作家の為に、様々な人間模様の中で仲間と取り組んでいく。その物語でも十分に楽しめる。更に、毎回様々な実在の本に出てくるレシピからのお夜食が。これが絶妙の味付けになっている。だから、この書名に大賛成。

「鬼人幻橙抄 大正編 終焉の夜」 中西モトオ 著
第9部の本書は、第8部「大正編 紫陽花の日々」での叡善との確執の決着編。
時に見限られて生きる甚夜にとって、充知と心乃の夫婦との時間がいかに心安らぐ大切な時だったかは、描かれずとも酒の味に出ていた。
甚夜の強さとは、複数の異能の類を見ない組み合わせ。それは、今まで積み重なってきた無念と後悔が如何に多いかの証でもある。今回、彼は強い意志でそれを振るっていく。

「鬼人幻橙抄 大正編 夏雲の唄」  中西モトオ 著
第10部
あれから1年後、事態はまた動き出す。第1部「葛野編 水泡の日々」での〈巫女〉と〈巫女守〉の真の役目が、百年近くたって明らかになる。更にそれが、この大正の世で再現されてしまうとは。
妹の鈴音(〈マガツメ〉)さえも上回る絶対的な〈もののけ〉に対して、甚夜はいかに挑むのか。
そして、大きな禍根を残したまま大正編の終了。次の昭和編に繋がるのか?
百歳近く生きてきた甚夜は、見た目は18歳でも性格はだいぶ枯れてきている。だからと言って、皆が「甚夜」の名を捩って「爺や」と呼ぶとは。爆笑。
なお、表紙絵は、彼が〈空言〉で作り出した心象風景。これには泣いた。それから、いい所は貴一にみんな持っていかれて 、甚夜哀れの巻だった。

「星くずの殺人」 桃野雑派 著
事件は、宇宙ホテルの無重力下では実施不可の首吊り死体から始まった。真空に囲まれて外界との通信手段もなくなった究極の密室、宇宙ホテル。さらに、かろうじて届いた地球からの最後の電子メールは「帰還するな」。こんな類を見ない状況で連続殺人が続く。わすが数人の中から、全てを把握している犯人を特定し、連続殺人を止めることができるのか?
犯人による数々の仕掛けの方法が、ラストになりある1つに集約していくのが見事だった。
宇宙ホテルでの連続殺人という変格ミステリだけに収まらず、近未来に民間による低軌道宇宙旅行と宇宙ホテルが商業化されていく際の、社会制度、経済、技術、運用規定、更に会社経営などまで書き込んであり、興味深く読んだ。また、参加した客1人1人の動機が、みな『宇宙規模』なのが凄かった。

「紙鑑定士の事件ファイル 紙とクイズと密室と」 #歌田年
第3部
読んでいて頷いてしまう、紙などのウンチク話が大好きなこのシリーズ。
紙をもとにした推理でここまで行けるのか、と言う3編が並ぶ。そして、その根底にずっと流れ最後にはテーマとなるのが、この副題「紙とクイズと密室と」。これがとってもしっくりしていて、いい感じ。

「水面の花火と君の噓」 #水瀬さら

再読推奨
過去改変に向かう瑞希。大切な人達の明るい未来のため。自分よりも人の為に事を成せば、誰かから手が差し伸べられる。相手を支えようとすれば、きちんと向き合ってくれる。そんな真理が詰まった物語。
そして読み終わったら、タイトルを見直して欲しい。そのタイトルの意味がかわったうえでの再読をぜひ。登場人物達の心情により深く触れられるから。シーンの綺麗さがわかるから。

「環境省武装機動隊EDRA」 #斉藤詠一
急激な環境変化により、人類存続が急務となった近未来。環境省は「環境開発規制局(EDRA)」(俗称 環境省武装機動隊)を設立し、環境破壊行為に強権で対応した。その理念「環境は人命に勝る」は、人類が生き残るために必須だった。広範囲の知識による未来世界の緻密な構築に脱帽。
温暖化による(ほとんど知られていない)あるリスクをテーマに据えてあるところがすごい。EDRAの局員達の群像劇として骨太の物語が展開し、それが収束していく様子は迫力満点。

「グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船」 #高野史緒
最初は首を傾げた。2021年。火星基地があるがインターネットがやっと普及してきて電子メールに悪戦苦闘する夏紀。Google Mapを駆使し、量子コンピュータに関するアルバイトを始める登志夫。2人を取り囲む世界のあまりの不整合さ。でも、その理由がわかると、その世界観に愕然とした。
そして2人の非局在的な触れ合い。その不可思議さ、ロマンチックさに酔った。そして全てがグラーフ・ツェッペリンに収束していく。更にそれを超えての「量子力学的セカイ系」の終末に、2人の想いの終着点に思わず涙した。

「きみが忘れた世界のおわり」 #実石沙枝子

語り手は6年前に交通事故で亡くなった明音。彼女が「きみ」と呼ぶのは、幼なじみで共に交通事故に合い、そのトラウマから彼女に関する記憶を失った蒼介。蒼介は卒業制作で、全く覚えていない明音を描こうともがく。彼の前に現れるのは、明音の幻覚、アカネ。寄り添うのは幻覚で、物語を語るのは死せる者。
果たして蒼介が描くのは、明音?アカネ?  3者の想いが交わらず交差していく。その先に何があるのか?

「サエズリ図書館のワルツさん 1」 #紅玉いづき

紙本が稀覯となった近未来。その貴重な紙本を貸し出す、さえずり町の私立『サエズリ図書館』。その責任者ワルツさんと利用者達とのやり取りを綴った連作短編集の第1巻。そのやり取りの言葉が、じんわりと染み込んでくる。
そして、最終話で明らかになる、近未来の世界の実像。生きるには辛い世界。でも、そんな世界を生きるワルツさん達が背負うものを知ったからこそ、ハッキリと言える。紙本は人の心を優しく包み癒してくれる、と。

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