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どうなっている?西側vs露 つづき

前回は露によるウクライナ侵略を煽る主要諸国の近況についてだったが、今回は露が何を主張しているのかについて考えてみたい。

 歴史が長いので、とりあえず直近のポイントだけ:

 2021年12月、露が米と北大西洋条約機構(NATO)に対し『露と米国の安全保障に関する条約案』を出し、これの全面的な受入を求めた。これは8条しかなく、一見無茶ぶりに見えるが、背景を辿ると以外と、筋が通っていたことに気が付く。つまり、一言でいうと、この条約案は、今まで米露が直接もしくは双方が何等かの形で加盟している組織・団体を通じて交わしてきた約束事項の遵守を求めている。特に重要視されているのは、欧州安全保障協力機構(OSCE)2010年のアスタナ記念宣言(第2条、第3条)、1999年のイスタンブール首脳宣言(第8条)、露とNATO加盟国の安全を保障する措置に関する協定(第1条、第5∼7条)あたり。例えば、上述のアスタナ記念宣言第3条に:『各国の安全保障は、他のすべての国々の安全保障と不可分に結びついている。各国は、安全保障に対する平等な権利を有する。我々は、安全保障取り決め(同盟条約を含む)を選択しまたは変更する自由という固有の権利を確認する。各国は中立の権利も有する。参加国は他国のかかる権利を尊重する。参加国は、他国の安全保障を犠牲にする形で安全保障を強化しない』と、明記されている。他の条約の関連条項も同じ若しくはもっと分かりやすく表現されている。

 米・NATOへの条約案を最初から公にしているのも当然意図的な行為だろう。この条約案を公にすることで、露側は譲歩できなくなっているので、(対外的な意味合いに加え)露国内で政権争いを繰り広げている様々な勢力に対するメッセージでもあった。一方の米、NATOは締結前の条約案が公にされることに反対していた(が、結局のところ米側の回答がスペインのEL Pais紙にリークされたことになっている)。そうすると、今の西側と露間やりとり世間の目では、堂々と正論の主張をする露と隠し事をしたがる西側間の駆け引きに見えるだろう。これでますます露が国際的影響力を拡大することになるだろう。

 では、露は、米をはじめとする西側が今まで少なくとも欧州の安全保障に纏わる約束事を無視してきていると考えているのなら(個人的には立証していると見ている)、なぜ今になって同じ約束事を守らせられると思えるのか?実は、今回の条約案を受け入れてもらえると全く考えていないと推測できる。では何がしたいのだ?

 ここで、露ラブロフ外相の先日のインタビューから一部を引用して、上記の質問への答えの想像材料にしたい:

『露にかかっているとするならば、戦争はない。戦争は望まない。しかし、我々の利益を踏みにじったり、無視したりすることは許さない。話し合いは終わったとは言えない。西側が露の率直な提案に回答するのに1ヶ月以上かかったのだ。彼らの回答を受け取ったのは2日前のことだ。中身は典型的な西側スタイルだ。多くの点ではぐらかしている。ただし、準中距離及び短距離ミサイル並びに国境から離れた地域における軍事演習といった第二義的な問題については、合理性の片鱗を示している。前者に関しては、米がINF条約を破棄した時、プーチンが全OSCE諸国にメッセージを送り、モラトリアムに参加することを促した。当時は無視されたのだが、今回彼らの提案に含まれている。後者に関しても、露参謀本部が言い出したもので、過去においては拒否されていたが、今回彼らが議論しようと提案している。つまり、彼らの提案の中の建設的なアプローチは露のイニシアティヴを借用したものである。したがって、我々としては、欧州安全保障の基礎になる概念的な柱についてはっきりさせる必要がある。
露が昨年(2021年)12月15日に米とNATOに対して行った提案に関しては、「米は露のまわりのすべてのものを奪いあげたので、今更ジタバタしても手遅れだ。既成事実を受け止め、残された最低限のものを守ることに努めることだ」という前提に立つ限りでは、過大なものと見えるかもしれない。しかし、我々がほしいのは公正な扱いということだ。(2つのOSCE首脳宣言について)これはあなたたちが署名したものだ。西側は露が最後通牒を突きつけたかのように描き出そうとしているが、露がいま行っていることは、西側の記憶をリフレッシュし、大統領が署名しものの解釈をはっきりさせるということなのだ。西側が拠って立つものが外交であるとすれば、双方が合意したことから始めようではないか』。

今日はここまで。次回は、西側の反応についてもう少し詳しくそしてウクライナの立ち位置について考えてみたい。

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