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【読書感想】津村記久子「ディス・イズ・ザ・デイ」

津村記久子さんの小説「ディス・イズ・ザ・デイ」を読みました。2018年刊行。

本作は、架空のサッカープロリーグ2部に所属する22のクラブと、各クラブのサポーターたちを主人公にした11+エピローグの短編集です。
津村さん、22クラブ作っちゃったよ(しかもエンブレムまで)。

津村さんの小説はもともと文体やテーマが好きで、これまでも何作か読んでますが、これはある意味一番好きかもしれない。自分自身があるサッカーチーム(現在2部)のサポーターであるからかもしれませんが。

感想としては、共感できるところがたくさんありました。
まず、2部というところがいい。
上位や1部昇格を狙うクラブ、結果次第で3部に降格してしまうクラブのピリピリした空気から、地域柄なのかややまったりしたクラブのスタジアムまで、1部とは異なるこの雰囲気は行ってみないとわからないのですが、それが目に浮かぶようでした。
それぞれのストーリーには試合を通して悲喜交々があり、登場人物は境遇も年代も性別もバラバラの普通のサポーターですが、それがこの作品の良さを引き立てているような気がします。
登場人物が応援するクラブを「うち」というところもしっかり書かれてていい。選手やスタッフとして所属してるわけでもないのにうちと言うのがサポーターです(確かに各クラブはサポーターも一員としているので、あながち間違っている訳でもないけど)。

個々のストーリーでいうと、11話あるうちのお気に入りを探してみたのですが、半分くらいあったので挙げるのはやめておきます(爆)。人が自立し、一歩を踏み出そうとするきっかけ、伝統芸能、応援はたしかにスポーツと親和性が高いと感じました。

サッカーチームのサポーターは日々の生活でそれぞれの事情を抱えながらも、週末の数時間だけは悩みや憂鬱を忘れ、試合を楽しむためにスタジアムへ向かう。ある人はじっくり観戦し、ある人は選手のチャントを大声で歌う。皆、試合の結果や内容に一喜一憂し、自分のことでもないのに熱くなる。

サポーターとは勝手なもので、クラブが発足したころから応援してたりするとわが子を見るように語りたくなり、「来年この選手来ないかな」とか妄想したり、試合開始前のスターティング・オーダーを見て「今日は○○(選手名)じゃなくて◎◎だろ」とか「右サイドをもっと使えよ」などとあたかも監督みたいなことを言ったり、勝っても内容がよくなければ文句を言う。
あるときはクラブの動向にケチをつけたり、「自分が観に行くと負けるから」と自虐的になってスタジアムに応援に行かなくなったりする。もちろん仕事や他のことで行けなくなることもあるだろう。
それでも各々が愛するクラブはそこに存在していて、サポーターの事情などお構いなしに試合は毎シーズン開催される。「スタジアムに来るといいよ」と言ってくれている気がする。

自分は大阪生まれの大阪育ちでありながら、なぜか応援しているのは他地域のクラブという変なヤツですが、地元や他地域にかかわりなく、応援できるスポーツチームがあるのは幸せなことだと思います。
そういえば今年はチャリティマッチしか行ってないので、どこかで行きたくなりました。

本作はサッカーの試合だけでなく、試合の前後を通じて登場人物の心情や関係性にもフォーカスされているので、サッカーに興味がなくても読めると思います。
読了後、どこか心がじんわり温まるような、そんな小説でした。

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