【読書感想】「死神の浮力」


伊坂幸太郎氏の小説「死神の浮力」を再読しました。
伊坂幸太郎作品は、個人的に初期(2000年の「オーデュボンの祈り」〜2007年の「ゴールデンスランバー」)が好きなのですが、2013年に発表されたこの作品は、2005年発表の「死神の精度」の2作品目。

【あらすじ】
千葉という死神は、仕事として7日間、対象の人間を観察し、「可」(死)か「見送り」(生存)を判定する。「可」の場合は8日目にその人間の死を見届け、仕事を終える。
今回は、娘を殺された犯人を追う夫婦の仇打ちに付き合うことになる。千葉が観察するのは、その夫婦の夫であり、小説家。

以下、ネタバレを含みます。

今回追う犯人は、サイコパス。
サイコパスといえば、伊坂作品でいうと「マリアビートル」に出てくる「王子」というキャラクターを思い出しますが、今回も悪役の描写がめちゃくちゃ上手い。
「人を傷つけることにためらいがない人間」とは怖いものです。

そして、千葉のキャラは相変わらず楽しい。すっとぼけと思われ(本人は至って真面目)、いつでもどこでも音楽を聴くことに執着し、仕事はちゃんとする、そんな死神。

サイコパスの最期は、読んできた人ならみんな溜飲が下がるものだったと思います。
伊坂氏自身が「勧善懲悪は嫌いじゃない」とどこかのインタビューで言っていたとおり、このストーリーでも読者のモヤモヤを解決するようなオチを持ってきました。

そしてエピローグ。
最終日に千葉が下した判断(「可」か「見送り」)は、この小説を読んだ人のお察しのとおりです。
未来に再び千葉が現れ、その場にいた人物とその小説家のことについて話が及び、「とくに初期がよかった」という評判を聞くと、一言だけ、「晩年も悪くなかった」と呟くように言う。
千葉は過去に担当した人間のことをほとんど覚えていないそうで、その小説家のことも忘れていたでしょうが、このシーンがすべての着地点になりました。
これぞ伊坂マジック。

そして、直接は描写されていないものの、その小説家の妻とまた会う時がやってきます。
千葉は仕事のたびに容姿が変わる設定になっていますが、すぐに千葉だと気づくでしょう。もしかしたら、その女性を迎えにきたのかもしれません。このあたりは、読者の想像のとおり。

人間はいつか終わりを迎えますが、日々を摘むように生きたいものです。

この記事が参加している募集

#読書感想文

189,831件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?