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サンダース協奏曲-民主党が左に旋回し続けるわけ-

民主党の大統領候補指名争いからのサンダース氏の撤退により、バイデン氏がトランプ大統領と雌雄を決することが確実となった。サンダース氏は2016年に引き続き、二度目の大統領候補としての座を狙い、一時期は支持率で党内でトップを走っていた。だが、指名を得るために必要な選挙人の約三分の一が決まる、スーパーチューズデー(この日1日で大統領候補を選ぶ代議員のうち、およそ3分の1が決まる)の直前に中道派と目される候補者が次々と撤退したことにより、それらの人々に投じられるはずだった票のほとんどがバイデン氏に流れ、一気に流れがサンダース氏にとって悪くなった。そして決め手となったのが、独裁国家であるキューバを賞賛する発言である。彼は独裁国家でもできることが何でアメリカで出来ないのかという問題提起をしたつもりであったが、キューバでの圧政が嫌で国を捨てたキューバ系移民の反感を買い, 彼らが多く住むフロリダ州の予備選ではバイデン氏に40%もの溝を開けられ、大票田を落とし、形勢逆転が難しい状況に陥ってしまった。サンダース氏はそれを受けてフロリダ州での敗北から約2週間後に予備選からの離脱を表明し、バイデン氏の応援に回ると宣言した。しかしながら、サンダース氏が巻き起こした旋風は大統領選当日まで続くことが予想される。


To the Left, To the left (左へ左へ)

アメリカの有名歌手のビヨンセの「To the left(左へ)」という曲があるが、その曲の歌詞と同じように民主党は左へと旋回をし続けている。その理由のひとつが大きな政府、多様性をある社会を信奉する左派層から民主党への小口献金の増加である。近年、民主党はネットを通じて支持者が献金をしやすくするためのプラットフォームを整備しており、その甲斐もあってか2018年の中間選挙では共和党の現職を民主党の新人候補を倒してしまうという現象が起きている。

また、特に左派層の人々の献金が活発である。サンダース氏が2020年の民主党の大統領候補を決める予備選の出馬表明をした24時間後には約22.5万人の人々が合計で6億円以上の選挙資金が集まり、サンダース氏の支持者がいかに熱狂的かが伺える。

それもあってか、サンダース氏と共に予備選を戦っている候補は彼の支持者を意識した発言を討論会などで行なわなければならない。理由は簡単で、お金が無いと選挙は戦えないからである。実際に、莫大な額の資産を投じて撤退したブルームバーグ氏以外の民主党の予備選を戦っていた多くの候補者たちは資金難を理由に撤退を決めている。そして、今では民主党大統領候補としての指名が確実であるバイデン氏も、最初の二つの予備選での屈辱的な敗北のせいで、一時は大口献金者たちが彼が指名を獲得する可能性に疑問を抱き、献金を渋っていたほどである。そのため、各候補者はたとえ本心ではそう思っていなくても、安定的に献金を行う左派層に向けて、いかに自分の政策が急進的かということアピールせずにはいられないというジレンマに陥ってしまう。


そんな、そのジレンマと戦っていたのはバイデン氏も例外ではない。彼はグリーンニューディールや国民皆保険を声高に叫んでいる民主党左派と比べると比較的、政策に関しては中道だと言われている。しかし、予備選を通じて大きく左に旋回してしまっている。

バイデン氏は国民皆保険の導入に対し、一貫して否定的な態度を予備選中とっていたものの、サンダース氏の支持率が上がるにつれて、党内で影響力が高まる左派の票を取り込むために、グリーンニューディールや銃規制、国民皆保険などに対して好意的な姿勢を見せてきた。それもあり、それらの政策に必要な財源を確保するために大幅な増税を行うことを明言しており、その増税の額は約3.4兆ドル(約340兆円)に上ると目されている。(ちなみに2016年の民主党の大統領候補であったクリントン氏は約1.4兆ドルの増税を主張していたことから、いかに政府の権限の拡大を望む左派の影響力が強まったのかが伺える)


撤退してもなお、サンダース氏の影響力は見過ごせない

サンダース氏が撤退してもなお、彼の影響力を軽んじることはできない。確かにサンダース氏は予備選から撤退すると表明したが、完全に予備選から身を引いたわけではない。彼は選挙活動は中断はするものの、引き続き候補者名簿には彼の名前は残り、選挙人の獲得は続けていくと表明している。


常識的に考えると、予備選から撤退をすれば、自分の支持者に対してバイデン氏を大統領選で支持するように促すはずである。しかし、驚くことにサンダース氏は党大会で最大限の圧力かけてバイデン氏に自分の掲げる政策を採用してもらうよう努力をし続けると、撤退表明を発表した後に宣言した。冒頭でサンダース氏は撤退したと書いたものの、実質的には選挙に残っているのである。

今のバイデン氏とサンダー氏の関係は日本で言うと、自民党と公明党の関係と同じである。公明党は自民党と比べ規模は小さいものの、各選挙区では公明党支持者が一から二万人ほど存在すると言われており、党の方針に忠実であるため、候補者の当落を左右する力を持っている。そして、自民党は公明党の選挙協力がないまま都議選を戦ってぼろ負けしたことから、いかに公明党は自民党にとって無視できない存在なのかが分かる。

サンダー氏は言うなれば公明党と同じ存在である。確かにバイデン氏は万人受けする候補者ではあるが、支持者一人一人はサンダース氏のカルト的な支持者のようには従順的ではない。また、2016年の予備選後にサンダース氏がクリントン氏の支持に対し消極的なこともあってか、彼女が接戦州を全て落とし、トランプ氏に敗北したことからサンダー氏支持者の票がキャスティングボードを握っているとも言える。

そして、トランプ大統領が泡沫候補と言われていた2016年と比べ人気が格段に上がっていることを考えるとバイデン氏にとってサンダース氏の熱狂的な支持者は捨てがたい。トランプ大統領は共和党支持の人々の間では弾劾裁判中でも95%以上の支持率を保っており、ヒスパニックや黒人の失業率を歴代最高水準まで抑えたことから非白人の支持率が2016年と比べ物にならないぐらい高まっている。そのことを考えると、なおさらサンダース氏の支持者を確保することがバイデン氏とっては必須なのである。

よって、民主党内でのサンダース氏の影響力は衰えるばかりか、強まる一方であり、彼がいる限りバイデン氏はサンダース支持者の方を絶えず意識する必要がある。サンダーズ協奏曲はまだまだ始まったばかりである。


参考文献







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