寂しい愛を【短編小説】

お互いを満たすためだけのハグをした________

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去年の秋に私が彼氏に振られてからもう半年経った。
別れた原因は別にどっちかが悪いとかじゃなくて、少しづつ距離ができたっていうよくある話だと思う。
でも世界で1番大好きだった。
一応過去形にしたけど振られてからもずっと好きだった。
さすがにずっと引きずってるのはダサいしキモいし重いって自覚してたから、忘れるためにも新しい恋をみつけようと思ったの。

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4月、学校が始まって、クラスには話した事のない人が沢山いた。
名前を知らない人の方が多いくらい。
目の前の席の大人しい男の子と目が合った。
海くんって名前らしい。
私の好みどストライクって見た目で、とりあえず仲良くなって見ようと思った。
何回も声をかけてくうちに、少しだけ向こうの話もしてくれるようになった。
恋愛感情を抱いたとかじゃないと思うけど、私は海くんに惹かれてた。
なんでこれが恋愛感情じゃないと言いきれるのか、それは私がまだ元彼を好きだから。
別れたあの日から1回も話していない元彼を好きなのは依存なんじゃないかって薄々気づき始めてたけど、でもやっぱり忘れられなかった。

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梅雨真っ只中のこの日、私は初めて行く友達の家に遊びに行っていた。
適当に過ごして、暗くなるころにはバイバイをした。
初めて来た場所で帰り道が分からないから、スマホの地図を見ながら駅を探そうと思って歩いていた。
途中まで来たところでスマホの充電が切れた。
迂闊だった。
しかもスマホを見ながら歩いていたせいで、どの道を通ってきたかも分からない。
土地勘のない私が歩き回ったって更に迷うだけだろうから近くに人がいないか探してみたが希望は薄そうだ。
行きは雨が降ってなかったから折り畳み傘しか持っていない。
横殴りの雨でどんどん服が濡れていく。
とことん不運だ。
すると目の前の家の玄関から人がでてきた。
海くんだった。
私も驚いたが、海くんの方が驚いていた。

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どうしたの。
海くんに聞かれたから経緯を答えた。
道を教えてくれるかと思ってたのに、家入る?
って意外な言葉が帰ってきた。
びっくりしてたじろいでいると、親帰ってこないから気にしなくていいって。
そういうことじゃないと思うんだけど、濡れた服で寒かったからお言葉に甘えて上げてもらった。
タオルと着替えのパーカーを貸してくれた。
海くんの匂いだ…とかいうキュンキュンイベントは発生してない。
だってそもそも海くんの匂いなんて知らないから。
お風呂も貸してくれるって言ったけど流石にそれは遠慮しといた。
落ち着いて考えると、こんな時間にまだ少ししか話したことの無い男子の家にいる自分ってなんなんだろうって思った。
それと同時に元彼のことも思い出した。
お家デートした思い出が頭をよぎった。
クラスメイトの男子の家で元彼の思い出に浸ってる自分って本当になんなんだろう。
急に寂しくなった。
それが顔に出てたのか、海くんに心配された。
スマホ充電してゆっくりして行けばいいよ
って言ってくれた。

海くんの親は帰ってこないのだろうか。
お母さんとか大丈夫?仕事?
って聞いてみた。
海くんは少し迷ってから、水商売って答えた。
お父さんは居なくて、夜はいつも海くん1人らしい。
おばさんにもなって水商売から上がれてないとか引くよねって
海くんが寂しそうに笑った。
あまりにも寂しそうに話すから。
だから 私はすぐに答えた。
海くんをこんなに素敵な人に育てたんだから凄いお母さんだよって。

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海くんに抱きしめられた。
ありがとうって小さな声で何度も言いながら抱きしめてくれた。
私の寂しいと海くんの寂しいが合わさって、悲しいハグをした。
私の好きな人は海くんじゃないし、海くんの好きな人は私じゃない。
でもそれでいいって思った。
満たされたかった。
海くんも同じ気持ちだろう。
恋とか愛とか恋愛感情じゃないと思うけど、お互いにお互いを満たすためのハグをした。
私はこれでも幸せだった。

2人は寂しさと幸せに溶けた______

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