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スプラトゥーンで、味方が弱いせいで負けることがやたら多いと感じる脳の仕組み

味方のせいで負けたと思うのはどういうときか

 スプラトゥーン3でたいへんよく見かけるのが、味方が弱くて勝てないという不満だ。
あまりにみっともないのでネットに書かないまでも、バンカラマッチで味方に不満を感じたことがないプレイヤーはいないだろう。
そして、味方が強くて勝たせてもらった試合より、味方が弱いせいで負けてしまった試合のほうがはるかに多いと感じているはずだ。

 なぜ味方が弱くて困っている人ばかりなのか。同じくらい、味方が強くて勝たせてもらって喜んでいる人がいないと計算が合わないのではないか。

 味方のせいで負けるということをもう少し分解してみよう。
味方を責める気持ちは自分の主観と結果の差から生まれる。自分は充分役割を果たしたと思っているのに、試合に負けたという結果がでると、認知と現実に歪みが生まれる。
これを捉え直すために、脳は自分以外に原因を求める。そこで味方の悪いプレーを覚えていたり、ひどいリザルトの味方を見つけたときに、それが敗因だと判断し、味方のせいで負けたという気持ちになる。

 主観と結果が一致していると、あまり外に原因を求めない。自分のプレーがだめで負けた試合、自分がいいプレーをして勝った試合では味方に気が行くことはおこりにくい。
自分はちゃんとやったのに、負けた。この認識が味方のせいで負けるという気持ちに発展するのだ。

チーム内の序列を基準に、敗因を考える

 スプラ3は任天堂の2023年第2四半期決算によると国内で2022年9月までに501万本売れている。おそらく同時接続で数十万人のプレイヤーがいるので、自分より強いプレイヤーも弱いプレイヤーも、実質的に無限にいる。
例外は超上位勢だけだ。スプラ3ではまだXマッチが実装されていないので、スプラ2でいうと上位500位までの王冠を取っていたような、周りより強くて当たり前で、マッチングのたびにキャリーが求められる人にはこの記事の内容は当てはまらない。

 スプラトゥーンのバンカラマッチチャレンジ、ガチマッチは4体4のランダムマッチングで、レートが近い人を集めているとはいえ、集まったチームメイトにはどうしても実力差がある。
チームの4人のうち一番強い人を「強い」、弱い人を「弱い」、中間のふたりを「普通」とすると、ある試合で自分がチーム内のどの役割になるかは均等に25%の確率となる。

試合内の自分の序列

 それぞれの役割で試合をした後に、味方に対してどのような感想をもつだろうか。
負けた試合について考えてみよう。

 自分が強い枠だと、自分はよい成績を残しているのに、味方の戦績はボロボロだ。敵を倒しても味方が押せないのでカウントがとれない。ホコを持ったりヤグラに乗ったりオブジェクト管理をしようとも、味方が周囲を守れないので進めない。
味方が弱い、ムカつく!

 自分が普通の枠ではどうか。抜きん出た結果は残さなくても、キルレがプラスだったり、オブジェクト管理も含めて、水準以上の結果は出している実感はあるのに、負けたという結果が残る。リザルトをみると、ひとりどう見ても足を引っ張っているプレイヤーがいる。例えば3キル5デスのチャージャーとか。
味方が弱い、ムカつく!

 自分が弱い枠の時はどうだろう。相手が強くて、デスも多かったしやりたいこともできず、何も活躍できず終わってしまった。さすがに味方のせいとは思わない。
格上マッチングだった。こういう試合もある、切り替えて次に行こう!

脳は負け試合の75%で味方のせいだと思ってしまう


自分の序列と敗因の認識確率

 以上の構図を図示すると、なんと負け試合では75%もの確率で、味方が弱かったと認識している。もちろん個別の試合では肝心なところで自分がミスしたなどで、味方への不満を感じない場合もある。しかし平均すると75%の試合で味方への不満を感じてしまうのだ。
ポイントはこれが50%ではないというところだ。チーム内で実力が少し劣っていても、試合ではそれなりの役割は果たせているので、自分がはっきり力不足の試合以外では、味方に対して不満をもってしまう。

 逆に勝ち試合の場合はどうだろうか。
自分が弱い枠のときは、格上に勝てた強い味方に感謝できる。相手は強かったが勝利できた。味方ありがとう!
 一方負け試合と同様、自分が強い枠か普通の枠、つまり75%の場合は、自分はきちんと活躍して勝っているので、味方に勝たせてもらったとは思わない。つまり勝ち試合で味方のおかげで勝てたと思う確率は25%となる。

 負け試合では75%が味方が弱いせいで、勝ち試合では25%が味方が強いおかげ。人間の認識の構造を確率にすると、はじめの疑問への回答になっている。
なぜ味方が弱くて困っている人ばかりなのか。それは負け試合の75%で味方の弱さが敗因であると認識する一方、味方のおかげで勝てたと認識する勝ち試合は25%しかないからだ。
味方のせいで負ける試合が、味方のおかげで勝てる試合の3倍もあるのだから、自分が不運と感じるのは当然だ。

出来事に因果関係をあてはめてしまう錯覚

 自分はそんなに単純ではなくもっと冷静で、味方のせいになどしないと思うだろうか。しかし人間の脳は直感的に無意識の判断をしている。それは多くの場合正しく有用だが、特有の傾向があり、同じところで何度でも間違えてしまいがちなエラーがある。そんな人間の不合理性は行動経済学の分野で研究が進んでいる。ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンは著書「ファスト・アンド・スロー」で直感が間違いを起こすパターンを紹介している。

 人間の直感は、因果関係の錯覚を起こしやすい。「ファストアンドスロー」に挙げられた例を紹介すると、イラクでフセインが逮捕されたニュースが流れた日、アメリカの国債価格は上昇していた。メディアは、「フセイン逮捕はテロ抑止につながらないとマーケットは判断」と報じた。
30分後、国債価格は下落した。メディアは、「フセイン逮捕でマーケットに安心感」と報じた。
 大きな事件はさまざまな結果を引き起こすとみなされ、結果にはそれを引き起こす原因が必要だと考えられている。直感は出来事を因果関係で理解しようとするが、それが真に因果関係があるのかは慎重な検証が必要だ。同じ出来事を、反対の結果の理由に当てはめることもあるのだから。

 試合で勝てば勝因を、負ければ敗因を脳は直感で探しはじめる。スプラトゥーンの試合中、他プレイヤーの情報を集めることは強くなるために欠かせない。イカランプを見て人数把握しよう、味方位置を把握しようとはどの攻略でも言われていることだ。
 負け試合では、味方の不甲斐ない姿も何度も見ることになる。上達するほど味方の動きが見えるようになる。勝敗は無数の要素の集積で決まるもの。ひとつのプレー、ひとりのリザルトだけで決まるものではない。
 しかし直感は、よくないデスをしてしまった味方、リザルトが悪かった味方を見逃しはしない。安易に因果関係があると認定し、負けという結果の理由に結びつけているのだ。そして負け試合の75%という高確率でこの認定が繰り返されることで脳は確信を深めていく。はじめは少し味方弱かったかな?と脳裏によぎる程度だったのに、何度も繰り返されるうちに、何でこんな弱い味方ばかり押しつけられるのだ!という怒りに変わっていく。

仕組みを理解して、気持ちを落ち着かせよう

 味方が弱いせいで負けたと感じることが、味方に勝たせてもらったと感じるよりはるかに多いのは、人間の直感認識がそのような仕組みになっているからだ。味方を責める気持ちは単なる責任逃れやわがままではなく構造的なものだ。これが脳の正常な反応の結果であるなら、どうやって味方を責める気持ちをなくせばいいのか。
必要なのは、メタ認知能力だ。メタ認知とは、自分の感情を客観的に捉え直すことだ。今回紹介した、75%の確率で味方のせいで負けると感じる構造を覚えておくことで、実際に味方が弱いと不満に感じたときに、客観的に感情を認識し、落ち着かせることができる。直感の脳を制御するために、熟考の脳を働かせるのだ。

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