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フランスワインを巡る旅 ねむりたかった空の旅


エッフェル塔が見える


機内でどう過ごすかーー
遠距離便に乗るなら、これはなおさら深刻な問題だ。

しかし、私は決めていた。
往の便では「しっかり寝る」と。

そう心に決めていたので、
移動などでの時間のロスの少ない直行便を選んだ。

東京が真夜中の間に発ち、現地時間の朝にパリに到着。
飛行機がロシアの上空を避けるため、少し長い15時間の空の旅。
席はエコノミーでもゆっくりできそうな窓側を選んだ。

ちなみにプレミアム・エコノミーやそれ以上という選択肢はないのはいうまでもなく。
だからもう、とにかく搭乗したら寝込んでしまおうと思っていた。

しかし、こういう日に限って仕事がどんどん参りこむものだ。
早く帰りたいのに、帰れない。
空港に着いたとき、予定の時刻を大幅に超えていた。

そして何より今回、スーツケースが重すぎた。
文字どおり、空港までもら、旅先でも、
いろんなところでお荷物になった。

空港で重さを量ったところ、30キロをゆうに超えていた。
いろいろ詰め込んでしまった、今となっては一度も開くことさえなかったワインの参考書なども、そういえば。

前日にカシコくオンラインチェックインをしたはずが哀しいかな、
荷物の超過料金を支払うために、長蛇の列に並ぶ羽目になった。

いらいらしながら並んでいたら、
前にいた長身の外国人男性が話しかけてきた。
多分、英語だ。

何かを聞きたいらしいが、
全然、わからない・・・・・・。

英語力のない私も残念だが、彼の訛りも相当強い。
ネイティブでないなら、フランス語圏の人かと思い、思い切ってフランス語で問いかけてみた。

“Vous parlez le français ? ” 
フ、フランス語は話せますか。

“Mais ouai, et vous ? ” 
はい、あなたも?
キョトンとした目をしていた。

どうやら彼は、荷物を預ける時に受け取る証明シールをどこに貼ればよいかわからず、私に尋ねたようだった。

とりあえずなんでも、聞いてみるものだ。
外国語はできるに越したことはない。
フランス語も然りだが、英語はなおさらだと思った。

初めての日本旅行からフランスへ帰る彼は、私にこう尋ねた。
「日本人は英語を勉強しないのですか」

日本の旅行は楽しかったようだ。
しかし旅先で英語が通じず、いろんなところで困ったらしい。

中学校と高校で英語を学ぶと説明したら、今度はこう尋ねた。
「学校で英語を学ぶのに、なんで話せないのですか」
それができるなら苦労はない。

そこからしばらく彼とおしゃべりしたおかげで、いらいらは少しだけ解消された。

その間も、あちこちで英語やフランス語、その他の外国語が飛び交っていた。
日本と海外の境にある、非日常の空間だ。

その後の搭乗手続きはスムーズだった。
待つ間もほとんどなく、いざ機内へ。

窓を覗いたらふと、オレンジの灯りの中に飛行機が並んでいる様子が見えた。
それと同時に、無意識に蓋をしていた感情が一気に湧きあがってしまった。

私はこれから、フランスに行くんだ・・・・・・!

高揚感というものか。
自由な旅ができなかったこの4年間、忘れていた感情だった。

こんな状態で眠るなんて、できそうにないな。

機内食も食べずに寝込もうとしていたのだが、この日はお昼もパン1個しか食べていなくて、空腹だった。

機内食を運ぶカートが客室にはいりこんだ瞬間、私のいつもより研ぎ澄まされた嗅覚は、素早くそれを察知してしまった。

やれやれこれはもう、眠れないやつだ・・・・・・。

そんな私の機内食がこちら。

メインは鮭

普段より量多め、油分も多め。
チーズにデザート、なフランス料理。

この夏はあまり食欲が湧かず、私の胃袋はかなり小さくなっていたことを実感した。
フランスに滞在するのに、これはいかんな。

飲み物を運ぶカートにワイン瓶を見つけてしまったので、白ワインをオーダー。

これが、フランスワインを巡る旅の最初のワインだ。

ペイドック

フランスの南部生まれ、ミュスカとソーヴィニョン。
値段とか評価は良く分からないけれど、
そんなに高級なものではないだろう。

開けたばかりの時や、食事と一緒に飲んでいた時は、香りが弱く感じた。

その後も瓶とグラスをとっておき、全く頭に入らないフランス語の本を片手に少しずついただいた。

グリーンランドの上を通る

就寝時、いつもなら本を開けばすぐに眠りに入れるものだが、空の上ともなると興奮も相まって、いつも通りにはいかなかった。

どれくらいの間か、頭に入らない文字を、しばらく目だけ追い続けた。

そんな辛い時間の経過とは逆に、ワインは花を咲かせるかのように、だんだんマスカットやパイナップル、はちみつなど、華やかな香りに移っていった。

眠れない。
それに、読めない。

グラスをくるくる回して、鼻に近づける。
あぁ、なんてアロマティックなんだ。

(繰)

いつもは睡眠導入剤代わりの難しい本のおかげで、頭は完全に冴えきってしまった。

そんな時でも、ワインは時間に少しばかりの彩を添えてくれる。

ワインのこういうところが好きだ。

今度はスマホを取り出して、誰にも読まれないだろう文章を書いて消すを繰り返す。

その間、飛行機は順調に目的地に向かっていくのであった。

眠い。でも、フランス!


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