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ジェイズ・バーで村上春樹の『ノルウェイの森』について語る夜


私はひと夏で25メートルプールいっぱいのビールを飲み干すことなんてできませんよ。

飲み干せる気がする?  ひと夏あれば?

まあそう言われればそんな気もしますけど。


私たちってここ(ジェイズバー)でよく会いますよね。
え?床いっぱいにピーナッツの殻を撒き散らして5センチになるまでこの夏通うんですか?

...すごいですね。

あ、いや、本当にそう思ってますよ!クレイジーとは思ってないですよ。

私も『風の歌を聴け』読みましたから。気持ちは分かります。

それにしても、ここで飲むビールってなぜか格別なんですよね。



たぶん、このジェイズ・バーの雰囲気が良いからでしょうね。あるいは、ここで知り合う他の村上主義の方みんな良い人だからかも。



...唐突ですけど聞いていいですか?

私イギリスに住んでいたんですけど、その時ベルギー人の友達、その人も村上主義なんですけどね。その友達と村上春樹の『ノルウェイの森』の話になったんですよ。


私達二人ともノルウェイの森が好きだし、何度も読み返しているんですけど、2人揃ってどうしても分からないことがあって。



最後にワタナベとレイコさんは、なぜいきなりそういう関係になったんですか?
いわゆる一夜を共にしたわけですが。


「ワタナベは直子のことが好きだったんじゃないの?あるいはミドリが。なぜレイコさんと?」

っていうシンプルな疑問なんですけど。

考えを聞かせてくれれば嬉しいのですが...




あ、もうビールなかったですね。じゃあ次は、この新しいエールにしてみようかな。
私買いますよ。いえいえ、全然大丈夫です。

これ二つお願いします。


Cheers!




そうそう、ノルウェイの森ですよね。


ノルウェイの森には、特別な空気感があります。それが私の好きなところです。


その空気感って、なんだか「しん」とした、生と死が隣り合わせでひっそりと生きている世界じゃないですか。


それって紛れもなく、私たちがいるこの世界なんだけど、実は私達は、普段それを感じてはいない。この本が、大切なそのことを思い出させてくれるような気がするのです。

だから何度も読み返しているのかな。


私が思うノルウェイの森

英語版ノルウェイの森



直子は恋人のキズキを自殺で失い、その出来事からずっと立ち直れないでいる。直子は常にヒリヒリと痛みを感じていて、読んでいるとその儚さや不安定さがありありと見えてくる。

主人公のワタナベは直子に強く惹かれている。
けれどワタナベが直子を助けようとしても、彼女の心が100%彼に向かうことはない。直子は過去に囚われているし、同時に死に強く引き寄せられてもいる。


それに対して、同じ大学のミドリはまさに対照的。生の象徴で、話して笑って、怒って泣いて、ワタナベを翻弄する。ミドリはワタナベのすぐ隣で、多くの色彩を持って生きている。

一方直子はごく自然に死へと向かっていく。まるで列車が駅に到着するように、真っ白な雪が音もなく降り積もっていくように。

それなのにワタナベはミドリに惹かれながらも、直子を忘れることはできない。

この不思議な重力は、恋という説明だけでは片付けられない。

しかもワタナベはあと一歩のところで、直子の影に、彼女の亡霊にとり殺されるところだったんじゃないかと思う。

なぜ直子はそんなことをするのか。ワタナベのことを連れていこうとしたのか。

直子の一部がキズキの死とともに死んでしまったように、ワタナベの一部も直子の死によって死んでしまうべきだと、彼女は思ったのか。それが直子にとっての愛だったのだろうか。

けれどワタナベは最後、生きることを選んだ。

かけがえのない、生きて息をして確かにそこにいる、ミドリの存在があったからだ。私はそう思っている。


再びジェイズ・バー

私は本を読みながら「ワタナベ、直子はやめてミドリにしておけよ」と心の中で思ってしまうわけです。けれどワタナベはまた直子に会いに行く。まるで魔法にかけられたように、抗いがたい力で直子に惹かれている。そしてボロボロになる。

ミドリが「ワタナベくんてハンサムでもないのに、見てるとなぜか、この人でもいいかなっていう気がしてくるのよね」ってそんなセリフ、覚えてます?

あれってよく考えたらずいぶん失礼な物言いなんだけど、本当に心惹かれる人って、確かに初対面から言いたいことがはっきり言えたり、なんでも話せる独特な空気感ってあるじゃないですか。

ミドリのワタナベに対する気持ちってそんな感じだったのかな、って。私はミドリは面白くて好きですね。


生と死の間で揺れ動く主人公、ワタナベ。どこか優柔不断な感じがするけれど、「なぜこんな奴がモテるんだ」と思うけれど、でも私は、魅力があると思いますよ。


ワタナベの魅力が何なのか、具体的に?

...そうだな。自分に正直で飾らないところ、自分の空気感をまわりに合わせたりしないで、自分は自分らしくいるところ、けれどなぜか全く目立たないところ、ですかね。

意外と現実味のない性格の主人公ですね。『全く目立たない』というのがポイントですけど。


ただ本当に、直子の友人である年上のレイコさんとワタナベが、いきなりそういうことになったのは、「なぜ?」となってしまったんですよ。

もちろん私もたくさん考えました。


例えば、レイコさんは療養所にいる時、直子とはなんでも共有してきたからだろうか。

だからワタナベのことも共有しようとしたの?

それとも直子をきちんと死の世界へ送り出すため、またその後レイコさんもワタナベも直子なしで生きていくため、必要なことだったのか?

その他くだらない理由も色々と考えましたよ。まあ言うほどのことじゃないです。

いくら考えても、自分なりの「これだ」と思う答えが見つからないんですよね。

だから、ぜひ意見を教えていただきたいのです。


ワタナベはあまり好きではない? ...それも聞きますよね。確か私の友達もそう言ってました。


私?好きですよ。だからこそ最後にレイコさんとなぜそうなったのか知りたいし、聞いてみたいんです。

また違った見解がある?ぜひ話聞かせてください。お願いします。
ピーナッツの殻、たまってきましたね。

次のビール買ってくれるんですか?それはありがとうございます。
じゃあ、次はまた違うビールにしようかな。

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