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甘く淡い夢の話

夢を見ていました。
暖かくて、ふわふわした、おひさまの匂いのする羽毛布団にくるまるような夢。

ちょうど日付の変わる頃、はっと我に返れたことは、私にとって奇跡的な出来事でした。
現実へ戻ってきた私は、すぐにスマホの時計を見ました。
時刻はゼロ時をまわったところ。

『よかった、まだ今日だ』

違う、日付は変わっているのだから、私の思っていた『今日』は、すでに終わっています。
でも、不幸中の幸い。
日付は変わってしまったけれど、まだ朝までは時間があります。

ホッとすると同時に、やっと「いろいろおかしいな」という、想いが頭の中に浮かび上がってきます。

『私は、まだ寝るつもりではなかったはずなのに…ほら、メガネが無くなっている』
(よくある現象です)

『長男が寝るのを、見届けようと思っただけなのに…あ、知らない間に寝てる』
(子供より先に親が寝ていたという、よくある現象です)

『そもそも、長男の布団しか敷いていないのに…やだ、足が半分落ちてるじゃない。ごめんね』
(知らない間に子供の布団に寝ているという以下略)

母親らしからぬ、なんと落ち度の多いことかと反省するのは毎度のことで、睡魔に弱い私なのでした。

たった今気づいたかのように、まるっきり投げ出していた布団をそっと掛けて、涼しい顔で眠る長男を残して部屋を出ました。

子供部屋という名の、二人の子供のための部屋。
それは、主人から子供たちへの愛ある贈り物。
夜通し梱包してそれでもまったく間に合わなかったダンボールたちで埋め尽くされた部屋は、布団を一枚敷くのがやっとで雑然とした雰囲気だけれど、長男は終始、笑顔を絶やさないで大変な一日を乗り越えてくれました。

新しい家、新しい場所、新しいわが家の歴史が、確実に始まったのです。

計画性の必要性と可能性

昨日まで、そうホントの24時間前、私は必死に空のダンボールを埋め続ける作業に没頭していました。
認知症で足腰の弱った義母をショートステイに送り出し、新しいお家とおばあちゃんの家へお泊りというダブルの喜びにルンルンする長女を実家に預け、引っ越し前日の夕方から始まったその戦いは、大方の予想通り、まったく終わりが見えません。

遅すぎる。
そう、私はすべてが遅すぎる。

40坪6DK、主人の分を除いた私と子供たちと義母の荷物を1晩でまとめあげようと思うこと自体が、それまったく無謀と言うほか無いのです。

ダンボールにプリントされたパンダのキャラクターが、愚かな私を見てケラケラと笑っています。
翌朝、あと数時間で引越し業者が来るというときにまだせっせと荷造りをしている私を見て、主人は呆れるを通り越して笑いが止まらない様子でした。

「だから、夏休みが終わる前にある程度終わらせておけと言ったのに!子供のこととか、おばあちゃんのことで、何があるかわからないんだからさ」

まったく仕方ないなと言外にありありと不満を述べながら、主人と長男のタッグで私が詰めた荷物に封をするのを手伝ってくれました。

『だって、だって、毎日やることがたくさんあるんだから仕方ないじゃないか』

いつもながら、子供じみた言い訳を繰り返す私は、我ながら進歩のない人間です。
でも、だって、本当なんだもん(笑)

主人は、計画性を重んじてとにかく何事もテキパキさっさと進めようとします。
来たるべき今日という日のために、体調のコントロールをしたり、入念に荷物をチェックしたり。
当然ながら荷造りも早々とスタートし、引っ越し一ヶ月前の8月末には、部屋中ダンボールだらけにして家族を驚かせていました。

対する私は、なかなかどうして、いきあたりばったりにしか物事を進められません。
そして出てくる言い訳は『今日はでかけていたから』とか『おばあちゃんの通院が』とか『子供の用事で』とか、まあまあ、事実なんだけども繰り返し使うべき言い訳ではないよね、というレベルの話。

私は、私を決して過大評価はしていないと思うのですが、どうにも予定を詰め込みすぎるようです。
『これ、どう考えても一週間後に自滅するよね』という、いつものパターン通り。

それにしても「一生に一度、あるかないかの自宅引っ越しなんだから、それだけは計画的に進めておけば良かった!」と嘆いても、後の祭りです。

結果、鍋やら洗面道具やら、普段使うものを前の住所にごっそり残して、引っ越しが敢行されました。
元いたお家に残してきたものは、一週間のうちにすべて引き上げなければいけません。
はい、自業自得です。

目に見える景色の変化と3名のパンダさん

新居のキッチンから見える風景は、すでに私の憩いの場所になりました。
夢にまで見た、対面キッチン。
これからは食事の支度をしながら、子供がくつろぐさまを横目で見れると思うと、ニヤニヤが止まりません。

なんて考えながら、箱を開けては今朝しまいこんだばかりの品々と対面を繰り返し、ようやく探し求めていた白米さまと巡り合うことに成功しました。

白米さま、白米さま。
普段、当然のごとく米びつからザクザク出てくるものだとばかり思っていましたが、生産者のみなさんのたゆまぬ努力と苦労の結晶であり、尊ぶべきものだということを今更ながらに実感しています。

日常に込められたすべてのもの、身の回りのもの、家族、関わる人、すまい。
何一つとして、当たり前にそこにあるわけではないということを改めて感じた一日であります。

パンダマークの引っ越し屋さんは、3人組で我が家の引っ越しを実行して下さいました。
その人間模様が、なんとも面白い。

30代前半ぐらいの、リーダーと思しきお兄さん。
30代後半ぐらいの、ベテランの空気感漂ういかついお兄さん。
20代前半と言うか、学生じゃないのかなーと思われる若手のお兄さん。
みんな等しくお兄さんと呼ばせて下さいね。

朝8時から夕方3時まで、昼食を挟んで行われた引っ越し作業。
3度に渡る積み込み・荷おろしの作業はそりゃあハードワークに決まっています。
しかしながら、お兄さん方の仕事はサクサク進み、チームワークも抜群!
特に、リーダーとベテラン二人の息ピッタリな様子を見て、パンダさんにおまかせしてよかったと思いました。

ところで、もう一人の若手くんはというと、若手らしく「もう限界です」「足にきてます」「若いのに、情けないです」と、要所要所で正直な感想を漏らしていました(笑)
いやいや、NGワード多分に含まれてるけど、気にする余裕がないんでしょうね。

すべての作業が終わり「これで終了になります」とリーダーが告げ、みんながほっと一息ついたあとの会話が面白かったです。

若手「疲れましたね(正直)」
リーダー「ははは(それ言うなよ、の笑い)」
若手「ぼく、もうダメです」

バックヤードでする会話ですよこれ(笑)
と思ったら、次が良かった!

ベテラン「お前な、これからお客さんはこれ全部、開けなきゃいけないんだからな」

もちろん、3名のパンダ部隊の活躍がなければ到底成し得ない引っ越し作業。
とはいえ、彼らが手伝ってくれるのはAからBへの移設だけであって、荷造りと開封とその後の配置等は、うちの人間がすべてやるんですからね〜。
さりげない一言が嬉しかったです。

そこでとどめておけばいいのに、「ね?」と同意を求められて「そうなんですー、向こうの家にもたくさん残してきてるし、ほんとに大変ー」と言わなければいいこと言っちゃう私。
おばさん丸出しで、我ながらドン引きでーす(笑)

たどり着いたスタートライン

とはいえ、新たなスタートを切った我が家。
お米を研ぐという、小学生レベルの家事をやっとこさ終えた私にとって、先は長く遠いもの。

朝までに、長男の明日の持ち物を整えて、明日の手続きに使う資料を用意して、必要なものをリストアップして…。
やらなければいけないことは山ほどあるのに、今この瞬間に書き物をしているのが、私の人として終わってるところであります。

様々な人の思惑と、長年に渡る構想と、しがらみと、人間模様と、幾多にも及ぶ論争の末にたどり着いた、新しい我が家。
詳しいことはまたの機会にして、今はやるべきことに向かって進みたいと思います。
というわけで、本日はここまで。

あなたにとって、今日が良き日になりますことを。

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