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2020年上半期の音楽

 2020年上半期にリリースされた音楽アルバムや楽曲のうち、特に気になったもの、気に入ったものを備忘録としてまとめておこうと思います。

worst / KOHH

 一月に行われた『KOHH Live in Concert』で引退を発表したKOHH。引退作となる"worst"には過去にレコーディングされたと思しき楽曲も収録され、原点回帰的な一枚に仕上がっています。「Boyfriend no.1」、「コンビニ感覚で行こうディズニーランド」といったフレーズがきける"John and Yoko"、名曲"Far Away"のメロディを採用したアウトロが追加録音されている(3月にNHKで放送されたドキュメンタリー番組『シブヤノオト』でその時の様子を確認できる)"They Call Me  Super Star"など、ファンの胸を熱くする演出が心憎いですね。
 一方で、もはやHIPHOPでもなんでもなくなったソフトロックナンバー"Rodman"や、謎の牧歌性に面食らう"What I Want ?"などからは、常に最先端を走ってきた彼の実験精神がまだ衰えていないことが窺えます。個人的には前作"untitled"のオフビートフロウに磨きをかけた、"Anoko"がベストトラック。あとこれはわかる人だけでいいんですが、"Rodman"聴くとオワリカラの「ベイビーグッドラック」を思い出しませんか?

Innocent Country2 / Quelle Chris & Chris Keys

 "Innocent Country" (2015) に続くラッパーQuelle ChrisとキーボーディストChris Keysのコラボアルバム第二弾。全体的にChris Keysのジャジーなプロデュースが心地よく、特に#4、#9は出色の出来。また#13はどことなく久石譲を思わせる叙情的なメロディラインが耳に残ります。
 ですが個人的にはやはりEarl Sweatshirt参加の"Mirage (feat. Earl Sweatshirt, Denmark Vessey, Merrill Garbus & Big Sen)"を推したい。アルバムを通しで聴いてみるとどの曲もかなりハイクオリティなので「これでEarl参加曲が微妙だったらどうしよう」と不安にもなったのですが、14曲目に収録された"Mirage"にはアルバム中最もノスタルジックなトラックが用意されており、我らがチーフ(Earlの別名)は映像的なサウンドの中から満を持してぬらりと現れたのでした。夕方のチャイムを思わせるピアノループになんとなく「Air/まごころを君に」におけるシンジ君の回想シーン(公園で気味の悪い人形と遊んでいる場面)を思い出したのですが、Earlのリリックを確認してみるとシーソーというワードが登場。以下該当箇所(拙訳)

I thought I saw me on the other side of the see-saw mounted / Bouncing, on the up-and-up, countin’ downers ” 
(俺がシーソーの向かいに乗ってるのを見たような気がする。/飛び跳ねている、でも正直なところは鎮静剤を数えている。)

 シーソーは常にどちらかが上昇しているため、その両側に同じ人物が乗っていた場合、彼はどの瞬間であっても上昇している状態になります。しかし実際には片方が上がっている時、もう片方は当然下がっているのであって、うまくいっているように見えても裏では痛みと闘っている様子がシーソーの構造で表現されています。これを直接言わず「正直に言うと」と言う意味の慣用句、"up and up"(「常にどちらかは"up"している」と言うシーソーの構造がかかっていると思われる)と「鎮静剤」を意味する"downer"を用いて描ききるテクニック。彼のバースの訳は完成しているのですが、今後機会があれば他の参加ラッパーのバースも含めて丸ごと和訳を完成させたいと思います。

Weight of the World / MIKE

 こちらもEarl Sweatshirt関連。"Some Rap Songs"の製作期間を共に過ごしたとされ、"Nowhere2go"の歌詞にも登場するラッパーMIKEの最新作です。ラストトラック"Allstar"にEarlが参加しています。正直なところ彼の情報はまだきちんと追えていませんが、このアルバムを聴けば彼がEarlと切磋琢磨しつつ共に音楽に取り組んできたことは容易に伺えます。Earlの周りにアブストラクトなHIPHOPを志向する緩いつながりが出来つつあるようで、同じく"Nowhere2go"に登場するMedhaneや"FEET OF CLAY"収録の"EL TORO COMBO MEAL(feat. Mavi)”をプロデュースしたOvrkast.なども今年に入って作品を発表していますが、個人的に一番グッとくるサウンドを出しているのはこのアルバムでした。今後もEarl周辺のアーティストを追っていけば聴く音には困らないかもしれません。

Skin / Scuare, Rav, & Kill Bill: the Rapper

  RavとKill Bill: the Rapperは昨年にもアルバムを共同で製作していましたが、今年はそこにScuareという謎の男が加わったようです。5曲目収録のHalve-Lifeがかなり良い出来です。ちなみにRavとKill Billは近年のLo-fi hiphopやVaporwaveの流れに影響を受けているようで、2人ともアニメ映像を適当に切り取って自分の曲と一緒にSNSにアップしちゃうタイプのアーティストではあるのですが、作っているサウンド自体は個人的に結構ツボを抑えているなと感じます。特にKill Billのソロ作"Ramona"収録の"Black Cofee"はプレイリストに入れておいて損のない一曲だと思います。

Scuare氏はtwitchで定期的に配信をしていると言うこと以外何もわからないのでもし知っている方がいたらコメント下さい。

I see... / 乃木坂46

 アルバムじゃなくて楽曲なのですが、最高です。コメントすることはありません。

終わりに

 下半期はとりあえずKanyeの新作に期待ですね。Rejjie SnowとMF DOOMが仮にアルバムを作っていたとしたら、それも楽しみです。





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