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【書評】 嶋 護 著 『ジャズの秘境』(DU BOOKS刊)

 勧められて、『ジャズの秘境』(嶋 護 著、2020年/DU BOOKS刊)を読んだ。非常に面白くて、あっという間に読了。徹底したリサーチ、取材に基づく掘り下げ方が半端ではない。 

 例えば、 ビル・エヴァンスとジム・ホールが残した永遠の名盤、『アンダーカレント』の音質について。「のっぺりと平面的な音はあるべき迫力に欠けている」と筆者も書いているが、ずっと気になっていたことだったので、興味は尽きない。はたして、名エンジニアのビル・シュワルトウは録音を失敗したのだろうか? そうではない、と筆者は言う。

 あるいは、『カインド・オブ・ブルー』をはじめ、数多のジャズの名盤が生まれた場所として知られる、サーティース・ストリート・スタジオについての挿話。同スタジオにはどんな秘密があったのか。当時、コロムビア・レコードのA&R部長だったミッチ・ミラーは、元々、教会だったその場所をスタジオとして使おうと考えたとき、汚れを掃除したり、カーテンなども変えたりせず、現状のまま使うことを強く主張したという。彼の意見は奇矯なものとして周囲には受け取られたが、彼が正しかったことが後年明らかになる件には、音楽の不思議さを感じずにはいられない。

 ちなみに、本書には「オーディオ」誌1995年11月号に掲載された、ルディ・ヴァン・ゲルダーへのインタビュー(文:James Rozzi)の翻訳も掲載されている。そのなかで、ルディ・ヴァン・ゲルダーがLPレコードに関する自身の見解を述べているのだが、なかなか衝撃的。

 本書はまさに「読むジャズ」という感じで、読んでいると胸が高鳴ってくる。本というのは、こういうわくわくする感じが大事なのだ。


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