「インフラ」となった日本の外食産業|亜細亜大学経営学部 横川潤 第2話
取材・文/鈴木俊之、写真/荻原美津雄、取材・編集/設楽幸生(FOUND編集部)
外食産業大国の日本における、ここ50年の歴史を前回語っていただきました。
今回はそんな外食産業の現在について、前回と同じく外食産業に詳しい、亜細亜大学の横川潤先生にお話をお聞きします。
横川潤(よこかわ・じゅん)
1962年長野県諏訪市で生まれ、東京都国立市で育つ。亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科教授。慶大法学部法律学科卒、同大学院修了後、1988年~1994年NY在住。ニューヨーク大学スターンスクール・オブ・ビジネスでMBA取得(マーケティング専攻)。主著に『錯覚の外食産業』(商業界)『絶対また行く料理店』(集英社)『東京イタリアン誘惑50店』(講談社)『美味しくって、ブラボーッ!』(新潮社)など。日本フードサービス学会副会長。
シルバー層の取り込みに苦慮する外食業界
――世代で区切った場合に見えることは?
横川潤氏(以下、横川):
「人口ピラミッドで言えば、70歳以上の『団塊の世代』が多いですね。
吉野家が始めた『鍋膳』メニューはこの世代を意識し、ある程度成功しています。
しかし外食産業全体ではこの層を取り込めていません。理由は、シニア世代を分析するとわかります。
高齢者だから体にやさしいものを欲していると思いがちですが、そうではないのです。食欲や量は落ちますが、求めるものはハンバーグやナポリタンなど若い人と変わりません。
年を取ったから和食に回帰するとか、粥を食べたくなるものではない」
――外食業界の考えるシルバー層には現実とズレがあると?
横川:
「そうですね。一方、これは結果論ですが、コンビニ業界ではこれがハマっている。うちの両親などもコンビニでけっこう買っています。
理由として考えられるのは、まず食べたい商品があるということ、次に高齢者なので食事に長い時間はかけたくないという2点です。
また見逃せないのは、コンビニが、彼らと社会との接点になっていることです。
人はいくつになっても刺激がほしい。外食などはいい機会のはずですが、高齢だと億劫になる。
コンビニへ行くくらいがちょうどいいのだと思います」
――そういえば、高齢者がコンビニの総菜を買っている姿をよく目にします。
横川:
「コンビニのプライムターゲットは若い男性です。しかし結果としてシルバー層も取り込めた。
どこまで計算しているかはわかりませんが、現在の日本においてはコンビニの食べ物は非常に強い」
――たしかに以前はお店でしか買えなかったものが、コンビニで手に入ります。コーヒーとかドーナツとか。
横川:
「それがまたレベルが高いんです。コンビニは売上が大きいのでパワーがあります。だから有力な食品メーカーなどが納入を競う。
大手コンビニの本社などは大手食品メーカーが日参しています。味だけでなく、コストにもきびしい目が注がれる。
その中から選ばれるわけですから、コンビニの店頭には、日本の食の頭脳とテクノロジーが集約されていると言っていいでしょう。
一方、現在の外食産業には、コンビニ業界ほどのきびしさはありません」
日本の外食産業はなぜ伸び悩んでいるか?
――そろそろ本題に入ってきました。外食産業はなぜ伸び悩んでいるのでしょうか?
横川:
「まずは人の問題です。私がファミリーレストランでアルバイトをしていた学生時代と現在を比べても、労働環境がまったく良くなっていない。
また、時給の相場が高くなりすぎて、アルバイトをなかなか雇えない。
さらに大卒の新入社員が減っている。外食産業は多くの学生アルバイトに支えられています。
そこで彼らは社員たちを見ている。働きすぎで、それでいて給料が安くてという現状を目の当たりにしている。だから彼らは外食産業を敬遠する。
ビジネスが凋落する最大の原因は、人材が確保できないということです。逆に優秀な人が集まり、競争が生まれると、どんな業界でも発展します。
外食産業が花形だった1980年代は、優秀な学生が外食産業を目指していました。
ところがその彼らもすでに50代半ばをすぎてしまい、感覚が古くなっている。
商品開発なども食品メーカーやコンサルタントといった外注に頼らざるをえない。
その外注先も、いまや一番の顧客はコンビニです。だから、エース級の人材はそちらへ回してしまう。
こうした悪循環により、外食産業が全般的に弱っているのだと思います」
インフラ化したチェーンの底知れぬ強さ
――最近、マクドナルドの急回復が話題になりました。さまざまに分析されていますが、横川先生のご意見は?
横川:
「いろいろなメディアで『V字回復』だとか言われています。
ただ私は、2015年の不祥事でマクドナルドの売上が落ちた時に『これはまちがいなくV字回復します』と予言していました。
なぜかというと、『食の不祥事』はみなさんあっという間に忘れるんです。たとえば、世間をあれほど騒がせた雪印や不二家の件も、今では当事者でもなければ詳細は覚えていないと思います。
同じように、4年前のマクドナルドの不祥事についておぼえている人も実はそんなにいない。
日本人はすぐ問題にする割にはすぐに忘れる。さらになんだかんだ言っても大きいモノは盲目的に信頼するという性質がある。
また、食べ物というのは『惰性』が大きい。だから、そのうちマックが食べたくなる。
基本的にはブランド・ロイヤリティがとても高い商品です。だから私は、不祥事のインパクトが喉元をすぎてしまえば、いずれ完全に回復するだろうと思ったんです。
そうなると、やることなすことプラスのスパイラルに変わる。だから、経営手腕は関係なく自然回復すると。
逆に私は、マクドナルドのV字回復を経営努力だと評価するか否かを、経済・経営評論家を評価する試金石と思っています。
つまり、経営努力が奏功したという評論を見ると眉唾に感じてしまいます」
――しんらつなご意見です。
横川:
「外食産業は産業と言っても零細企業が大半で、まったく寡占化が進んでいないため、他の業界とはべつの見方が必要です。
マクドナルドの例だけでなく、長い間低落傾向を続けてきた業種であるにもかかわらず、大型倒産が一件も起きていない。それどころか大手チェーンは堅調です。
他の業界なら29兆円が22兆円になった時にバタバタ倒産するはずです」
――なぜ安定しているのでしょう?
横川:
「1970年に誕生して以降、外食産業はすでに社会インフラ化したのだろうと思います。
多くの人は、食事をする場所に困ったら、『とりあえずファミレスにでも行こうか』『牛丼屋へでも入るか』となるはずです。これがインフラ化です。
このような存在になってしまえば強い。先ほども述べましたが、食では本能的な警戒心もあって、慣れ親しんだものへのロイヤリティが強いんです。
また、すでに成長産業ではなくなっているので、新規参入がないという点も理由のひとつです。今さら、『新しくファミレス・チェーンを構築します』などという人はいませんから」
今様々な業種で問題となっている人手不足は、外食産業でも同様のようです。
さらに、成長産業でなくなってしまっているという現実から、新たな風が生まれにくい業種であることも知りました。
次回も外食産業の問題点について迫っていきたいと思います。
(つづく)
・外食産業「むかし」と「いま」|亜細亜大学経営学部 横川潤 第1話
・「インフラ」となった日本の外食産業|亜細亜大学経営学部 横川潤 第2話
・外食産業、新たな可能性と問題点|亜細亜大学経営学部 横川潤 第3話
・これからの外食産業に必要なこと|亜細亜大学経営学部 横川潤 第4話
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