矢内重章(日本ロボット工業会事務局長)|第2回 どうなる? ニッポンのロボット産業 ー 世界の動きと未来
日本ロボット工業会事務局長・矢内重章インタビュー
目次
第1回 ニッポンの「ロボット産業のキホン」を教えてください!
第2回 どうなるの、ニッポンのロボット産業ー世界の動きと未来?
取材・文/河鐘基、写真/荻原美津雄、ロボティア、取材・編集/FOUND編集部
第1回では、「ロボット産業のキホン」について学びました。
矢内重章さん(日本ロボット工業会事務局長)に語ってもらったのは次のようなことです。
◎ロボット産業のキホン
ロボットにある、「インダストリアルロボット(=産業用ロボット)」と「サービスロボット」の2タイプのロボットについて
↓
右肩上がりの世界のロボット市場
↓
工場の中と工場の外でそれぞれに進化を続けてきたロボット
↓
人工知能によるロボットの進化
第2回では、このテーマをもう少し掘り下げて、「ロボット産業において、日本の実力はどうなのか?」はたまた、「世界において気になる動きは何なのか?」などについて、探ってみたいと思います。
また、「今後、人間の仕事を奪ってしまうのでは?」という、わたしたちの頭をもたげる心配について聞いてみました。ここから、わたしたちの未来に「ロボットがどう社会に浸透していくのか?」について、一緒に考えてみることにしましょう。
第2回 目次
・中国とロボット、その市場?
・世界における日本のロボット産業の立ち位置?
・日本のロボットが世界の競争に勝つためには?
・日本が取り組むインダストリアルロボットの今?
・ロボット産業は、少子高齢化の救世主?
・どうすれば、日本のロボットは現場に広まるの?
・人間は、ロボット社会にどんな心構えでのぞむべき?
日本ロボット工業会事務局長の矢内重章さん
中国とロボット、その市場?
まず第一に、前回学んだ通り、日本の「産業用ロボット」の市場規模は拡大傾向にあります。
これは、日本に暮らす者としては、嬉しいことですね。
しかし、いろいろと調べてみると、気になるポイントが浮かびあがるのです。
それは隣国、中国市場のことです。
今、中国では「人件費削減」や「生産設備拡大」の需要が大きく高まっているといいます。
しかし、先進国に比べて「自動化の水準が低い」という実情もあるのです。
そのため、2018年に国際ロボット連盟(IFR)が発表した統計によると、インダストリアルロボットの世界総需要の約1/3を中国が占めるという試算があります。(参照1、参照2)
つまり、インダストリアルロボットの中国市場の規模は、これからどんどん大きくなっていくと考えられるわけです。
その市場に、世界中のロボット産業が注目するのは、当然ですね。
ロボット産業でも存在感を示すのは中国
世界における日本のロボット産業の立ち位置?
一般の生活者であるわたしたちにとって、「日本のロボット産業がどのくらいのポジションにいるのか?」なんてことは、あまり考えたことは、ないはずです。
でも実際のところ、日本のロボット産業は、わたしたちが誇れる道を歩んできてくれていたのです。
つまり、これまでのところ、日本のインダストリアルロボットメーカーは、世界的に圧倒的な強みを見せてきています。
そして、こんな風にも呼ばれてきました。
日本 = ロボット大国
とてもいい響きですよね。
その称号の源泉となってきたのが、「ファナック」「安川電機」「川崎重工業」「不二越」「セイコーエプソン」「ヤマハ発動機」など、国内産業用ロボットメーカーの競争力の高さです。
◎日本のロボット産業を引っ張ってきたメーカー
・ファナック
・安川電機
・川崎重工業
・不二越
・セイコーエプソン
・ヤマハ発動機 など
だから、正確には、こんな風に呼んだ方がよいかもしれません。
日本=産業用ロボット大国、インダストリアルロボット大国
と…。
ロボット大国と言われる日本は今後…
そんな経済の屋台骨を支えてきた日本のメーカーが引き続き成長を遂げていくためには必要なカギがあります。
それが、「中国市場攻略」になるわけです。
日本のロボットが世界の競争に勝つためには?
では、日本は、これから世界のロボット産業で繰り広げられる戦いに、どう挑んでいけば良いのでしょうか。
矢内氏:
「世界的に見れば、
まだまだ日本や
欧州の産業用ロボットメーカーが
市場で強さを誇っています。
しかし、
中国国内のメーカーも着実に成長している。
中国政府は、『製造2025』という方針
を打ち出しています。
これは、2025年には工作機械やロボット分野で
日本や米国と肩を並べようというものです。
市場獲得争いや技術競争は、
ますます過熱していくでしょう」
やはり中国も、ただ指をくわえて見ているだけというわけではないようです。ちゃんと未来を見据えていますね。
となると、日本のロボット産業は、ますます戦い方を工夫する必要が出てくる気がします。
矢内氏:
「しかし、日本のメーカーには
産業用ロボットそのものだけでなく、
システム全体を組み立てたり、
運用するにあたり、
ロボット大国として
長年培ってきた豊かなノウハウがあります。
専門用語では"インテグレート"と言いますが、
産業用ロボットは単体で機能が高くてもダメで、
使われる現場によって最適化しなければなりません。
それら経験やノウハウをどう活用していくか、
またこれまであまり手をつけてこなかった
人工知能などソフトウェア技術を高めていけるかが、
競争に勝ち抜けるか否かの決め手になってくるでしょう」
ハードウェアを動かすソフトウェアこそ重要
◎日本のロボット産業が世界で戦うために重要なこと
・ロボット大国としてのノウハウ ⇒ システム全体の組み立て、ロボットシステムの運用、など(=専門用語で「インテグレート」)
・ソフトウェア技術の発展(人工知能など)
日本が取り組むインダストリアルロボットの今?
日本のインダストリアルロボットメーカーはこれまで、自動車や家電など大規模製造業の成長とともに発展を遂げてきました。
しかし、昨今では三品市場(食品、化粧品、医療品)などの製造現場に応用できるインダストリアルロボットや部品の開発にも注力していると言います。
例えば、人間とともに働くことができる協働ロボットの開発も、インダストリアルロボットメーカーにとって大きな関心事になっています。
従来の産業用ロボットは大型かつ重量が重く、人間の作業員と接触すると人命事故に繋がる危険性をはらんでいました。
そのため、人間と作業する場所が区分けされ、柵の中で動くことが常識とされてきました。
そのような作業現場の在り方を変え、人間とロボットが協力して作業するというコンセプトを実現するため注目されているのが協働ロボットです。
人間とロボットが協働する未来とは…
また、安全に運用かつ長期に利用をしてもらうため、断線の心配がないケーブルレスなロボットを実用化していこうという動きもあります。
一方でロボットの部品も開発が進められています。潤滑油が不要なベアリングなどがそれにあたります。潤滑油がいらないということは、メンテナンスフリーで使えて衛生的になるわけです。
これは、現場で油が漏れると好ましくない食品現場での利用などを想定したものです。
インダストリアルロボットは、時代の流れを読み、「自動車・家電市場」から「三品市場」へとその戦場を徐々に広げようとしているのです。
ロボット部品の開発にも注力
◎「食品、化粧品、医療品など」の製造現場用のロボット & 部品の開発
・人間とともに働くことができる協働ロボット
・断線の心配がないケーブルレスなロボット
・潤滑油が不要なベアリング
ロボット産業は、少子高齢化の救世主?
ロボット産業は日本社会の発展とも切り離すことができません。
日本政府も、2015年に「ロボット新戦略」を打ち出し産業発展の重要性を強調しています。
その背景のひとつとして、「少子高齢化による働き手不足をロボットなど自動化技術で解決しよう」というクリアーな目標があります。
ロボット新戦略 ⇦ 自動化技術で働き手不足解消する
矢内氏:
「農業にしろ、清掃にしろ、運送にしろ、警備にしろ、
あらやる日本の業種で働き手不足が課題となっています。
特にインフラのメンテナンスや
モノづくりの分野は人が集まらない。
個人的には、
"ロボットによる自動化"
か
"海外から移民を受け入れる"
しか解決方法がないと考えています。
しかし、移民の受け入れに対しては
さまざまな意見がありますから、
インダストリアルロボットや
サービスロボットにかかる期待が
相対的に大きくなっていくはずです」
なるほど、言われてみれば、その通りですね。ロボットによって日本の人手不足を補う方が、日本人の気質には、向いている気はします。
どうすれば、日本のロボットは現場に広まるの?
では、ロボットがあらゆる現場で普及するためにはどうすればよいでしょうか。
矢内さんは「技術の進歩はもちろん、デザインなど人間社会との親和性という要素も大事」とした上で、次のような話を聞かせてくれました。
矢内氏:
「今後、サービスロボットにいかに注力するかが、
日本社会にとって非常に重要になると思います。
正直、
掃除用ロボットにしろ、
水中作業用ロボットにしろ、
ここ数年、各国で登場している
サービスロボットのプロトタイプやコンセプトは、
日本で初めてつくられた
というケースが少なくありません。
しかし、現在の日本のロボット産業には
ビジネス的な弱点もあります。
それは、
リスクを想定しすぎるという風潮です。
社会やビジネスにおける
メリットとリスクを天秤にかけながら、
時に果敢に勝負していく姿勢も必要だ
というのが個人的な意見です。
またサービスロボットをより多くの人に
有効活用してもらえるように、
最適なビジネスモデルを構築していくことも
重要になるでしょう」
多くのサービスロボットのコンセプトは日本生まれ
最後に矢内さんに、「ロボットやAIが仕事を奪う」という論調に対して意見を聞いてみました。
矢内氏:
「世界的にグローバル競争が進むなかで、
品質が安く良いものが求められています。
商品を提供する企業としても、
競争力確保のために自動化は避けられません。
AIなどが発展すれば、工場だけでなく、
ホワイトカラー職、
つまりオフィスに勤めるサラリーマン
にも自動化の影響が
さらに波及してくるでしょう。
その過程で、
ロボットやAIに
仕事を代替されてしまう職種も
少なからず生まれてくるはずです。
しかし
テクノロジーの普及や発展は、
同時に新しい仕事を生み出しもします。
大量失業のような話は、
あまり現実的ではありません。
それでも、
人間側も来るべき
新しい社会を想像して、
しっかりと用意していく必要がある
とは考えています」
人間は、ロボット社会にどんな心構えでのぞむべき?
やはり最後は、わたしたち自身が、
「どう未来を想像するのか?」
「どう未来を創造するのか?」
にかかっているようです。
人間の想像力が良いロボット社会のカギ…
ビッグデータや人工知能が発達する社会。そんな社会では、「現実世界とデジタル世界のハブとなるロボット=ハードウェア」の存在感が増していきます。
そして、ロボット産業的にも新たな時代を迎えることが確実視されています。
もちろん、その頃には、今よりももっと「人間の生活」の中にロボットたちが深く浸透しているはずです。
さて、わたしたち人間は、これから、ロボットとどう向き合ったらよいのでしょうか――。
その問いに対する答えは、近未来を生きるすべての人々がそれぞれに用意しなければならない宿題となるのかもしれませんね。
矢内さん、最後まで丁寧にロボット産業のことについて教えていただき、どうもありがとうございました!
おわり
日本ロボット工業会事務局長・矢内重章インタビュー
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第1回 ニッポンの「ロボット産業のキホン」を教えてください!
第2回 どうなるの、ニッポンのロボット産業ー世界の動きと未来?
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