回転寿司業界が成長するのに大切なこと |回転寿司評論家・米川伸生 後編
取材・文/鈴木俊之、写真/荻原美津雄、取材・編集/設楽幸生(FOUND編集部)
今や回転寿司屋の前に並んでいるのは、日本人よりも外国人観光客のほうが多いのでは?と思うぐらいお寿司は海外の観光客に大人気です。
「外国の人は、生の魚は食べない」なんて数十年前は言われていましたが、世界的な日本食ブームが沸き起こっている昨今、それは遠い昔の話のようです。
さて今回は、インバウンドと回転寿司について、お話をうかがいたいと思います。
米川伸生(よねかわ・のぶお)
回転寿司評論家。2007年テレビ東京「TVチャンピオン2」回転寿司通選手権王。「回転寿司はアミューズメントパークである!」をモットーに日々、全国各地の回転寿司店を駆け巡っている。また、回転寿司店のコンサルティングや、一般社団法人社日本回転寿司協会のアドバイザーも行なっている。主な著書に、「回転寿司の経営学」など。ブログ「回転寿司を愛してる」
外国人観光客の心を捉えたグルメ回転寿司
――寿司は今やグローバルな食べ物になりました。外国人観光客は日本の回転寿司をどう捉えていますか?
米川伸生氏(以下、米川):
「昨年、JR京都駅の地下街ポルタに、金沢の銘店『金沢まいもん寿司』さんが開店しました。
そこは、京都を訪れる外国人観光客の多くが行っていると思います。
しかも、京都を観光する外国人観光客は裕福な人が多いので、高いネタを注文する。たいへんな盛況ぶりです。
東京・秋葉原の駅ビルには『こだわりの廻転寿司 まぐろ人』さんが出店しています。こちらも客の8割以上が外国人観光客です。
インバウンドに関しては、100円寿司よりもグルメ回転寿司でちゃんとした寿司を体験しておこう、という方が多いですね。
しかも情報がネットにアップされているので、みなさん予習をして来日する。
せっかく日本に来たんだから本場の回転寿司を体験したいという方は、今後も増えると思います」
――企業側は何か工夫しているのですか?
米川:
「Webページを工夫するとか、注文用タッチパネルも4、5か国語対応は当たり前です。
味を変えていることはしてないと思いますが、ロール寿司を多めにしたり、生ものが苦手な外国人のためにあぶり寿司を多くするといった、メニューの工夫が見られます」
回転寿司は今や、観光の目玉
――京都と金沢のお話が出ました。米川さんはご著書で地方の回転寿司店をランキングし、札幌と金沢を上位にあげていました。
今、地方の回転寿司シーンはどんな感じなのでしょうか?
米川:
「最近は札幌や金沢に限らず、ところどころにある銘店が知られるようになってきました。
そういう風潮を反映するように、観光コースにグルメ回転寿司店が組み込まれるようになってきた」
――観光コースに回転寿司店?本当ですか?
米川:
「それどころか、京都駅前の『金沢まいもん寿司』さんのように、各地のターミナル駅や空港には必ず、その地方で名高い有名回転寿司店が入店させるのが最近の流れです。
旅の途中、乗換えのちょっとした時間にも立ち寄れる、というのがうれしい。
そういうお店は、その地方でしか獲れないネタを提供しています。
たとえば沖縄なら、イラブチャーや海ぶどうの握り寿司、ミミガーの軍艦巻きが登場するわけです。
前々回、世界の回転寿司事情をお話した時に触れましたが、寿司は自由度が高く、ローカライズしやすい。だから観光の目玉になりやすいと思います」
回転寿司業界は底を脱した
――最後に回転寿司業界の現状と今後をお教えください。
米川:
「回転寿司業界は一時期外食産業をけん引していた勢いが衰え、この数年は停滞気味でした。
しかしかっぱ寿司が徐々に復調してきたのもあり、底は脱したと見ていいと思います」
――しかし新規出店とイノベーションを続けなればいけないというわけですね?
米川:
「そもそも回転寿司を経営する企業は国内に500社あります。このうち8割が3店舗程度の中小企業です。
この層が10年で100社近く倒産してしまいました。
それでも大手100円チェーンやグルメ回転寿司店は、企業努力をして生き残っている。つまり淘汰が進んだということです。
だから、今残っているお店はどこもがんばっているし、その意味では回転寿司のお客様にとって今はいい時代だと思います」
――これからは、回転寿司の楽しみ方も変わりそうですね。
米川:
「その通りです。今までは多くの人が『自分の好きなネタだけを食べる』という目的で回転寿司を訪れていた。
しかしこれからは、『旬のおいしいものを目当てに行く』という時代に変わるでしょう。
私はよく『おいしいグルメ回転寿司の店を教えてくれ』と尋ねられます。そういう時は、その時期に、その土地でしか食べられないネタを出してくれる店を選ぶといいよと答える。
たとえば愛知県なら春先の生トリガイがうまい。
秋の北海道なら生シシャモが寿司ネタになっている。同じ北海道ならホッケも寿司ネタとして食べられるとか、
冬の北陸なら甲箱ガニがねらい目だとか。
ありがたいことに、日本には全国各地にいろんなおいしいものがあります。そういうものを目当てに、回転寿司へ行くというスタイルはどうでしょう。きっと楽しいはずです」
――グルメ回転寿司ならわかりますが、大手100円チェーンではどうなんでしょうか?
米川:
「大手のチェーンも、昔は『安く提供できるネタを探す』という姿勢でした。しかし今は『おいしいネタを、どうすれば安くできるか』と、発想自体が逆転しています。
それに大手チェーンは仕入れ量が大きい。スケールメリットがあるので、町場の寿司店では採算が合わないようなよいネタも、安く買い付けることができる。
そして、前に述べたように、コールドチェーンと冷凍技術の普及と発達が、大きく貢献してくれます。
某大手チェーンは最近、天然のクエを100円で提供しました。こんなことは少し前までは考えられなかった。
それが本当に現実なのか、ぜひ回転寿司店に行って、自分の舌でたしかめてください」
――こうやって振り返ると、やっぱり回転寿司とはイノベーションが支える業界なんですね。
米川:
「たしかにその通りです。しかしイノベーションは結果にすぎない、と僕は思うんです」
――それはどういうことでしょうか?
米川:
「わかりやすく給茶システムでたとえてみましょう。
回転寿司店が世の中に現れた当初は、茶の入った湯飲みが並んでいました。
しかしお客様から、やけどをしたとクレームが入った。そこで、ポットへ茶を入れてカウンターに置くやり方に変えた。
ところがそれでも、注ぐときにこぼれてやけどをしたというクレームが入った。
それでようやく、自動給茶システムの原形が誕生しました。
最初はレーンの上にお茶の入ったダクトがあり、そこから各自が茶を注ぐ方式だった。
ところがこれも、茶の量をまちがえたお客様がまたやけどをして、クレームになった。
また朝は薄くて飲めず、夜は濃すぎてまずいと苦情が出た。
そこで、これらの欠点を解消するために、ようやく現在の形になりました。
しかしこれも、当初のティーバッグは淹れにくいとクレームが来て粉茶に改められた。
さらにその粉茶もすぐにダマになると文句を言われ、質の悪いものからサラサラのものに変わった――。
どうでしょう?何か気づかないでしょうか。
実は、回転寿司のイノベーションは、すべて、『クレーム』が発端だったんです。
だからもし、回転寿司にさらなる進化を求め、もっと楽しみたいと考えるなら、みなさんには、ぜひ店へ足を運び、食べて、飲んで、そしてクレームを付けてほしい。
そこが、次の時代の新しい回転寿司の端緒となるはずです」
――たいへん勉強になりました。
これからも回転寿司業界について、目を皿のようにして見つめ続けたいと思います。
(おわり)
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