マガジンのカバー画像

航海日誌

3
読書とは、本という無数の寄港地にしばし停泊するようなもの。その場合、海とは人生である。そして読書そのものもまた、凪があれば、嵐もある、難所を越えることもあれば、座礁することもある…
運営しているクリエイター

2024年3月の記事一覧

航海日誌♯2「井伏鱒二『普門院さん』試論、あるいは縁の下の神様」後編

航海日誌♯2「井伏鱒二『普門院さん』試論、あるいは縁の下の神様」後編

 改稿後に世に出たのが昭和六十年で、作家御年八十七歳ですから、もはや多少の混同や矛盾は許される境地ではあったでしょう。私もそう思いつつ、こんな飄々とした語りをいつか手に入れてみたい、しかしまたいっぽうで、仮にこんなふうに私が書いたところで、編集者に無惨に校正されるのがオチだろうなどと砂を噛むような妄想をしたものでありますが、この度、ちょっとした偶然から昭和二十四年の初出稿を目にする機会を得て、私に

もっとみる
航海日誌♯2「井伏鱒二『普門院さん』試論、あるいは縁の下の神様」前編

航海日誌♯2「井伏鱒二『普門院さん』試論、あるいは縁の下の神様」前編

 岩波新書から出ている大江健三郎の『あいまいな日本の私』を読んでおりましたところが、それに収録された井伏鱒二についての講演が出色でございまして。触発されて久しぶりに井伏鱒二の短編を二、三読むうちに、これが止まらなくなった。なるほど、大した作家だと改めて痛感させられた次第なんです。
 新潮文庫の『かきつばた・無心状』をまずは書棚から引っ張り出してきて読んだんですけど、我ながら驚いたことに、これが初読

もっとみる