【50代応援短編小説】 午後の図書館
午後3時。薄日が差し込む図書館の一角で、佐藤はカウンターに腰かけていた。窓の外には、街の喧騒がかすかに聞こえる。
「佐藤さん、この本、面白いですよ!」
小学4年生の男の子が、目を輝かせながら話しかけてきた。子ども向けの読書会で、彼が夢中になっている本について熱く語ってくれる。佐藤は微笑みながら、彼の話をじっと聴いた。
「ありがとう。君の感想、すごく嬉しいよ」
そんな子どもたちの笑顔が、佐藤の仕事のやりがいの一つだった。
一方、図書館の奥には、高齢者向けの「語り合う会」のスペースがある。今日もお年寄りが集まり、それぞれが持ち寄った本について話している。
「この小説を読んで、若い頃のことを思い出したよ」
「この詩は、今の私の心に響くんです」
彼らの穏やかな語り声が、図書館に温かい空気を生み出していた。
佐藤は、一人ひとりの来館者に合った本を紹介することに喜びを感じていた。仕事帰りのサラリーマンには、ストレス解消になるような小説を。悩みを抱えている人には、心を癒してくれるようなエッセイを。
ある日、一人の女性がカウンターに来た。
「いつもお世話になってます。この本のおかげで、辛い日々を乗り越えられました。本当に感謝しています」
女性は、目に涙を浮かべながらそう言った。佐藤は、自分の仕事が誰かの役に立っていることを実感し、深く感動した。
図書館は、様々な人々が集まる場所。子どもたちの笑い声、高齢者の穏やかな語り声、仕事帰りのサラリーマンの静かな読書……。
それぞれの「人生模様」が、この図書館で交錯している。
佐藤は、そんな図書館の「影」で、静かに見守る存在でありたいと考えていた。そして、今日もまた、一人ひとりの来館者に心から向き合い、その人にぴったりの一冊を手渡す。
佐藤の仕事は、決して華やかではない。しかし、人々の心に寄り添い、本を通して豊かな時間を提供する。それは、佐藤にとってかけがえのない喜びであり、やりがいのある仕事だった。