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2050年ビジョンを目指す

1985理事で基盤情報作成委員会の中野です。
前回の辻さんの記事では、1985の長期的なビジョンとして2050年に目指すべきエネルギー消費量の数値化と具体的な目標について解説されていました。
簡単にまとめると、

①原発に頼ることのないカーボンニュートラルを目指そう
  ↓
②そのためには2050年の家庭部門のエネルギー消費量を1500PJ以下にしよう
  ↓
③1500PJ以下にするには、これからの新築と大規模リノベはリアルZEHを、中規模以下のリフォームはエネルギーハーフを目指そう

という流れです。
今回の記事ではこのうち、②2050年の家庭部門のエネルギー消費量1500PJを目指すための道のりについてまとめていきます。

今回の記事の内容は先日1985YouTubeLiveでも話しましたので、そちらも併せてご覧頂けるとより分かりやすいかなと思います。


現在のエネルギー消費量はどれくらい?

はじめに、現在のエネルギー消費量について整理しておきます。
参考にしたデータは、前回辻さんも触れていた『脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会(以下、あり方検討会)』の資料に基づいていますが、資料で不明な部分は推測して補っている部分があります。また、記事の後半で行っているシミュレーションを『住宅に関する省エネルギー基準に準拠したプログラム』での試算で行っていますので、ここでまとめている数値もそれに合わせ、同プログラムで算出した一次エネ消費量を元にした「省エネ性能(断熱性能)」✕「推計戸数」を積算して算出した値です。(あり方検討会の資料では最終的に実際の消費量との擦り合せを行っていますが、その前段階の値をまとめています)

まず、基準年となっている2013年の家庭部門のエネルギー消費量(一次エネルギー消費量のことを指す)を見てみましょう。

2013年の家庭部門のエネルギー消費量

戸建住宅・共同住宅の消費量はあり方検討会の資料によるもので、発電容量は実績データからの推計です。2013年の家庭部門の消費量合計は5,010PJで、そのうち2/3は戸建住宅からのものです。更に戸建住宅の大半は無断熱とS55基準の住宅が占めているという状況です。
戸建・共同住宅合計の消費量5,010PJと、太陽光発電設備などによる発電量110PJとの差し引き後の4,900PJが2013年のエネルギー消費量です。
この4,900という数字を1,500にしようというのが1985の2050年ビジョンです。
発電での差し引きも含めて、2013年の約3割の消費量で暮らせる社会を目指そう、というわけですね。

次に、2020年の家庭部門のエネルギー消費量を見てみます。

2020年の家庭部門のエネルギー消費量

2020年には消費量の合計が4,840PJ、発電容量が165PJで、差し引き4,675PJになりました。2013年が4,900PJだったので、2020年までの7年間では家庭のエネルギーは削減の方向に向かっています。ちなみに共同住宅は1,634PJから1730PJに増加していますが、この7年間で共同住宅の戸数が増えているため、消費エネルギーの合計も増えています。


家庭部門のエネルギーの推移予測

あり方検討会の資料では2030年の目標が示されているので、それも含めて2050年までの推移予測をグラフにまとめました。2030年には3,940PJを目指すとされています。
2020年までのペースを続ける(無対策)場合、2050年には4,000PJにしかならず、カーボンニュートラル(1,766PJ)には程遠い事が分かります。
国の想定ペースでもこれからの対策の加速を考えている事が読み取れますが、仮にそれを2030年以降も同じペースで続けた場合、2050年のエネルギー消費量は約2,700PJで、カーボンニュートラルにはまだまだ足りていないように思います。
1985の目標は1,500PJですから、更に上を目指さないといけません。

2050年のストック予測

「2050年に1500PJ」を目指すための次の準備として、2050年にはどれくらいの戸数の住宅があるのかをまとめていきます。こちらも大枠の数値はあり方検討会の資料を根拠にしながら、細かいところは推測して補完しています。


次のグラフは、2020年から2050年までの住宅のストック数、着工戸数、滅失数をまとめたものです。

現在、住宅のストック総数は約5,300万戸あります。今後の推移は2025年頃までは横ばいで、その後は減少に向かい、2050年には4,664万戸になると予測されています。
着工数・滅失数はグラフの下の方に重なっていて分かりづらいですが、ストック総数と比べると、着工数(新築数)はわずかなものだという事を読み取ってもらえたらと思います。

上に2050年のストック数を築年数別で分けた形でグラフをまとめました。
注目してもらいたいのは、2022年以前の建物が56%、2023年以降の建物が44%という点です。ちょうど半々に近いくらいになるということで、これから建てる新築住宅の省エネ化も大事ですし、現在の既存住宅に対しても省エネ化の対策をしていかなければいけないということが分かります。断熱性能の低い既存住宅の方が消費エネルギーが大きくなりますので、既存住宅への対策の方が重要とも言えるかもしれません。

1500PJを目指すシナリオ

ここまでで、
①現在のエネルギー消費量
②これから先のストック数の予測
をまとめてきました。
これらのデータを元にして、2050年までにどれくらいの性能の住宅を何戸にすれば、また太陽光などの発電量をどれくらい増やしていけば2050年に1500PJを達成できるかを試算するシミュレーションを行いました。

検討する要素として、
 ・新築の戸建て住宅に対しての省エネ対策
 ・既存の戸建住宅に対しての省エネ対策
 ・新築の共同住宅に対しての省エネ対策
 ・既存の共同住宅に対しての省エネ対策
 ・新築住宅に対して太陽光発電をどれだけ載せるか
 ・既存住宅に対して太陽光発電をどれだけ載せるか
と、対象となる項目は6つあります。
どの項目をどれだけ頑張るかの設定によって数多くのシナリオができますので、ここで挙げているシナリオはあくまで一例とお考えください。

2050年に1500PJを達成する推移を示したものが下のグラフです。

2050年には家庭部門のエネルギー消費量が約2,700PJ、発電量が約1,200PJで、差し引き1,490PJを目指そうというものです。
このシナリオでの2050年の姿は、

・平均BEIは約0.8で、それより性能が低い建物からのエネルギーはほぼ無い
・全消費エネルギーの45%を賄えるだけの太陽光発電設備が設置されている

となっています。もちろん、建物の省エネ化をより進めれば必要な発電容量をもっと減らす事ができますし、建物での対策が進まなければ発電容量がもっと必要になります。

このシナリオを達成するために行った対策の内容を下図にまとめました。

この5年くらいの現状でいえば、
・戸建住宅の新築は省エネ基準適合率(BEI1.0)が8割程度
・戸建住宅の省エネ改修は15万戸/年程度
・太陽光発電の設置数は新築・既存を合わせて15万戸/年程度
くらいだと思われるので、新築、既存改修、発電設置とも相当がんばらないと目指すカーボンニュートラルには到達できないと言えるでしょう。

特に、2050年のストックの内訳を思い出してもらうと、2022年以前の建物が半数を占めていますので、既存住宅に対してBEI0.8以上にするための対策(省エネ改修)が必須という事が見えてきます。

ちなみに、1985年頃のエネルギー消費量は約2,500PJです。1985が設立当初から掲げている目標である1985年のエネルギー消費量を2040年までに達成することができれば、その先に2050年カーボンニュートラルが見えてきます。

それを目指して、我々住宅実務者ができる最大限の省エネとして、
・新築及び大規模リフォームはリアルZEH
だけでなく、
・中規模リフォームはエネルギーハーフ(1985家族達成)
・小規模リフォームはできる限りエネルギーハーフへ近づける
にも取り組んでいって頂けたらと思います。


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