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2050年ビジョンとその具体(前半)

こんにちは。
1985の代表理事の辻です。
 
1985が活動をスタートしてから10年以上が経ち、その間、脱炭素社会の実現に向けて大きく社会がシフトし始めています。今回はそうした状況を踏まえて、2050年カーボンニュートラルを見据えた私たち(1985)のビジョンについて、その具体的な内容とそこに行き着いたプロセスも交えながらまとめてみたいと思います。

For the 2050  -最良の2050年のために-


昨年、言い出しっぺの野池さんの後を引き継いで代表理事に就任した際に、2050年カーボンニュートラルを見据えて、私が新たに掲げたスローガンが「For the 2050 -最良の2050年のために-」です。
 
ここにある「最良の2050年」とは、クリーンなエネルギーで2050年カーボンニュートラルを実現すること。それは、原発に頼ることなくカーボンニュートラルを実現することを意味しています。
これを1985における「2050年ビジョン」と呼んでいます。

 1985の活動のきっかけは東日本大震災に伴う福島第一原発事故です。
脱炭素社会の実現が最重要課題となりつつある今の社会において、当時に比べて原発への見方も変わりつつあります。それでも脱炭素と引き換えに次世代へ新たな課題をこれ以上持ち越すことは許されるものではないと思い、また当時の想いを継続して発信していくことは1985の役割でもあると考え、このような表現としました。

今までのロゴマークに、新たなスローガンを足したものです。最良の2050年の実現のために、1985(=エネルギーハーフ)へ向かって進んでいこうという想いが込められています。 

2050年ビジョンを数値化する


昨年、このような2050年ビジョンを掲げたわけですが、単なる言葉の表現として終わるのではなく、1985としての具体的な活動に落とし込めないと意味がありません。
そのためには、数値として明確に目標設定することがとても重要です。そこで、基盤情報作成委員会のメンバーを中心に、ビジョンを数値化する作業を進めていくことにしました。
 
とその話に入る前に、まずは「2050年カーボンニュートラル」の中身について共有しておきたいと思います。

カーボンニュートラルの概念図(脱炭素ポータルのサイトより引用)

上のイラストにあるように「カーボンニュートラル」とは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの「排出量」から「吸収量・除去量」を差し引いて、その合計をゼロにしようとすることで、「温室効果ガスの排出量≦吸収量・除去量」ということです。
表現を変えてみると、「2050年に見込まれる吸収量・除去量以下になるように、温室効果ガスの排出量を抑えこむこと」とも言えるでしょう。
 
ちなみに、日本では温室効果ガスに二酸化炭素が占める割合は約9割と言われています。家庭部門においては、温室効果ガス=二酸化炭素(CO2)なので、我々はCO2の削減に注目すればよいでしょう。
 
CO2の吸収については植林や森林管理などから、除去には大気中のCO2を直接回収して地下などに貯留する技術などが見込まれているようです。


では上記のことを踏まえて、ビジョンを数値化するための順序を示します。

本来はこのように、全体から部分(各部門)へ落とし込んでいくという順番が適切だと思いますが、肝心の最初の一歩である①の「2050年の温室効果ガス排出量の上限目標値」を、国はまだ示していません。

確かに2050年という様々な不確実性の先にある未来を見通すことは難しいことなので理解はできますが、現状において参考となる数値が存在していないので、独自に①の目標値を決めていくことから始めるしかありません。

家庭部門のことならまだしも、社会全体の様々な状況を予測しながら、ある一定以上のレベルで適切だと思われる目標値を算出することは、その筋の専門家でも至難の業。残念ながらとても私個人の知見でできるものではありません。

なので、他部門も含めた社会全体から落し込んでいくのではなく、家庭部門のことだけに特化して考えてみることにしました。つまり「③家庭部門の省エネ目標値を決める」ことから専念しよう(そうせざるおえない)と思ったわけです。

ちなみに、ここで言う「省エネ」とは太陽光発電設備などの創エネ分も含まれていると考えてください。

3省合同のロードマップ


家庭部門に特化すると言っても、それ自体でも十分ハードルの高い作業です。そこでいろいろと考えた末に注目したのが、3省合同のロードマップの文言です。
正式には「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方に関するロードマップ」という名称のもので、WEB上で検索すれば、国交省のサイトから下記の図表を見ることができます。

そこに2050年度の住宅のあり方(原文には住宅・建築物とあるが、ここでは住宅に限定した話をするので建築物に関連する内容は省略する)が記載されています。
その内容は、「ストック平均でZEH基準の水準の省エネ性能が確保されているとともに、その導入が合理的な住宅における太陽光発電設備等の再生可能エネルギーの導入が一般的となる」というものです。
 
このロードマップは、2021年4月から開催(計6回)された、3省(国土交通省・経済産業省・環境省)が連携して、脱炭素社会に向けた住宅・建築物のあり方を有識者や実務者等を交えて議論する「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会(以下、あり方検討会と記載)」のとりまとめ資料で、同年の8月に公表されたものです。
当時YouTubeでも議論の様子がLiveで公開されていたので、ご覧になった人もいることでしょう。
 
これは私が知る限り、2050年カーボンニュートラルにおける住宅(家庭部門)のあり方について、国が言及した唯一のものです。そして今後、国の住宅施策はこのロードマップの内容をベースに進んでいくと思われることから、家庭部門における2050年の省エネの目標値を決めるには、この「文言を数値化する」ことが最も適切だと考えました。
 
我ながらよいところに着目したと思っていますが、他にも同じように考えた人がいれば、ぜひ意見交換したいですね。そうすることで、より精度の高い目標値を探ることができると思います。

数値化するための作業


ロードマップの文言を再掲します。
「ストック平均でZEH基準の水準の省エネ性能が確保されているとともに、その導入が合理的な住宅における太陽光発電設備等の再生可能エネルギーの導入が一般的となる」
 
上記の文言を数値化するためには、以下のような作業が必要となります。

・2050年に想定される「ストック平均でZEH基準の水準の省エネ性能」を有する住宅の一次エネルギー消費量の合計値を算出する

・「導入が合理的な住宅における太陽光発電設備等の再生可能エネルギーの導入が一般的」となる創エネルギー(一次エネルギー)量の合計値を算出する

・上記の一次エネルギー消費量の合計値から創エネルギー(一次エネルギー)量の合計値を差し引く


そして、その作業をする上で必要となる要素を洗い出してみます。
それが以下の5つです。

①2050年のストック数
②ZEH基準の水準の省エネ性能(=一次エネルギー消費量)
③導入が合理的な住宅の割合
④導入が一般的となる住宅の割合
⑤太陽光発電設備による一戸あたりの年間平均発電量

 
上記の5つの要素の数値が分かれば、文言を数値化できそうです。
ただそのためには戸建て住宅だけではなく、共同住宅の数値も併せて掴む必要があり、なにぶん共同住宅における個人的な知見が少ないため苦労しました。

ここからいろいろと思案しながら数値化するための作業を行ったわけですが、その具体的な内容については、次回(後半)に詳しくまとめてみたいと思います。


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