坂内綾花001

未熟な起業家が「増やすべき行動」「減らすべき行動」について考えた


「起業したい」

私がだれかにこのように話すと、そのたびに「とりあえず行動しろ」「失敗したら勉強になる」というようなアドバイスをもらって、行動できなくなっていた時期がありました。

そして、逆に「何の準備もせず行動していたら失敗するだけ」「とりあえず行動しなくていいよ」というアドバイスをもらったおかげで、起業というやりたいことに向けて動き出すことができました。

個人的に、行動力重視系アドバイスにはかなり懐疑的で、特に起業家として事業を軌道に乗せるためには、「行動力に頼るな」「できるだけ行動量を減らした方がいい」と考えています。

そして、少なくとも「とりあえず行動しない」選択を意図的にするのはアリだと思います。

ちなみに「事業を軌道に乗せる」といっても、私の場合は起業後2年間で年商3,000万円程度というレベルですので「偉そうに何かを語るな」というご批判をいただくかもしれません。

ですが、睡眠時間は毎日9~10時間程度、それなりにプライベートの時間も確保しながら事業拡大を目指している自分としてはこのペースに納得していますし、スモールビジネスとスタートアップの間くらいの起業を目指す人にとっては少しくらい参考にしていただけるレベルのことは書けるのではないかと思っています。

ただ、年商100万円~1億円くらいの規模でいいと考えている人は、「とりあえず行動」するのも悪くないかもしれません。同じ業種でのアルバイト経験などを経て独立するだけで到達できるかもしれません。難易度が高くないからです。

あくまでも私の主観ですし、業種によって変わりますが、それ以上の規模の事業へと成長させることを目指す人は「とりあえず行動」では、たどり着けないのではないかと想像しています。

 

「増やすべき行動」と「減らすべき行動」を区別する意味

私のような未熟で小規模な起業家や事業主が、限られた経営資源の中で事業を成長させていくためには、「増やすべき行動」と「減らすべき行動」は明確に区別すべきだと思います。

そして、「減らすべき行動」をまず減らして、余力、余裕、余白を生み、「増やすべき行動」に資源を傾けられるようにすべきだと思います。

余力、余裕、余白は、未来への可能性の種となるからです。


成果を増やすために行動量を減らす必要があった

ところで、私のメイン事業は、手元に届くまで何が送られてくるかわからない“中身が秘密の謎の箱”「フォーチュンボックス」の通販です。

“謎の箱”の中身は、全国各地のメーカーによる「無名だけどめちゃくちゃおいしい食品」や「感動するレベルの使用感がある日用品」などです。購入者様と商品との偶然の出会いを提供しています。

この事業のKFS(成功要因)は、どれだけお客様に喜んでもらえる商品を見つけて、仕入れられるか、です。

何が入っているかわからないだけに、そして、あくまでも私の主観で商品を選んでいるだけに、お客様に「意外と普通だった」「思ったよりもつまらなかった」「期待外れだった」と言われたら負けなのです。

できればお客様の期待をいい意味で裏切り続けたいと思っていますので、そのためには、そういった一定品質以上の商品をできるだけ多く集めてくる必要があります。

そのためには、行動量を減らさなければいけません(というか結果として行動量が減りました)。

誤読されやすいので、もう一度言いますが、「行動量を減らさなければいけません」。

成果を増やすためには、行動量を減らさないといけない。

なぜなら、行動量を必要とすることは「重い」ので繰り返しにくく、継続できなくなるからです。

より多くの魅力的な商品に出会うために必要なことを、より少ない労力で実現できるようにしなければなりません。

そうしなければ、「頑張らなければ事業を継続できない状態」になるのです。頑張るのはいいですが、頑張り続けるのは私には無理です。

逆にほとんど自動的に、私がいなくても商品情報が得られる方法、仕組みを作り上げてしまう必要があると考えました。

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私が地方銀行55行に電話した理由

具体例を挙げます。

私は10日間ほどかけて全国の地方銀行55行に電話したことがあります。一気にやると疲れるので、毎日数行ずつ電話しました。

電話をした先は、融資先の地元企業を応援する地方銀行(と企業)が集まった「地方銀行フードセレクション2017」という展示会に出展していた地方銀行すべてです。

展示会後も継続的にメーカーや商品の情報を地方銀行経由で手に入れたいと思ったのですが、その方法がわからなかったので直接電話で窓口を聞こうと思ったのです。

「魅力ある商品を作っているメーカーさんを紹介してもらえませんか?」「融資先にユニークな商品を作ったメーカーさんがあれば連絡もらえませんか?」というアプローチ(FAX、DMなど)をしたかったのです。

そしてそのアプローチは、ダイレクトに銀行内の担当部署に届けた方がいいと思いました。

展示会でも一部の地銀の担当行員さんとは名刺交換をしたのですが、展示会を回っているときはその発想がなかったので、後日、「どうせならすべての地銀に電話してしまおう」と考えました。

今後も継続して、地銀の担当者(行員)さんが魅力的な企業に当社のことを1つの販路として紹介してくださったり、継続的に当社の存在を思い出してもらうためのアプローチをする方法がわかれば、あとはFAXやDMの郵送などを続けるだけで、当社のことを思い出してもらえ、新たな仕入れ先や商品と出会えるかもしれません。

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電話の結果としては、担当者、担当部署さえ教えてくれない銀行は1行ありましたが、ほとんどの銀行から担当者を聞き出すことができました。

このアプローチ先リストは当社の資産です。

つまり、将来にわたって、FAXやDMを送る、といったわずかな作業をするだけで、ダイレクトに担当部署にこちらからの情報が届き、いい商品を継続的に紹介してもらえれば、より優れた商品を取り扱うことができ、結果として当社のお客様の喜びが増えます。

重要なのは成果を出してお客様に喜びを提供する、顧客価値最大化することであって、提供する側が「苦労する」「失敗する」ことではありません。

むしろ、苦労しない方が、失敗しない方がコストが下がり、利益が増えます。ひいては顧客の利益にもなります。


一見、「地方銀行55行に電話するなんて、合理的でない」と思われたかもしれませんが、「将来行動しなくて済むようにするための行動」ですし、そもそも大した労力ではありません。

情報1つ1つにアプローチするのではなく、情報が集まるところにアプローチする方がはるかに合理的で、継続しやすくなります。


増やすべき行動、減らすべき行動

安定的に成果を増やしていく、事業を継続するためには、どんな行動を増やし、どんな行動を減らしていけばいいでしょうか?

★「増やすべき行動」…仕組み作り

 情報収集や戦略立案、戦術策定などの「思考」、資産やツールを作るといった「準備」はしっかりやる。

★「減らすべき行動」…仕組み作り以外すべて

 実行はできるだけ軽く、自動化、省力化する(でないと継続できない)。


そして、逆説的ですが、仕組み作りが終わって「減らすべき行動」にほとんどの資源を集中できるようになるとと、一気に事業は成長し、多くの利益を得られるようになるはずです。

少しの行動でも大きな成果を得ることができる仕組みを、大きな資源を投入して動かせば、莫大な利益を生むからです。

ですが、「仕組み作り」をやめると、やがて競合他社が現れたりして事業が陳腐化するおそれがあります。

私は今回の主張で、行動量を増やす効果、価値を否定するつもりはありません。大切なのは「行動の質を高くした上で行動量を増やすべき」だと言いたいのです。

また、

「 起業準備 = 仕組み作り 」

と言えると思います。

重要だからこそ行動量は「減らす」べき

重要だからこそ、行動量いらず、手間いらず、そして、楽しく、しなければいけないはずです。

そもそも、重要なことは私たちはほとんど自動的に、無意識で行っています。

たとえば、人間は心臓が止まれば死にます。心臓を動かすことは最重要業務です。

その業務は自動化されています。意識して心臓を動かしている人はいないと思います。

そのためには筋肉を動かすためのエネルギーを食事などで取り込みますが、その「食べる」行為は基本的には楽しく(おいしく)感じられるようになっています。

勝手に動いているので、私たちは心臓を動かす、という行動をする必要はありません。病気でもない限り、楽しく食事するだけでいいのです。

重要なことほど自動化されて無意識でできるようにしておく、ということが必要なのだと思います。

これは事業においても同じかもしれません。重要なことはできるだけ自動化、省力化しておかないと成果が安定しません。

きっと、私は当たり前のことを言っているだけです。


参考になる本、フレームワークなど

参考になる本として「確率思考の戦略論(森岡毅)」「起業の科学(田所 雅之)」などがいいのではないかと思います。

フレームワーク(チェックリスト)としては、次のようなものになると思います。

1. 「事業規模を成長させるためのKFS(成功要因)は何か?」 2. 「そのKFSを獲得するためには、どんな行動をすべきか?」 3. 「その行動を、より少ない労力で継続して獲得するにはどんな仕組み、ツールが必要か?」 4. 「その仕組み、ツールはどうすれば手に入るか?」(仕組み作り作業およびスケジュール) 5. 「その仕組みを安定的に動かすにはどうすればいいか?」 6. 「その仕組みは実際に役立ったか?修正が必要なところはどこか?」


単なる「仕組み作りのススメ」ではない点

じつは、今回の記事で言いたかったのは、単なる仕組み作りの利点についてではなく、その仕組みを作動させる手軽さだけではなく、仕組み作り自体も自動化していくことが大事だということです。

つまり、上記の例の場合でいうと、

・地方銀行を見つけて電話する作業
・そこに定期的にメールやFAXを送る作業

すべての作業を外注し依頼しなくても自動的にやって事後報告してもらう仕組み(ルール)にすれば、私は寝ていても勝手に商品情報が集まるようになります。


「行動力」がない私でも……

今までも「坂内(ばんない)さんは、行動力がすごいですね」と言われるたびに「違うんですよね」と心の中で思ってきました。

むしろ、体力も精神力も並かそれ以下だと自覚していますので、あまり行動量は増やしたくありません。

そして、「とりあえず行動する」と、無駄な行動が増えてしまいます。きっと疲れ果てて、事業が嫌いになるかもしれません。

「無駄な行動などない」「失敗からも学べる」という論はその通りだと思いますが、だからといって、無駄な行動はできるだけ少ない方がいいですし、程度の低い失敗から得られる情報は同じく程度が低いはずですし、「成功からは学べない」ということではありません。

また、無駄な行動をしているうちに偶然の出会い(セレンディピティ)が生まれる、というような「無駄の効用」を否定しているわけでもありません。それは別の話です。

もし、「行動力」を新たに定義するなら、「より少ない行動でより大きな成果を出せる力」と言えると思います。決して「より多く行動する力」ではないと思います。

そういう意味では私は少しは行動力があるのかもしれません。

そして、そういう意味での行動力がなければ、私自身の大きな夢から遠ざかっていきます。

また、もし自分の行動が「将来、自分が楽に成果を上げながら人の役に立てる、というゴールに到達するのに有効な行動だ」という自信があれば、「行動しろ」というようなアドバイスをもらわなくても、行動したくなると思います。私がそうであるように。

これからも「行動力」を発揮して、夢を現実にしていきたいと思っています。

生意気なことを書いているような気もしますが、ご参考になれば幸いです。

お読みいただき、ありがとうございました。

フォーチュンファクトリー株式会社 代表取締役。新潟出身。東京在住、20才。「CAMPFIRE AWARD 2017【特別賞】灯火賞」受賞。「フォーチュンボックス」や自社ブランド「五感プレミアム」シリーズを販売中。