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短編小説「モロカノオ国記」

 むかしむかし、あるところに、モロカノオ国という小さな国がありました。この国の王様は、国民のことを一番に考えていて、民から愛される国王でした。

 ある日、国王の元へ一人の母親がやってきました。
「王様、聞いてください。私の子どもが、ひどいめにあっています」
「なんだって?訳を話してごらん」
「はい、王様。私の子どもは工場で働いているののですが、工場長から急に解雇されたのです。」
「それは酷い!何か理由があるのかね?」
「羽のついた髪飾りをつけて行っただけなのです。この髪飾りは、娘の誕生日にプレゼントしたもので、彼女はとても気に入っていました。ところが工場長は、「羽が工場の製品に入っては大変だから、外すように」と言われたそうです。工場で作業をする際は、大きな帽子をかぶるのだから、髪飾りがついていようが関係ありません。娘がそう抵抗すると、『私の言うことが聞けないなら、もう来なくていいです。』と解雇されたのです」

 これを聞いた王様は、激怒しました。
「何と酷い工場長だ!国民には権利があり、髪飾りをつけてきてはいけない、というルールは間違っている!その工場長を解雇させ、娘さんが働けるようにしてあげよう」
 そして、翌日には工場長は首になり、髪飾りをつけた娘は工場で働けるようになりました。

 また別の日、国王の元へ一人の少年がやってきました。
「王様、僕はどうしても納得ができません。お話を聞いてください。」
「どうしたんだね?何でも話してごらん」
「僕は学び舎に通っているのですが、講義の途中に寝てしまうのです。そうしたら先生が、起こして僕を叱るのです。だけど、寝てしまうような講義をする先生にも非があると思いませんか?それに僕たちは成長期です。身体のことを考えると、眠い時に寝て何がいけないのでしょう?そう訴えると、先生は「講義中に寝ているのはダメに決まっている」と理由をはっきり説明してくれません。それがどうしても納得できなくて…」

 これを聞いた王様は、またも激怒しました。
「何と酷い先生だ!講義中につい寝てしまうことは、誰にだってある。それに立派な先生なら、子ども達が寝なくて済むような講義ができるはずだ!よし、その先生を辞めさせて、授業中寝ても仕方ないことにしよう」
 そして、翌日その先生は解雇され、学び舎では「子どもが寝るような授業をする先生がいけない。子どもはつまらかったら寝てもよい」というきまりができました。

 それから10年の月日が経ちました。王様はとても頭を抱えていました。というのも、国民が皆働かなくなり、王様の言うことも聞かなくなったのです。

 王様が髪飾りの娘や学生を助けたことで、多くの若者が自分の権利を主張するようになりました。王様は、その全てに応えた結果、それまで国を支えていた大人たちが、皆この国から去ったのです。

 残った若者達だけで国を動かすことになりましたが、皆自分の権利を主張するだけで、誰かのために何かを我慢することができません。当然、王様の命令には従いません。少しで声を荒げると、「今の言い方で僕たちは気分を害しました。王様の言うことは不当です」と結託して抗議運動を起こすのです。やがて、その抗議運動は激化し、「王様という存在が間違っている」と王様が責められ、ついに王様は国外に追放されてしまいます。

 追放された王様は、すべてを失いましたが、もう国民のことで悩まなくて済むので、とても幸福な気持ちになりました。一方、残されたモロカノオ国の人々は、自分勝手な人しかいないので、勝手に争って、勝手に滅んでいきました。めでたし、めでたし。

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