臨床現場に活かす腸腰筋の機能解剖学と評価アプローチ
はじめに
このnoteは、誰にでもお役に立てるわけではありません。
ですが、以下に一つでも当てはまる方は、ぜひ読んでみてください。
臨床力を高めるいちきっかけとなれば幸いです。
by Rui
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腸腰筋の機能解剖学
腸腰筋は、大腰筋、腸骨筋、小腰筋*の3筋で構成されます(図1)。
✳︎小腰筋が確認できるのは約60〜65%の人のみ¹⁾とされています。
図1 腸腰筋
大腰筋
大腰筋は、体幹と下肢を結ぶ人体唯一の筋肉⁵⁾です。
【大腰筋の作用(図2)】
図2 大腰筋の股関節作用
大腰筋の作用は、股関節屈曲が主であり運動の20.8%⁴⁾寄与しています。
前額面では、股関節内転のモーメントアームを有します。股関節が内転位になるほど作用は大きくなり、股関節屈曲90°位では股関節伸展位より股関節内転作用が高まるとされています⁶⁾。
水平面では、わずかに股関節外旋作用を有します。股関節外旋位および股関節外転位で股関節外旋作用は大きくなり、股関節内旋位ではむしろ股関節内旋作用が主となります⁶⁾。
ただし、大腰筋の前額面および水平面での作用は無視できるほどに小さい⁴⁾と述べられています。
また、大腰筋は股関節の作用に加えて、腰椎の同側側屈作用⁴⁾があります。遠位にいくほど大腰筋は腰椎から側方に離れるため、側屈のモーメントアームは大きくなる⁴⁾とされています。
【大腰筋の2部位領域】
大腰筋は、Vertebral Region(椎体領域⁵⁾、前部繊維⁷⁾、浅層²⁾、浅頭⁸⁾)とTransverse Process Region(横突起領域⁵⁾、後部繊維⁷⁾、深層²⁾、深頭⁸⁾)の2つの部位で構成⁹⁾¹⁰⁾¹¹⁾されます(図3)。
図3 大腰筋の2つの部位領域
9)より画像引用
Vertebral Regionは、第12胸椎〜第5腰椎の椎間板および隣接する椎体に付着⁹⁾します。主に股関節屈曲⁹⁾や腰椎屈曲・側屈に作用するとされています(図4)。
Transverse Process Regionは、腰椎横突起の前内側部に付着⁹⁾します。腰椎前弯位にあれば腰椎伸展⁹⁾・側屈に作用するとされています(図4)。
図4 大腰筋2つの部位領域の作用の違い
9)より画像引用
図5 大腰筋2つの部位領域の筋活動(右側)
10)より画像引用一部日本語改変
【大腰筋による腰椎の伸展・屈曲作用(図6、7)⁴⁾¹²⁾¹³⁾】
腰椎中間位では、大腰筋は第1ー2腰椎椎体間には主に椎体間を圧迫するカが、第3腰椎以降は腰椎屈曲作用があります。
腰椎伸展位では、第1ー3腰椎椎体間(または第1ー5腰椎椎体間)に仲展方向のストレスが生じ、それ以下は屈曲方向のストレスが加わります。
腰椎屈曲位では、第1腰椎以下すべてが腰椎屈曲作用となりモーメントアームも中間位よりも大きく、腰椎に屈曲のストレスを加わります。
図6 腰椎の肢位の違いによる大腰筋作用の変化①
図7 腰椎の肢位の違いによる大腰筋作用の変化⑦
4)を参考に作成
腸骨筋
【腸骨筋の作用(図8)】
図8 腸骨筋の作用
腸骨筋の主な作用は、股関節屈曲であり、わずかに股関節外転⁶⁾¹⁴⁾、わずかに股関節内旋⁶⁾¹⁴⁾モーメントアームを有します。ただし、前額面と水平面の運動は無視できるほど小さい⁴⁾と言われています。
筋電図では、股関節屈曲運動や座位での骨盤前傾運動で筋活動を認めます⁴⁾。
小腰筋¹⁾
小腰筋が確認できるのは、約60〜65%の人のみとされています。筋腹は筋肉全体の近位35〜40%のみであり、より遠位に非常に長い腱が腸腰筋遠位部と腸骨筋膜に付着します。
腸腰筋の役割⁵⁾
腸腰筋は、①歩行速度や走行速度を速める役割、②姿勢制御、③股関節を安定させる役割を持つとされています(図9)。
図9 腸腰筋の役割
また、腸腰筋の筋線維組成においてはtypeI線維が49.2%、typeII線維が50.8%と割合はほぼ同程度です。このことからも腸腰筋は持続的に姿勢や関節を安定させておく役割と、瞬発的にすばやく身体を動かす役割を兼ね備えていると考えられています。
腸腰筋の筋出力低下を補う筋群
筋骨格モデルのシミュレーション解析を行った研究において、背臥位での股関節屈曲運動時に腸腰筋の出力を50%低下させると、股関節の前方・上方・内方にかかる応力が増大するだけでなく、大腿直筋、縫工筋、長内転筋、恥骨筋、大腿筋膜張筋、小殿筋の筋出力が増大した¹⁵⁾と報告されています(図10)。
図10 背臥位での股関節屈曲運動における筋活動
15)より画像引用一部日本語改変
(腸腰筋出力が低下すると長内転筋、縫工筋、大腿筋膜張筋の筋活動が高まる(赤棒線))
腸腰筋の出力低下に対して、大腿筋膜張筋や縫工筋は屈曲筋力を補填しますが、その一方で股関節外転作用も働いてしまいます。この股関節外転作用を打ち消すために、長内転筋などの張力も高まると考えられています。
臨床像として、大腿筋膜張筋や大腿直筋は過緊張や筋スパズムがみれやすいですが、これに付随して股関節内転筋群(長内転筋や恥骨筋)の緊張も高い状態であれば、腸腰筋の機能低下を代償している可能性を考慮しましょう。
歩行と走行における腸腰筋の働き
歩行における腸腰筋の働き
歩行において、腸腰筋全体では足底離地の前にはじまり遊脚初期まで筋活動が続く(立脚期後半〜遊脚期前半)¹⁾ことがわかっています(図11)。
図11 歩行周期における腸腰筋の働き
また、毎秒2m以上の歩行速度になった場合、大腰筋と腸骨筋の活動がそれ以下の歩行速度と比較して急激に大きくなった⁵⁾¹⁶⁾と報告されています。
歩行時の大腰筋と腸骨筋の活動パターンは異なるとされています。
腸骨筋は、主に遊脚初期に筋活動が高まります¹⁷⁾(図12)。
図12 歩行周期における股関節周囲筋の筋活動
17)より画像引用
一方大腰筋は、1歩行周期の中で筋活動が高まる時期が2回あり、左右下肢の接地のタイミング付近⁴⁾とされています。
大腰筋の椎体領域は、股関節屈曲作用を有することから、立脚期中盤〜後半に下肢をすばやく前方に振り出す役割と遊脚期後半に股関節を屈曲して脚を大きく一歩前へ踏み出す役割をもつ⁵⁾と考えられています。
大腰筋の横突起領域は、体幹伸展作用を有することから、立脚期中盤〜後半に股関節の伸展中に身体を安定させるとともに、体幹伸展により腰部をすばやく前方に移動させる役割をもつ⁵⁾と考えられています。
図13 遊脚のための腸腰筋のエネルギー蓄積
18)を参考に作成
歩行における腸腰筋と下腿三頭筋の協調性
歩行における立脚期から遊脚期への移行には、腸腰筋や下腿三頭筋の遠心性収縮から求心性収縮への切り替わりが重要な役割を担っています。
筋骨格系モデルのシミュレーション解析の結果では、歩行時の腸腰筋の張力低下(可能な限り出力0とした)は、小殿筋や大腿直筋とともに腓腹筋に代償された⁶⁾²⁰⁾と報告されています。一方で、同研究において腓腹筋の張力低下はヒラメ筋とともに腸腰筋により代償される傾向がある⁶⁾²⁰⁾とも報告されています。
つまり、腸腰筋と腓腹筋は筋間の協調関係が示唆され、互いの機能を代償している可能性が挙げられます。
臨床では、例えば立脚後期の問題に対して、一方の筋が過緊張状態なのか、一方の筋力低下があるのかなど、評価の視野を広げるのに役立てられます。
走行における腸腰筋の働き
走行において、腸腰筋は足趾離地前後(takeoff前後)に主に活動します¹⁾²¹⁾。
図14 ランニングの各相
22)より画像引用
足趾離地を通して、腸腰筋は遠心性に活動し、足趾離地直後から遊脚初期に向けて、すぐに求心性に続きます¹⁾。
大腰筋の横断面積と疾走速度との間には強い正の相関関係が認められており²³⁾、また走行速度が速くなるにつれて大腰筋、腸骨筋の活動が増大していく⁵⁾ことを明らかになっています。
腸腰筋の短縮テスト(Thomasテスト変法)
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