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「偉大な挑戦者」 ベッテルの引退レースに、幸あれ。

ついにベッテルが引退レースを迎える。「偉大な挑戦者」として戦い続けたベッテルにふさわしい舞台となるよう、心から願っている。

私にとってのベッテルは、4冠を達成したレッドブル時代よりも、最強メルセデスに挑みかかったフェラーリ時代の人間臭さが心に残っている。ときにミスで自滅し、ときに感情を高ぶらせ、チームとの人間関係に悩みながらも、劇的なレースで勝利をもぎ取る。そんな「挑戦者」としての姿が印象深い。

特にフェラーリ移籍2戦目で最強メルセデスのハミルトンとロズベルグをなで斬りにした2015年のマレーシアGPは、ベッテル会心の勝利だった。レッドブル時代に輝かしい成績を収めながら、14年に新加入のリカルドに負け、フェラーリ移籍に活路を求めた。ベッテルはこの勝利で、「タイトル4連覇はニューウェイマシンに乗ったおかげ」という外野の声を黙らせたのだ。

15年マレーシアGPでのベッテル

今年のハンガリーGP前に引退発表してもなお、ベッテルは挑戦者の姿勢を崩さなかった。日本GPで予選Q3進出9位からの6位入賞を果たし、今回の引退レースも予選9位に入った。引退決断は完全にモチベーションの問題で、シーズン前半のアストンマーチンのマシンの出来がもう少しまともならどうだったか、と思うと残念でならない。

F1は去りゆくものに冷たい、と言われる。引退を決断した者に花を持たせるどころか、溺れる犬を棒で叩くように不運を浴びせるのがこの世界だ。モチベーション低下を理由に引退する場合、通常なら成績も尻すぼみになるはずだが、ベッテルの場合は引退発表後からシーズン最高の走りを繰り返している。

アブダビGP前にかつての仇敵のハミルトンが音頭を取り、レギュラードライバー20人勢揃いで送別パーティーを開いたことが話題になった。ミハエル・シューマッハやマッサ、バトン、ライコネンの引退や、アロンソのF1一時離脱時もそれはそれで盛大な送別だったが、ドライバー全員参加の、それも非公式の送別会なんて聞いたことがない。

サーキットではベッテル引退にあわせ、愛弟子のミック・シューマッハとライバルのアロンソが、ベッテルと同じドイツ国旗をデザインしたヘルメットを被っている。予選中継では「ベッテルが3人走っている!」と驚いた(笑)。

ミックはサンパウロGPで父ミハエルと柄を揃えたブルーのヘルメットを被った。来シーズンはハースに乗らないことが発表されたばかりだが、区切りのレースで父ではなくベッテルのデザインを選んだことに少々驚いた。

なお、ベッテル本人はオークションで募ったファン1000人の写真をあしらった特別ヘルメットを被っている。ファンと共に走るという企画もさることながら、収益はすべて慈善団体に寄付する、という取り組みもベッテルらしい。

(すみません。私はオークションを落札しておりません)

惜しまれつつ引退するベッテルだが、ドライバー仲間からは「いずれ現役復帰するんじゃないの?」とのからかいの声も聞かれる。ベッテルの人柄が偲ばれる話だし、ここ数戦の活躍で本人も復帰に前向きとなるなら、こんなに嬉しい話はない。

昨年のライコネンのように、引退レースを完走できずに終わる事例は少なくない。ベッテルは無事完走できますように。偉大な4冠王者、偉大な挑戦者の引退レースに、幸あれ。


追加で、おそらく2022年のF1シーンで最も胸を打つシーンの1つ。



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