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“俺たちのフェラーリ”が炸裂!(悪い意味で)——F1エミリア・ロマーニャGP

開幕3戦で2勝を挙げたフェラーリが地元イタリアに帰ってきた。今日は優勝なら文句なしだが、最低でも表彰台を確保してファンにいいところを見せたい‥‥。そんなチームの狙いは空回りに終わり、ルクレールは表彰台を逃して6位、サインツは1周目リタイアに終わった。選手権首位を守ったのは事実だが、むしろ自滅でレースを潰した後味の悪さが残った。

不用意なタイヤ交換で無理をしたルクレール

スタート直後、レッドブル2台が飛び出し、フェラーリのルクレール(左)と、後方のサインツにとっては受難のレースに。。。

63周レースの45周目ごろ、ルクレールからチームへの無線が飛んだ。「タイヤはプランDはどう?」(ルクレール)→「ダメ」(チーム)。

ルクレールはレッドブル2台に次ぐ3位走行中のレース後半にミディアムタイヤの摩耗がきつくなり、チームにタイヤ交換(プランD)のお伺いをたてた。しかし、チームの返答は「そのまま最後まで走り切れ」。

選手権ポイントで45点リードしていることを考えれば、負けとはいえ3位表彰台なら十分な局面で、タイヤ交換で順位を落とすリスクを負うより、タイヤを労って走ったほうがよい、との判断だった。

ところが、無線の数周後の50周目、ルクレールはタイヤ交換のためにピットへ向かう。タイヤの摩耗が予想以上に深刻なのか、タイヤ交換後も順位を守れるとの判断が働いたのか不明だが、インタビュー等での検証が必要だろう。

ルクレールはタイヤ交換中にノリスに前に出られて4位に落ちる。すぐに3位を取り戻したものの、ペースアップを焦ってシケインの縁石に乗ってスピンし、コース脇のバリアに接触! 再び走り出せる状態ではあるものの、ウィングを破損し、交換の間に9位に落ちた。

その後、新品タイヤで猛然と追い上げたものの6位に挽回するのが精一杯。ティフォシ(フェラーリのファン)の前で表彰台に立つことは叶わなかった。

口の悪いF1ファンはフェラーリがポカをしでかす姿を、からかいと落胆を交えて「俺たちのフェラーリ」と呼んでいる。今シーズンは手堅くリードを守るスキのなさが目立ったが、欧州ラウンド初戦でいきなりボロが出た。

ルクレールとフェラーリチームを擁護するなら、この週末のドライ路面でのタイヤの持ちは、土曜のスプリントと日曜の決勝を通じてレッドブルが一貫してフェラーリをリードしていた。豪州GPとは逆の構図で、レッドブルのプレッシャーがタイヤに対する判断のブレを招いたかもしれない。

一方で、なんのために50周目にタイヤ交換したのか理由が見えないのは確かだ。タイヤの摩耗がひどいなら、ノリスを抜いて3位に上がった時点で「これでよし」とすべきだった。レッドブル2台がタイヤ交換したことで、ファステストラップポイントを守りに行こうとの気持ちが出すぎたかもしれないし、ペレスの2位を狙おうとの欲が出たのかもしれない。

ひょっとしたら、「ハナから3位など眼中になく、新品タイヤで追い上げて首位を奪うつもりだった」のだろうか? このあたりの意図はインタビューを見ないとわからないが。

いずれにせよ不用意なアクションだった。

「Keep pushing」の指示で歯車が狂ったサインツ

ルクレールの陰で、僚友サインツはリカルドに追突されて1周目リタイアに終わった。オーストラリアの2周目リタイアに続く2戦連続での序盤リタイア。

サインツのもらい事故は不運で片付けるべきものではなく、金曜予選でのフェラーリのポカが日曜日まで尾を引いた結果と見るほうが妥当だ。

スプリントレースの出走順を決める金曜予選は降ったり止んだりの雨模様となり、そのうちQ2はウェットから路面が乾きつつあるものの、セッション後半に雨が予測されていることから、雨が降るできるだけ直前を狙ってタイムを出したい状況だった。

サインツはセッション中盤に1:18.990の好タイムを出すものの、チームからの指示は「Keep pushing.」。それを忠実に守ってコースを攻め続けたサインツはスピンのうえサンドトラップにはまり、以後の予選セッションを棒に振った。(ただし、本人は「そんなに攻めていたわけではない」と言っている)

金曜予選Q2でクラッシュしたサインツ

なにも焦る必要がないQ2でタイムをさらに上げようとしたピットからの指示は、Q3進出を磐石なものにするというより、Q2で圧倒的タイムを出して、Q3に向けてルクレールにプレッシャーをかけにいこうとした動きに感じた。

同じチーム内でもルクレールの担当スタッフとサインツの担当スタッフは異なる。FP1からQ1にかけて、ルクレールとサインツがタイムを更新し合うつばぜり合いが続いていた。たとえQ2だとしても、好タイムを出して心理的優位を築きたい局面であったことは確かだ。一発の速さに定評があるルクレールが相手となればなおさらだ。

しかしながら、自分たちのマシンの力を過信して、身内が最大のライバルだと思っているとしたら、ライバルはチーム外にもいるということを忘れているし、天候という前提も忘れている。その手の慢心に足元をすくわれたように思えた。

翌日のスプリントレースで順位を上げたものの、日曜の決勝スタート順は4位にとどまった。日曜日の偶数側グリッドは濡れて加速が鈍い上に、前3台と比べてもらい事故を受けやすいことが命取りとなった。

かつて、タイトルを争うチーム内でほぼ同等の力を持っているにも関わらず、この手の不運やめぐり合わせの悪さでセカンドドライバー扱いとなってしまったドライバーを多く見てきた。サインツはフェラーリとの契約を2年延長したばかりだが、このような憂き目に合わないよう切に願いたい。

面白かったスプリント! グランプリを満喫した3日間

今年初めて土曜日のスプリントレースが行われたグランプリ。

去年から導入されたのスプリントで一番面白かった!上位10台は激しいバトルの連続で、やはりポイントがかかってるとバトルも真剣になるのだろうか? 前者に接近しやすい今年のマシン特性に加え、ピレリのソフトタイヤの持ちがレース距離に少しだけ足りない、というのが盛り上げに一役買った感がある。

金曜予選はウェット、土曜のスプリントレースはドライ、日曜のレースはウェットと路面状況がすべて異なり、アクシデントあり、ハプニングありのセッションを3日間楽しむことができた。コロナの観客制限もなくなった今年はスタンドや丘は満員の観衆で、赤い煙も立ちのぼり、久しぶりに感じる熱気だった。

現地のファンはさぞかしチケット代がお買い得に思えたことだろう。地元フェラーリが好結果で終えられていたなら、の話だが。。。。

不振にあえぐチャンピオンチーム、メルセデス

金曜日の予選Q2の赤旗中断中、路面が濡れてこれ以降のタイム更新は不可能だとマシンを降りたハミルトンと、それをとがめるチーム代表のトト・ウォルフが口論する姿が画面に映し出された。

前向きな意見のぶつけ合い、という雰囲気が微塵も感じられず、戦力不足のなかでお互いのイライラをぶつけただけに見えたあの口論。

日曜の決勝でラッセルは4位と気を吐いた。あの最下位のウィリアムズで3年間やってきた苦労人ぶりはダテではない。一方のハミルトンは再三再四ガスリーに仕掛けるものの、周回遅れの13位に終わり、チェッカー後にウォルフからマシンの戦力不足を詫びる無線が入っていた。

チャンピオンを複数回連覇した後で「普通のチーム」になり、戦力ダウンに意気消沈してポカミス連発、というのは見たことがある(例えばフェラーリとか、例えばウィリアムズとか)。メルセデスはシーズン後に誰かがスケープゴートになってなければいいけど。。。

不運なアロンソ

金曜の予選Q3の最初と赤旗中断からの再開後に真っ先にコースへ飛び出していった姿に、アロンソの今年にかける強い意気込みを見た気がした。実際に、Q3の最終結果はトップチームを除けばマグヌッセン4位、アロンソ5位と、早いタイミングでコースに出たドライバーがいい位置に付けた。

しかし、スプリントレースでは奮わず9位。

日曜のレースでもスピンしたミックのもらい事故を受け、早々にリタイアに終わった。

豪州GPでも感じたが、去りゆくドライバーにF1は厳しい。まだ力が残っていても溺れる犬を棒で叩くような不運が降りかかるのがF1の怖さだと感じる。どこかでアロンソには立ち直りのきっかけを掴んでほしい。

レッドブル、6年ぶりの1-2

フェルスタッペン優勝、ペレス2位と、レッドブルが6年ぶりの1-2フィニッシュを決めた。日本人としては、「どうせなら1年早く決めてほしかった」という気持ちと、「それでもホンダの技術で勝ち取った1-2だ」という複雑な思いがある。

ペレスが他チームのドライバーを抑え込み、その間にフェルスタッペンが先頭で逃げを打つ、というのは、マンセル・パトレーゼ時代のウィリアムズ・ルノーを彷彿とさせた。ペレスが自力で2位に入る戦力となったのは本当に大きい。

前述のとおり、フェルスタッペンがスプリント、決勝レースをともに制したのは、ドライ路面でのタイヤの持ちがフェラーリを凌駕したことが大きいだろう。この一戦がターニングポイントなのか、タイヤの使い方の優劣はサーキットごとに異なるのか、注意してみていくことが必要となろう。

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