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#370【出版の裏側】他社本研究|おれは無関心なあなたを傷つけたい

このnoteは2022年4月12日配信のVoicyの音源「フォレスト出版チャンネル|知恵の木を植えるラジオ」の内容をもとに作成したものです。

土屋:フォレスト出版チャンネルのパーソナリティーを務める土屋芳輝です。本日は、編集部の森上さん、寺崎さんと共にお伝えしていきます。森上さん、寺崎さん、どうぞよろしくお願いします。

森上・寺崎:よろしくお願いします。

土屋:今日のテーマは「他社本研究」ということなんですけど、今日の一冊は何でしょうか?


ウィル・スミスがクリス・ロックをビンタした事件から考える「表現の自由」

寺崎:はい。ウーマンラッシュアワーの村本大輔さんが書いた『おれは無関心なあなたを傷つけたい』という、ダイヤモンド社さんから出ている本です。これにちょっと関わる話ではあるんですけど、この間ウィル・スミスがアカデミーショーの授賞式で奥さんのことをいじられて、クリス・ロックをビンタした事件があったんですけど、森上さんはどう思いました?日本と海外だと反応が違うらしくて、割とウィル・スミスを擁護するのが日本の反応で、海外ではとにかくビンタしたウィル・スミスが悪いという反応なんですけど、俺なんかはどっちもどっちだなという気がしたんですよね。

森上:暴力はやっぱりやばいかなと思います。それはさて置いて、そのいじりネタの内容についてどう思うかって話だと思う。それを表現の自由とか、言論の自由っていう、それについてどう思うのっていうところだと思いますよね。

寺崎:ある種、言葉の暴力っていう捉え方もできなくないのかな、あのいじり方は。

森上:よく何でも表現の自由とか、言論の自由っていうけども、そこには一つの絶対的な線引きがあると思っていて、公共性とか社会性があるかないか。クリス・ロックの話で言えば、彼女が病気で悩んでいるっていうことがわかった上で、しかも病気なわけじゃない。そこにいじりが入って、それって公共性がありますか?っていう話。

寺崎:なるほどね。僕も近いんですけども、ちょっと別の見方をしてみたの。クリス・ロックを擁護するアメリカの女性が「普段はもっと過激だよね。大人しい方よね。」って言っていて、確かに欧米のスタンダップコメディってあるじゃないですか。あれって人種差別問題とか、結構きわどいところを責めているじゃないですか。そういう文化があるんだろうなっていうのが日本人ながら想像できるんですよ。だから、そういう意味では、さっき、表現の自由って出ましたけど、そこはすごくあるんだなっていうのはちょっと感じだ。

森上:俺はそれは行き過ぎた自由だと思う。そこは個人攻撃だから。差別問題の取り上げ方としてもそうなんだけど・・・、例えば政治家に対して何か文句を言うのは公の人だから俺はいいと思うんですよ。

寺崎:公人だからね。

森上:そう。公人と呼ばれる人たちは。ただ芸能人とかも最近文春砲とか、すごいじゃないですか。その人のキャリアを抹殺するぐらいの。それこそ、女子プロレスラーが自殺しちゃったりとかさ。表現の自由だ、言論の自由だって、一見よさそうに見えるけど、そこはちゃんと線引きがあって。

寺崎:そうだね。

森上:だから、クリス・ロックははっきり言って、全然表現の自由っていうのを超えていると思う。これはもう超えちゃっている。だからって、それで暴力をふるうウィル・スミスがいいとも思わない。それはビンタしたっていう行為自体がやばいから。

「見て見ぬふりをする すべての日本人」へ向けたメッセージ

寺崎:なるほど。で、この村本大輔さんの本に戻るんですけど、村本大輔さんがちょっと過激な、いわゆる日本のメディアでは触れない問題に触れて、テレビやラジオの世界から干されてしまったっていうのは皆さんご存知だと思うんですけど、村本さんがどんな想いでそういう発言なり言動をしているかっていうのが、この本を読むとすごくよくわかるんですよ。実際、2017年頃なのかな、原発とか沖縄の基地問題を漫才にし始めたのが。そこからテレビ出演が激減して、その後はAbemaTVとかに出て、僕はAbemaTVに村本さんが出ているのをよく見ていたんですけど、結構言動がストレートで、なかなか刺激的な議論を巻き起こしているなと思っていたんですよ。で、この本のカバーがまたドキッとするんですよ、「見て見ぬふりをする すべての日本人へ」って。

森上:よくメディアでコンプラ問題ってあるじゃないですか。あれって忖度含めて完全に自粛に入っているけど、俺はそれは違うと思うんですよ。だから、その点で原発の問題とか、沖縄の基地の問題って社会性もあるし、公共性もあるから俺は全然いいと思う。

寺崎:そこは表現の自由を広げるべきだよね。

森上:広げるべきだし、絶対それはやるべき。これ、マザーテレサの「愛の反対は無関心である」っていう言葉の香りがするタイトルだよね。だから、俺は全然賛同します、このタイトルとか、「見て見ぬふりするすべての日本人へ」とか、そこは本当に賛同しますね。

寺崎:このタイトルと帯コピーを見て、速攻でアマゾンでポチっちゃったんですけど。あと、カバーの袖に入っている言葉もしびれるんですよ。「この国の最大の悲劇は、国民の無関心と芸人の沈黙だ」って。

森上:ほうほうほう。

アメリカの「人種差別ネタ」は「差別が存在する」からやっているだけ

寺崎:これ、日本のお笑い番組に出ている芸人さんとかって、例えばポンコツの後輩の話とか、タクシーの運転手のありえへん話とか、家族の話とか、相方ががさつだとか、そんなネタが多いんだけれども、村本さんはスタンダップコメディを勉強しにアメリカに行ったらしいんですよ。で、ロサンゼルスのタクシーの運転手に日本人の友達が「アメリカのコメディは人種差別ネタが多いよね」って言ったら、運転手さんが「いや、それがあるからだよ」って答えたんだって。
で、「あるからだよ」って聞いた時に、「それって日本にはないのかと思った」ということが書かれていて、分かりやすいので言うと、村本さんがの17歳の時に中退して働いていたらしいんですけど、好きな女の子がいて、その子の話をしたら、「あのうちは朝鮮人やからしゃべるな」って言われた時の違和感を思い出したんだって。沖縄の人たちが基地を押し付けられ、工事に反対して、座り込みをしていることなんかも思い浮かんだ、 と。で、日本のテレビ、メディアでは“あるもの”が“ないもの”にされている、と。

森上:なるほど。

寺崎:で、村本さんは日本の水槽の外を知ってしまったことで、そこに違和感をどんどん感じて発言するわけだけど、そうするとどんどんテレビの仕事がなくなって、若いファンもいなくなって、街宣車で追いかけられて、みたいなことになるんだけども、それでも活動をやっているんですよ。
で、1番泣けた話なんだけど、朝鮮学校っていうのはいまだに学費が無償化されていないんですよ。それを街頭で高校生たちが訴えると、街宣車が罵って来たりするわけですよ。大の大人が。そういうのを見た時に恥ずかしくなったと。俺は何をやっているんだろうと。で、ネタにその話を組み込んだらしいんですよ。そしたら、オンエアー後に信じられないくらいのメッセージが届いて、それはゴールデンタイムだったので、「朝鮮学校無償化」っていう言葉が入っていたのが、すごく衝撃的だったらしくて、「テレビを見ていたらおじいさんが泣き出して、その後にお父さんが泣き出して、私も泣いた」っていうんですよ。だから、おじいさんの苦労を知るお父さん、お父さんの苦労を知る娘みたいな話で。

森上:なるほど。次のチャプターで続きを・・・。

“あるもの”を“ない”とするヤバさ

寺崎:だから、内容は皆さんに読んでいただきたいんですけど、全編にわたって村本さんの真摯な姿勢というのがビシビシ伝わってきて、さっきのクリス・ロックに欠けていたのは社会性とか、より大きなものに対する批判精神というか、そういうものが欠けていたのは事実であり、ただこの本の中では原発とか・・・。元々村本さんは原発の町の出身なんですよ。福井県大飯郡おおい町。それで、お父さんは癌で亡くなられているんだけど、それにかかわるエピソードが書かれている終わりも本当にしびれる泣ける話でね。めちゃくちゃいい本です。

森上:その辺りの言うべきことを言わないで、言う時には言いすぎみたいな、そこのズレを感じるよね。だからSNSだったら何でもいいとか、誹謗中傷とか、そういうことは平気でみんなやるのに、社会性とかになると急にキュッとなるっていうね。

寺崎:本当に村社会っていうかね。言っちゃいけないみたいなね。

森上:その歪みを感じるんだよね。その中でもSNSの中の表現の自由で、芸能人は公人だみたいな感じでガンガン叩いちゃう、あの感じもよくわかんないし。

寺崎:ちなみに社会学者の宮台真司さんと茂木健一郎さんが推薦帯を書いているんですけど、宮台さんは「自己啓発書がクズ向けのガソリンだとすれば、本書はマトモになりたい人のガソリンだ! 」って。これ、自己啓発書がクズって言われるのが、我々としてはね・・・。

森上:(笑)。

寺崎:ざわざわしますけど。

森上:(笑)。茂木さんは?

寺崎:茂木さんは、「コメディアンの魂が生きるを照らす。「倍返し」だ! 震えるぜ。」って。

森上:なるほど。やっぱり“あるもの”を“ない”とするっていうのは一番やばいよね。

寺崎:“臭い物に蓋”っていうことだよね。

森上:まさに。それは本当によくないと思う。話はした方がいいと思うんだよね。だから、朝鮮学校の子が意見を言って、誰かが意見を言ってって、それは健全だと思うんだよ。ぶつかること自体は。個人的な意見はあるにせよ。ただ、それさえ黙っちゃう、街宣車が来るから、そういうのを言うのをやめようみたいな。

寺崎:黙らせる圧力っていうのは、よくないよね。

森上:それは本当によくないね。ロシアのプーチンみたいな。ちょっと話が飛んじゃったけど。

言論の自由を阻害する「行き過ぎのコンプライアンス」

寺崎:土屋さんは元々芸人で、放送作家もされていてっていう経歴で。

土屋:本当にちょっとですけどね。

寺崎:その辺って、どうですかね?

土屋:いやー、そこまで深く考えたことないですね。

森上:でも、バラエティの世界って、相当コンプラというか・・・。

土屋:僕がやっていたのが 20年いかないくらい前ですけど、その時ですら、コンプラはすごく厳しかったので、今は本当にガチガチだと思いますね。

森上:そうですよね。ガチガチで何も表現ができないっていう。それって舞台でもそうなのかな。テレビとか関係なく。芸人の世界って。

寺崎:そう。俺も舞台は違うのかなと思っていた。舞台ではみんな過激な笑いをやっているのかなって思ったりして。全然そういう世界を知らないから。

土屋:どうなんですかね?今は見に行かないので、わからないですけど。昔はやっている人もいましたけど。

森上:でも、引いちゃう観客の人がいるんだろうね。

寺崎:某タレントさんで、今はテレビでコメンテーターとかをやられている方で、かつては反原発で某ラジオ局の番組を降ろされた人がいて、僕は大好きだったんですけど。

森上:大体絞られてきちゃうよね(笑)。

寺崎:その人と個人的にバーでたまたま会ったことがあって、「どうして、宗旨変えをしたんですか?」って聞いたら、「僕も大人になりました」って言っていました。

森上:なるほど。大人になるって都合がいい言葉だよね。

寺崎:コンプラの厳しい日本のメディアで食っていくとなると、そうせざるを得ないよね。

広告に頼らない出版メディアは最後の防波堤!?

森上:それこそ政府の圧力とか、そこに屈服するようなことがあるっていうのが、なかなか・・・。ですから、そういう意味ではよく言われることですけど、出版ってそこは自由だと思うんですよね。

寺崎:そうだよね。まだ言いたい事は言えるよね。

森上:そこに可能性は本当に感じる。

寺崎:書籍でしょ?雑誌はクライアントがいるから。

森上:そう。でも、週刊誌の元気がいい理由はそこだと思うんだよね。

寺崎:週刊誌はそうだな。

森上:うん。そういう意味では、広告にそんなに頼らない。新聞のジャーナリズム、テレビのジャーナリズム、雑誌のジャーナリズムで言うと、雑誌のジャーナリズムが一番そこは変な忖度とかを抜きにして、言っている感じがするけどね。

寺崎:そうだね。

森上:まあ、取り扱うものが幅広すぎるっていうのはあるけど。政治に対してもかなりズバッといくじゃないですか。そこは出版の強さだなって改めて思う。

寺崎:大丈夫かな、今日の放送。

森上:大丈夫だよ!!

寺崎:(笑)。

森上:この村本さんの本も、本だから書けるわけじゃん。

寺崎:そうだね。

森上:そうでしょ。やっぱりそこはあるよね。もちろんnoteとか、ネットメディアにも書けるのかもしれないけど。でもやっぱりその辺の表現とかは見て見ぬふりしちゃだめだよねっていう話だよね。『おれは無関心なあなたを傷つけたい』、いい言葉だね。そんなところですか。

寺崎:はい。

土屋:ということで今日の放送はここまでとします。森上さん、寺崎さん、ありがとうございました。

森上・寺崎:ありがとうございました。

(書き起こし:フォレスト出版本部・冨田弘子)


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