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その課題、もしかしたら「解決してはいけない課題」かも?

フォレスト出版編集部の寺崎です。

ビジネスパーソンにとって「課題」「問題」はつねについて回る話です。仕事、人間関係、お金などなど。私たちはついつい目の前の「課題」を解決しようとしがちです。なんなら、課題や問題を解決する能力の高い人を「仕事ができる」と思いがちです。

でもそれ・・・じつは「解決してはいけない課題」かもしれません。

今日はそんなお話です。引用元となる教科書は中尾隆一郎さんの『最高の成果を生み出すビジネススキル・プリンシプル』です。


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その課題解決に「経済合理性」はありますか?

 会社には「課題発見屋」と「課題解決屋」といわれる人種がいます。
 このような表現をすると「総会屋」か何かのようで 仲間内の悪口を書いているように思うかもしれませんが、決してそうではありません。
 彼らは一般的にはとても優秀で、次々に会社の課題を発見し、解決していく頼もしい人材なのです。特に課題を発見できる人材は貴重で、めったにいません。当然社内での評価も高く、順調にキャリアを積んで、出世していきます。
 ところが、一部の「課題解決屋」は「課題を解決すること」が目的であると勘違いしているのです。

「えっ、どうして?」
「課題は解決すべきものですよね?」

 さて、何が問題なのでしょう。
 実は「解決しない方がよい課題」というものがビジネスには存在します。言い方を変えると、課題の存在を分かった上で、放置しておいた方がよい課題があるのです。
 それはどうしてでしょうか。その構造を見ていくことにします。

課題を解決すると新たな課題が浮かび上がる

 まず、課題を解決すると、必ず新たな課題が発生するという点を理解する必要があります。最悪の場合、ある課題を解決すると、それよりも大きい新たな課題が出てくる場合があります。もとの課題を解決しなければ、この新たな課題は発生しなかったのです。
 代表的な例としては、農地不足という課題を解決するために干拓事業を行ったところ、海苔の養殖や近海漁業に影響が起こり、さらに新たな環境問題を発生させた事例などが挙げられます。
 ビジネス上で課題を解決したいのは、「課題を放置しておくとムダなコストを失う」からです。課題を解決することで、このムダなコストの流出をなくしたいわけです。
 このムダに失っているコストの額をL(万円)とします。一方、課題を解決するためにもコストが必要です。先ほどの例では、干拓事業を行うためにダムや堤防を作るコストにあたります。このコストをI(万円)とします。
 もしも、課題を解決したことで、新たに大きな課題が発生しない場合でも、「L>I」という不等式が成立しない場合は、課題を解決する経済合理性はありません。つまり「L<I」の場合は、課題を放置しておく方がよいのです。もちろんここでいうコストとは、外部に支払われるコストだけではなく、従業員の手間や機会損失なども含めて多面的に判断する必要があります。
 さらに、課題を解決したことで、新たに課題が発生する場合はどうでしょう。新たに発生した課題で失うコストをL2(万円)とすると、「L>I+L2」の式が成立する必要があるのです。もちろん、ここでのL2(万円)の代わりに、この新たな課題を解決するのに必要なコストI2(万円)を入れても構いません。

リクルートで体感した「解決すべきではない課題」の存在

 私が、リクルートの子会社に出向していたときのことです、
 その子会社の社長に、人事のメンバーと一緒に「事業部間でのアルバイトの異動に関して課題がある」という話をしたことがあります。時期や事業部によってはアルバイトの仕事に繁閑があるので、それを調整することで、採用コストや教育コストを削減できるのではないかと提案したのです。
 この提案に対する社長の回答はこうでした。

「2年前であればそうだけど、現在は採用コストも教育コストも下がっているはずで、年間数百万円のオーダーだと思う(同社には当時1000名のアルバイトがいました)。1億円近くかかっていれば解決したいけれど、数百万円であれば、それをゼロにはできないので、分かった上で放置しておきたい」

 つまり、L<Iであるということでした。確かに精査してみるとこの不等式の関係でした。
 課題を見つけると、それを放置しておくことが悪のように思う人が多いものです。私もそうでした。しかも、課題解決策の決済を取る起案書等には、課題を解決することで、新たな課題が発生する可能性に関しては触れていないことが多いのが現状です。
 しかし、実際は、課題を解決すると、大なり小なり新たな課題が発生します。これを含めた上で、多角的な観点での経済合理性で、課題解決の是非について判断できるようになると、あなたの仕事のレベルは格段に向上するはずです。

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この話、誰もが思いあたるフシがあるのではないでしょうか。もし、思い当たりがなければ、「あの時に解決したあの課題がもしかしたら“解決してはいけない課題”だったかも」と思いを馳せてみてください。

仕事をするうえで「想定外のコスト」を生み出さないためにも、この考え方は身につけておきたいものです。


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