自分や家族が「闇の勢力」と闘う〝目覚めた人〞(=陰謀論者)にならないために知っておきたいこと
つい数年前までは、「父親がネトウヨになってしまった」という悲痛の声が、SNSを中心に出回っていました。
ルポライター鈴木大介さんのこちらの記事も、たいへん話題になったことを記憶している方も多いことでしょう。
悪い意味で「ここまで人は変わってしまうのか」という驚きと、肉親でさえ、ほぼ対話不能になってしまうことの悲しさ、恐ろしさを感じます。
一方、このコロナ禍においては、「家族が陰謀論者になってしまった」という報告が、ものすごい勢いで増えています。試しにTwitterにて「陰謀論」と検索してみてください。そうした声をすぐに発見できるはずです。
読売新聞オンラインでは、このところ「虚実のはざま」というコーナーで、陰謀論者を取材した連載記事を載せているのですが、陰謀論にはまってきっかけや、巻き込まれた家族の姿に、ただただ切なくなります。
このように、「ワクチンにマイクロチップが入っている」「新型コロナウイルスは人口削減計画によるもの」などといった「もう1つの真実を信じる人」の声は、ますます大きくなり、社会の分断を加速させています。
以下はイギリスの事例ですが、こちらもなかなか衝撃です。
以前、あるビジネス系の著者候補の方を取材したときに、急に話が脱線し、「プレアデス星人」「銀河○○団」なんて言葉を真顔で話されたときがありました。
「ああ……」「そうなんですね……」「聞いたことないですね……」「なんか凄いですね……」と返答しつつ、爆笑をこらえるのに必死でした。
結局、対話が成り立たなくなり、その方の企画は立ち消えになりました。「信じているものが違う」と、これほどまでに断絶、コミュニケーション不全が生まれるのだと、身を持って知った次第です。
さて、今年の4月に刊行された『情報を正しく選択するための認知バイアス事典』は、もともとは、「社会を分断させるような言説に惑わされずに、正しく情報を見るリテラシーを身につけよう」ということを、コンセプトの1つとして企画しました。それが功を奏したのか、おかげさまでベストセラーとなりました。
しかし、もっと直接的に陰謀論を検証し、その危険性を訴える本もあるべきではないか――そんな思いで企画したのが、本日校了し、10月発売予定の、『あなたを陰謀論者にする言葉』です。
カバーの写真が象徴しているように、著者の雨宮純さんによれば、スマホが陰謀論の入り口になることがほとんどなのだそうです。
では、スマホに表示されるどんな情報が、人を陰謀論へ結びつけるのか――。
カバー裏に次のような説明文があります。
「スティーブ・ジョブズ」「オーガニック」「アロマ」「量子力学」「ボードゲーム」という人名や一般名詞が、誰かを闇落ちさせるきっかけとなる可能性があるとは、想像がつかないのではないだろうか。
事実、「癒し」や「自然」を掲げるスピリチュアルには安全なイメージを持つ人は多いが、米国ではヨガやスピリチュアルのインフルエンサーがSNSに陰謀論を投稿し、Qアノンの入り口となっていたことが指摘されている。
本書では、こうした何食わぬ顔をして点々と存在している「言葉」が、ある補助線を引くことによって、一つのミステリアスな奔流につながることを、歴史と膨大な文献を用いて突き止め、自身や身近な人を守るために、その危険性について警鐘を鳴らす。
イノベーションを起こしたジョブズ、健康的なオーガニックやアロマ、物理学の用語である量子力学、そしてボードゲーム……。
これらの人名や一般名詞が陰謀論につながることに、ピンとくる人は少ないかもしれません。
しかし、戦後アメリカで起きたカウンターカルチャー、そして神智学や人智学といった先駆となる思想からスタートし、自己啓発やスピリチュアルなどを経て現代の陰謀論に至るまでを丁寧に追った、400ページほどの本書を読めば、バラバラだった点と点が一本の線でつながる興奮を覚えるはずです。
そして同時に、良からぬ人や集団、思想へ対する危機察知力、すなわち「あ、これは怪しいな」とピンとくる感度、情報リテラシーを高められるはずです。
ぜひ、期待してくだだい。
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昨日、私が2回目のモデルナ製のワクチンを接種してきた話を校正者の方に話したら、「ボクも受けたんだけどねえ…、今はいいけど5年後に脳が溶けるって他社の編集者に言われちゃったよ。そうなったら仕方ないよねえ」と、不安そうに話していました。
(編集部 石黒)