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10数年の時を経て文庫化された、あの泣ける本

編集部の稲川です。
私がこれまでにお会いした著者や、私の力では残念ながら著者にはならなかった方も含め、会うたびにいろいろと学ばせていただいている。

そんな中で、私が敬愛する先生がいる。

木下晴弘先生。

木下先生は、元カリスマ塾講師で。関西で灘高校や洛南高校、洛星高校、大阪教育大学付属池田高校など、1990年代に東大・京大合格者ランキングで上位を占めていた、いわゆる難関校合格のための塾でトップだった人だ。

私は小学生の頃、超が付くほどの学習塾好きで、何より塾長のことが大好きだった。田舎の寺子屋のような学習塾で、塾長を中心に1人、2人の大学生の先生で運営されていた塾で、入塾はとにかく誰でも歓迎だった。

私は学校が終わると、授業の始まる1時間以上も前に、塾長室で別のテキストで勉強を教わった。
入塾初期の生徒だったからか、私はほぼ塾長とマンツーマンのような形で勉強を教えてもらい、スポンジが水を吸うように知識を吸収していった。

今の私は塾長のおかげと言ってよく、ゆえに塾の先生というと頭が上がらないのだ。
普段はめっぽう年上の著者の方しか“先生”と呼ばない生意気な私も、塾の先生にだけは、この呼称でお呼びしてしまう。

塾では勉強だけでなく、人生訓も学ぶ。それが学校とは違い好きな理由であるのだが、木下先生も大学を卒業して銀行に就職するも、大学時代の塾講師の経験が忘れられず、退職してまで塾の先生になった方だ。
そんな先生が、講師時代に中学生の生徒たちに、メッセージとして語っていた話を思い起こしていただきながら本にしたのが13年前。
『涙の数だけ大きくなれる!』は10万部を超えるベストセラーになった。
そして、このたび同名のタイトルで青春出版社より文庫になった。

文庫涙の数

文庫版は新たに編集されて、元々10編あった話の9編が編集されて10編に、そして、新しい2編が組み込まれていた。
新しい3編として見出しが立っていたのが、「肩書きのない名刺」「あるプロ野球選手の転身」「いい仕事の条件」というストーリーだ。

●肩書きのない名刺
40代でまったく経験のない会社に転職した男が、困っているお客さんのために真摯に対応し続けた結果、見知らぬお客様から、とある依頼を受けることになるのだが、その理由とは・・・。
  
●あるプロ野球選手の転身
ドラフト1位指名でプロ野球選手になった男が、活躍できずに引退。しかし、彼は再び別の姿となって球場に戻ってくる。そして葛藤に苦しみながらも、ある金字塔を打ち立てる・・・。
  
●いい仕事の条件
かつての教え子が就職した会社での悩みを打ち明けた。単純作業の日々。こんな仕事のためにこの会社に入ったわけではない。そう言う彼に、木下先生はある話をする・・・。

文庫編集を担当された野島さんから会社宛てに本が届き、再度読ませていただいた。
1つ1つのストーリーを読むたびに涙腺が緩んだ。しかも、3つの話は当時、木下先生から教えてもらったもので、元の本では割愛したものだったのではないかと思う。完全に忘れていた話が十数年でフラッシュバックした。

文庫版でも感動的なストーリーに仕立ててくれた、ライターの柏耕一氏が掘り起こしてくれたのだと思う。

話が逸れるが、この柏耕一氏。実はこの本のライティングをお願いして以来、まったく連絡が途絶えていた。何度か連絡をしたのだがつながることはなかった。
しかし、ある本の登場によって彼の事情を知ることとなる。

『交通誘導員ヨレヨレ日記~当年73歳、本日も炎天下、朝っぱらから現場に立ちます』

三五館シンシャが発行したベストセラーで、発売はフォレスト出版。
つまり、会社にはこの本があって、私は柏耕一氏の本を読んでいたのだ。
しかし、柏耕一という著者が、あの「涙の数だけ~」でお世話になった○○氏とは気づいていなかった。ペンネームであったから・・・。
しかも、彼が編集プロダクションをたたんで、交通誘導員をしながら糊口をしのいでいたとは、同一人物など疑うべくもない。

『交通誘導員ヨレヨレ日記』出版されてから1年9カ月が過ぎた頃、柏氏から私宛にメールがあり、その事実を知ることになるのだが、彼の出版界への華麗なる(?)復活は、それはそれで1編の感動的なストーリーになるほどである(彼の本もお勧めである)。

そんな彼からの提案もあって文庫化を承諾。文庫化にあたり新たなる3編を書いてくれたのだろう。さらなる気づきに感謝したい。
また、文庫担当の野島さんも刊行当時に本を読んでくれていたらしく、そんな方に文庫を担当していただいてうれしいかぎりである。

どうも謝辞のようになってしまったが、とかく出版界とは狭い。もちろん著者の方がさまざまな出版社から本を出しているのだから、必ずどこかでつながっている。
しかし、この『涙の数だけ大きくなれる!』は柏氏の苦節を乗り越え、2008年刊行から10年以上の時を経て、再び日の目を見ることになった。
不思議な縁を感じざるを得ない。

文庫が届いた際、久しぶりに木下先生に連絡をしてみた。
ご多用ながら、いつも丁寧にご対応してくださる。数年前にお会いしてからは電話でしか声をお聞きすることはないのだが、今度ズームでお会いしようという約束をした。
とにかく、私が敬愛する方であるから、お顔が拝見できることが楽しみだ。
そんな機会をいただいたのも、今回の文庫化のおかげかもしれない。

当時、木下先生のセミナーの受講者が10万人。それが現在では35万人を超えた。
仕事に疲れた時、仕事って何だろうと思った時、人間関係に悩んだ時、元気がない時、モチベーションが下がった時・・・人生の逆境で、この本がきっとあなたを支えてくれるはずだ。

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