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瀬戸内寂聴さんのボーイフレンド

フォレスト出版編集部の寺崎です。

今年もあと3週間ほどで終わりますね。なんだかバタバタと日々追われてアッと言う間でした。

今年お亡くなりになったビッグネームといえば、瀬戸内寂聴さんがいらっしゃいます。

瀬戸内寂聴(せとうち・じゃくちょう)
小説家、僧侶(天台宗権大僧正)。1922年、徳島県生まれ。東京女子大学卒業。21歳で結婚し、一女をもうける。京都の出版社勤務を経て、少女小説などを執筆。57年に「女子大生・曲愛玲」で新潮同人雑誌賞を受賞、本格的に作家生活に入る。73年に得度し「晴美」から「寂聴」に改名、京都・嵯峨野に「曼陀羅山 寂庵」を開く。女流文学賞、谷崎潤一郎賞、野間文芸賞、泉鏡花文学賞など受賞多数。2006年、文化勲章受章。著書に『夏の終り』『美は乱調にあり』『花に問え』『場所』『風景』『いのち』『源氏物語』(現代語訳)など多数。2021年11月9日に逝去、享年99歳。

瀬戸内さんには生前いちどだけお会いしたことがあります。『365日を穏やかに過ごす心の習慣。』『こだわらない とらわれない』『死ぬまで穏やかに過ごす こころの習慣』の著者である故・荒了寛さん(天台宗ハワイ開教総長・大僧正)の対談取材に京都の寂庵まで同行した2013年のことでした。

荒さんと瀬戸内さんはお互いに若いころからの仲とのことで、とても親しげに交流されていたのが思い出されます。瀬戸内さんは「荒さんはわたしのボーイフレンド」といって笑っていました。

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今日はそんな荒了寛さんの著作『死ぬまで穏やかに過ごす こころの習慣』から一部抜粋してお届けします。

物や知識やアイデアを独占しない

 何をやっても器用にできてしまう人のなかには、器用ゆえに人に仕事をまかせられない人が多いように思いますし、これは、その人の「器量」と大いに関係しているような気がします。
「人間の器量とは何か」について、実業界の人たちから、これまで何度か話を聞く機会がありました。その話を総合すると、要するに器量とは、その人がどれだけの人間を使っているかということが、もっとも具体的な目安になると思います。
 人を使うということは、人に仕事をまかせるということです。ところが簡単なようでいて、これがなかなかむずかしいようです。
 では、なぜ人に仕事をまかせられないのか。
 自分でやったほうが早い、他人は信用できないなど、いろいろ理由はあるでしょうが、その根底には、自分の地位や知識を守り、崩さないようにしたいという「保身」の意識があると思います。
 仏教ではこれを慳(けん)といい、「もの惜しみをする。ケチる」ことをさします。
 仏典には「財宝に貪着して人に施す心なく、いよいよ蓄えんとのみ思う心」と書かれており、ある本には「財と法に執着する」ケチ根性は、物ばかりでなく知識や技術などにもおよぶと説明されています。
 企業などに就職し、仕事を早く覚えようとしても、意地悪な先輩社員がいて、なかなか教えてくれずに泣かされたという話をよく耳にします。そうした場合、意地悪な先輩にしてみれば、自分の立場や地位をおびやかされるという不安もあってのことでしょうが、そこにあるものは、やはり慳です。
 しかし慳は、人望あるいは人徳と深くかかわっているので、ケチ根性の強い人のところには、結局、人は寄ってこないということになります。
 日蓮上人が「人に物を施せば我が身の助けとなる」と説いています。これは「他人に物を施せば、その人のためになるばかりでなく、世のなかのためにもなり、ひいては我が身にその功徳がめぐってくる」という意味です。
 日蓮上人はさらに続けて「たとえば、人のために火をともせば、我が前あきらかなるがごとし」ということばを残されています。
 ただし、もしはじめから「我が身の助けとする」ことを期待するような行為は、「施し」にはなりません。それは単なる取引であり、かえってあてがはずれて「我が身のために」ならないことが多くなるはずです。
 仏教で「布施」を強調するのは「慳貪(けんどん)」の心をなくすためです。
 物や金をケチるばかりでなく、知識やポスト、アイデアなどを自分だけのものにして、仲間や後輩に教えたくない、ゆずりたくないなどというのは、すべて慳です。また、貪はむさぼることで、いくらあっても足りないと思うことです。
「布施」は、まずこの慳貪の心を捨てることからはじまりますが、「心によい習慣」をつけるために非常にたいせつなことです。

問題は先送りせずに「一度にやる」

 私たちはいろいろな目標を持って、その順序を考えて取り組むことを日常茶飯に行っています。しかし、「これをやってから、あれをやる」と思っても、なかなか追いつかない。これは多くの人が経験していることでしょう。
 個人であれば、「これを学んだら、あれを学ぼう」と思っている学生。「この仕事のめどがついたら、楽しみにしているあれをやってみたい」と思っているサラリーマン。「これを習得したら、あれも身につけたい」と思っているカルチャー教室に通う主婦。
 組織であれば、何かのプロジェクトを立ち上げ、その戦略がうまく運ぶように、いくつものステージを効果的にクリアしていく。ひとつの事業計画を達成したあとの新規事業計画などなど。
 このように個人であれ組織であれ、次から次に物ごとを運ばなければならないのは、人間の「業」によるものなのでしょうか。その欲望は果てしないように思います。
まあ、これも人の煩悩がそうさせるわけで、苦しみ悩みつつも、私たちはつねに前に進もうとしています。
 けれども、なかなか前進できない現実もあって、目標とか計画が中断されたり、先送りになったり、場合によってはあきらめなければならないときがあるので、つらい思いをします。
 こうした状況におちいった場合、では、どうしたらよいのかといえば、やや乱暴に思えるかもしれませんが、「一度にやる」ように考えることです。なぜなら、こうしたときの最大の課題は「時間」にあるわけですから、時間を有効に使うこと以外に解決の糸口も方法もないからです。
 忙しい人が、よく「もうひとり自分がいれば」とか「時間がもっとあれば」などといったりしていますが、自分のクローンができるはずもなく、一日の時間は変えようもありません。したがって、限られた時間で「一度に結果を出す」ことは無理ですから、一度でできる取り組み方を変えることです。
 「これをやってから、あれをやる」のではなく、すこしずつでも、これもあれも同時に「一度にやる」ようにすれば、目標や計画にむかって確実に進むことできます。何がムダでどうすれば効率的になるかなどもみえてくるでしょう。
 「これをやってからでないと、あれに手をつけられない」というのは、はじめから考え方も行動も、みずからせまくしているのです。だから、やりたいことに追いつけなくなり、どんどん先送りすることがふえ、あせったり、イライラしたりもします。
 また仕事の場合、同時に一度にやる能力がないというのであれば、何もかもひとりで背負わずに、人の力を借りることです。
 勉強や習いごと、あるいは趣味の場合などは、個人プレーですから、やりたいことの全部をすこしずつやっていくしかないのですが、仕事の場合は、なかなか「待った」は許されません。能力不足、時間不足は人の力でおぎなう以外に方法はなく、つまりは人材力にかかっているわけです。
 たとえば、すぐれた企業家や政治家のそばには、必ず右腕と呼ばれる人がいます。
 そして、信頼できるそうした人材がひとり、ふたりとふえていけば、企業の力はより強固になっていきます。
 実は仏さまの世界にもこのことはぴたりと当てはまります。
 仏界の東西南北の入り口を守る守護神の持国天、広目天、増長天、多聞天(毘沙門天)の四天王が、次のような役割を持って天界の仏さまたちを手伝っています。

◎持国天 国を治め、民の安泰をつかさどり、東方を守る。
◎広目天 目を大きく見開いて世情をくまなくみながら西方を守る。
◎増長天 増長、増大をつかさどり、南方を守る。
◎多聞天(毘沙門天) 世間の声を聞きわけ、財宝や富をつかさどり、北方を守る。

 この四天王の名前や役割を考えると、実に近代的な感じがします。
 まず、社長がいて、専務や常務がいて、その下に総務部長、営業部長、製造部長がいるというように、それぞれに責任者がいる企業形態とあまり変わりません。
 とくに、広目天、多聞天などの情報収集分野の場合、のろのろやっていたのでは、いまのような時代にたちまちおくれをとってしまいますし、どの部門であれ、その一角がすこしでもくずれれば企業全体の問題になります。
 つまり、人材力がいかに重要かということになりますが、営業マンも工員も負っている責任は同じです。
 製造中にネジをひとつ間違えたり、あるいは経理が数字をひとつ間違えたりして、会社をあやうくした例はいくらでもあるのですから、そうした事態を招かないために、相互に能力不足、時間不足をおぎなうようにすることがたいせつです。
 そして、その重要なキーワードは、つねに問題を先送りにせずに「一度にやる」ことを考えることだろうと思います。

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最後に『365日を穏やかに過ごす心の習慣。』に寄せていただいた瀬戸内寂聴さんの推薦文をご紹介して記事を終えたいと思います。

荒了寛さんは、私の尊敬する天台宗の高僧です。
ハワイに天台宗のお寺を建て、奥様と二人で大変な苦労をして見事なお寺にしたばかりか、今やハワイの日本文化の中心に育てあげました。
この本に説かれた法話は、わかり易く、意味は深く、どこから読んでも心にしみこみ忘れられません。悲しい時、苦しい時、そして嬉しい時、いつでもあなたの心によりそってくれることでしょう。



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