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#365【出版の裏側】編集者がこだわる印刷・加工

このnoteは2022年4月5日配信のVoicyの音源「フォレスト出版チャンネル|知恵の木を植えるラジオ」の内容をもとに作成したものです。

土屋:皆さん、こんにちは。フォレスト出版チャンネルのパーソナリティーの土屋芳輝です。本日は編集部の森上さんと寺崎さんとお伝えします。どうぞよろしくお願いします。

森上・寺崎:よろしくお願いします。

土屋:本日のテーマなんですけれども、【出版の裏側】シリーズの「編集者がこだわる印刷・加工」ということで、これまでも“文字”とか“紙”とかやってきましたが、今回は“印刷”ということで、印刷ってやっぱりこだわっているんですかね?

意外と知られていない印刷にまつわる歴史

寺崎:ちょっとタイトルが全体とずれるかもしれないですけど、編集者なりのどういうことを気にしているかみたいな話をしたらいいかなと思って、前回は3月8日の放送で“書体”の話をしたんですけど、今日はその先の“印刷と加工”ということで、これ実際は印刷所の営業の方と現場オペレーターの方の領域なので、編集者ごときが偉そうに語るなみたいな感じなんですけど・・・。今回、印刷のことを色々と調べていて、「え!そうなんだ!」って、びっくりした話があるんですよ。これを土屋さんへのクイズにします。YESかNOで答えてください。

土屋:はい。

寺崎:「Q1、現存する最古の印刷物は日本にある?」

土屋:最古の印刷・・・。どうなんですかね?最古と言われると日本じゃない気がするので、NOで。

寺崎:ブブ―。

土屋:違うんですか!?

森上:え!日本にあるの!?

寺崎:日本にあるの!

森上:えー!知らなかった。

寺崎:どこにあるのかと言うと、奈良の法隆寺に保存されている「百万塔陀羅尼」っていうのが、世界最古の印刷物なんだって。770年に完成したものらしいんだけど、これはどうやって印刷したのか、いまだに謎なんだって。

森上:だって、印刷の技術が出る前って、それこそ版画だったわけじゃん。浮世絵だって同じで、掘って刷って手でインクをしてっていう。そういうことだったのかな?

寺崎:いや、古代の宇宙人がやったんじゃないかな。

森上:なるほど。ちょっと違う方向にいっているけども。

寺崎:(笑)。まあ、それが1つですね。次、こういう言い方をするともう答えがわかっちゃうと思うけど、YESかNOで答えてください。「Q2、世界で初めて印刷をしたのはグーテンベルクだ。」

土屋:グーテンベルク・・・。

寺崎:活版印刷を発明した人ですね。

土屋:これは僕の中はNOと答えたくなるんですが・・・、YES。

寺崎:間違ってます。

森上:わざと間違えたな、これは(笑)。

寺崎:グーテンベルクって思うじゃん。実は8世紀の中国では既に木版印刷が使われていたんだって。

森上:木版印刷っていうことだから、さっきもチラッと言ったけど、木版画とか、それに近いんじゃないの。木の版でしょ。グーテンベルクは金属の版でしょ。

寺崎:多分、回して刷るんだよね。木版は木で出来ていたんじゃない?木で回していたんじゃない?わかんないけど(笑)。

森上:同じものを刷っている?グーテンベルクはいわゆる聖書だもんね。

寺崎:そうですね。宗教が民主化されたっていうね。

森上:あれは印刷技術のおかげっていうか。

本文の「刷り色」をどうするか問題

寺崎:まあ、そんなすごい印刷なわけですけど、我々は「本文の刷り色をどうする?」っていう問題が必ずあるじゃないですか。だいたい黒一色。墨1cって言うんですけど。2色だと2cとか、4色だと4cとかなんですけど。まあ、白地に黒い文字っていうのが、一番読みやすいよね?

森上:一番読みやすいっていうか、一番目に入ってきますよね。

寺崎:だから、墨一色のパターンが圧倒的に多いでしょ?

森上:まあ、そうですね。ただ自分の本でも1回試したんだけど、ちょっと柔らかいテイストの女性が読む、ちょっと実用書。一色なんだけど、あえて墨を使わないで、茶色っぽい・・・、それを使ったことはあるね。

寺崎:あるある。

森上:そうすると、目に優しいというか、柔らかいというか。そうすると、紙の色もあんまりクリーム色が濃いものだと、茶色が目立たないから、ちょっと白っぽいのを使う、そういう調整は必要だけどね。

寺崎:あと、スピリチュアルのジャンルなんかだと、ガチガチのスピリチュアルじゃなくて、ライトなスピリチュアルの本って、大体2色なんだよね。ビジネス書でも軽いビジネス書の場合って最近多いじゃないですか、2色って。だから、スピリチュアルの時は大体2色刷りで。2色刷りっていうのは、墨プラス赤とかオレンジとか緑とかなんですけど、特色を使う。今月発売された僕が担当した本で、『働くあなたの快眠地図』っていう本があるんですけど、これは変形型で本文4色っていうね、めちゃくちゃお金がかかる造りなんですよ。

森上:4色は悪いことじゃないけどね(笑)。いわゆる4色使う時ってカラー写真を載せたいとか、そういう時に使うよね。

寺崎:そういう時はしょうがない。そういう時は必ず4色になる。

森上:わざわざ4色って言うってことは、写真を使ったわけじゃないんだね?

寺崎:使ってなくて、イラストとテキストメインなんですけど。これは色々と経緯があって、著者さんの強いご要望があったりしてですね。「よっしゃー!思い切って、著者の想いに乗っかろう!」みたいな気持ちで。ただコストカット意識が高い編集者だと「いやいや、ありえないでしょ」みたいなことかもしれない。

「特色」は職人技の世界

森上:4色っていわゆるフルカラーって言われるものだよね。CMYK。シアン、マゼンタ、イエロー、Kって何だっけ?黒?

寺崎:俺、これ今回はじめて知ったんだけど、キー・プレートの頭文字のKなんだって。

森上:へー。

寺崎:「ブラックだからBだろ」と思うじゃん。「CMYBじゃん」って、いつも思っていたんだけど、キー・プレートのKだそうです。これとは別に、特色インキっていうのがあるよね。有名なのが大日本印刷DIC(ディック)。あとPANTONE(パントーン)っていうのがあって、蛍光ピンクとかそういうのは絶対にCMYKでは表現できないから、特色を使うわけなんだけど。俺、この業界に入った当時、完全に勘違いしていたんだけど、DICナンバーってあるじゃん。あの通りのインキが存在するんだと思っていた。要するにDIC5番のインキっていうものが存在しているんだとばかり思っていたんだけど。

森上:はいはいはいはい。

寺崎:そうじゃなくて、職人さんが色んなインキを調合して、そのインキの色を表現しているっていう。

森上:インクの職人さんがいらっしゃる。だから、DICの番号に合わせているって言っているけど、印刷所の職人さんによって変わるってことだよね?

寺崎:そうなんですよね。でも、今はどうなんだろうね。

森上:今、印刷所見ているとボタンでピッピッピッってやっているよね。

寺崎:今はオートメーション化されているんだろうね。

森上:直近で見たところだと。それでも紙によって、同じ色でもインクの吸い具合とか、印刷機の圧とかで全然出方が違うというか。

最後の「加工」の工程をどうするか

寺崎:ちなみに印刷が終わると、今度は加工があるじゃないですか。加工っていうのも、パターンとしてはどういうのが多いですか?

森上:あれ、基本的にはPPを貼るか、貼らないかっていうのと、もし紙の素材を活かすんだったらニス。何であれをやるかって言うと、汚れが付かないようにらしいね。

寺崎:ニスをひくと?そうなんだ。

森上:一回、うちの会社で過去に大物著者さんが、「ニスとかは絶対にひかない」って、めちゃくちゃこだわっていて、見本が上がってきたら、「うん。これはやっぱりPP貼ろう」って。

寺崎:(笑)。

森上:「まじかー」っていう時がありましたけど。「だから、言ったじゃん」っていう。それで、見本が遅れたっていう。あれはやっぱり汚れが付かないっていうのも1つの効果ですよね。

寺崎:最近は圧倒的にグロスニスパターンが多いよね。

森上:そうかね?

寺崎:そうでもない?

森上:デザイナーさんによるんじゃない?本当に安く作ろうと思ったら、大体PP貼りのグロスPPっていう、ビニールみたいなのを貼って。

寺崎:PPってポリプロピレンの略で、要するに紙の上にそのポリプロピレンフィルムを貼るんですよ。だから、ピッカピカのやるあるじゃないですか。あれは紙質を問わないので、一番安いコート紙でPPを貼るっていうのが一番安上がりですよね。その次にお金がかかるのが、マットPP。

森上:マットPPだね。工程でPP貼りって1日取っちゃうから。

寺崎:そうなの?

森上:そうなのよ。ニス塗りってあるじゃない。ニス塗りって、ニスの版っていうのを作るから、例えば4色+ニスだと、5色で5版っていうことなの。っていうことはPPを貼る時間が、1日短縮できるのよ。ニス引きの場合だと。

豪華な仕上げには欠かせない加工のあれこれ

寺崎:なるほど、なるほど。あと、俺はやったことないんだけど、ニス引きって結局版を作るから、普通は全面に敷くじゃん。そうじゃなくて、タイトル文字とかだけニス引きってあるよね。

森上:ある。あれだって、完全にそのための版を作っているから、お金かかると思う。それこそ、バーコ印刷っていう、盛り上がった印刷って、あれは全部そのための版を作って、盛り上げる。

寺崎:UV厚盛りとか?

森上:そうそう。UVの厚盛りもそうだよね。箔押しとかも。あれも全部あのための版を作らなきゃいけないから。あと、俺は作ったことはないけど、前の会社の同僚が1回作ってびっくりしたのが、『のぞき学原論』っていう、三浦俊彦さんの本。

寺崎:「のぞき学」っていう時点で想像ついた。

森上:想像ついたでしょ?カバーに穴を開けたんだよね。で、人がのぞきたくなる。実はそこには仕掛けがあるっていう。それは金かかってますよね。

寺崎:1日以上かかるでしょ。

森上:余裕でかかる。

寺崎:きっと手作業だよね?

森上:どうなんだろう。わからない。とにかくお金と時間がかかる(笑)。すごく贅沢な本で。で、僕たちって他の出版社からフォレストに入ってきたじゃない。その時に編集部にいた人たちが箔押しをバンバン使って作っていてびっくりしたんですよ。なんでこの会社はこんな贅沢なことをやっているんだって。平気で箔押しを当たり前にやっていたので。

寺崎:でも、あの頃は初版部数も多かったもんね。

森上:まあ、そうだよね。だから、できたんでしょうけど、びっくりしたんですよ。結構贅沢しているなって思って。

寺崎:うちの前の出版社では、箔押しなんてとんでもない・・・。

森上:(笑)。

寺崎:年に一回、年賀状のムックを作るんですよ。毎年担当していて、それだけは結構な部数を刷るので、5万部とか。

森上:そしたら、多少は贅沢できるね。

寺崎:UV厚盛りとか箔押しとか、随分やった。

森上:やっぱりそれが勝負になってくるもんね、今度は。他社も豪華なやつとかがあったりするから。

寺崎:それ以外の普通の本は無理だったね。

森上:そうだよね。2011年くらいのフォレストはすごかったよ。びっくりしたもん。

寺崎:でも、最近すごいの作ったんだよ。苫米地博士の。

森上:1冊5万円のやつでしょ?

寺崎:『マインド・プロファイリング豪華書籍版』。豪華書籍版っていうからには、装丁は豪華にしなきゃだめでしょっていうことで、まず金の箔押しでしょ、あと背景に細かい紋様とか古いラテン文字とかが入っているんだけど、“空押し”って言って、要は箔がつかないで、押されている状態。聖書とかにあるやつなんですけど、箔押し+空押しっていう。で、ロンニックっていう、合成の革の表紙に押すっていうのが、かなり贅沢でしたね。

森上:1冊5万円だから出来るんですよね。逆に1冊5万円っていったら、それくらいしないとだめだもんね。

寺崎:そうだと思う。自分の家のリビングに飾っています。

森上:インテリアとしてもいけそうな感じだもんね。だから、印刷一つとっても、色々あるなと思いますね。物で見る限り、それによって品格とかってすぐに分かるよね。品格というか、これは絶対高そうだなって、どんな人でもやっぱりわかるよね。

寺崎:紙はなるべく質感のいい紙を使いたいよね。愛してもらうために。

森上:そうだね。やっぱり所有欲を満たしてあげるっていうことが大事ですよね。これからの時代は、余計そうなってくるんじゃないかなと思いますけどね。

「所有欲」を満足させるための装丁パッケージ

寺崎:うん。僕も引っ越した時にCDと本を整理したんですよ。結局、CDも本も残したのは、CDはジャケットがいいやつで、本も造本がよさげなやつっていう。内容的にもう捨ててもいいかなっていうものでも、やっぱり残しておいた。

森上:やっぱりそこは素材もそうだし、資材もそうだし、印刷のこだわりだったりとか。

寺崎:申し訳ないけど、グロスPPの本は大体捨てたわ(笑)。

森上:そうだよね。だから、紙の本の在り方っていうか。以前もVoicyで話したけど、日本の本は安いもんね、欧米に比べて。

寺崎:今は少しずつ全体の水準が高くなっている傾向はありますけどね。

森上:とは言っても、100円上げるレベルだよ。向こうなんてもっとですもん。2000円、3000円、当たり前だもんね。

寺崎:そうだね。

森上:そういう意味ではやっぱり色々と考えるところはあるよね。物としての所有欲を満たすための印刷とか。

土屋:一個、聞いてみたいんですけど、いいですか?白いカバーの本って、印刷してあるんですか?

寺崎:あれは紙の色ですね。

森上:基本、紙の色ですね。

土屋:紙に色がついているっていうパターンもあるんですか?

寺崎:そのパターンもあります。

森上:あえて色が付いたものに印刷する場合とか。そんなところでしょうか。

土屋:はい。ということでお時間がきてしまったので、今日はここまでにしたいと思います。森上さん、寺崎さん、ありがとうございました。

森上・寺崎:ありがとうございました。

(書き起こし:フォレスト出版本部・冨田弘子)


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