第8回#「もし、あなたがビジネス書を書くとしたら・・・」

こんにちは
出版局の稲川です。

「もし、あなたがビジネス書を書くとしたら・・・」
第8回目をお届けします。

今回は“ビジネス書の文章術”をひも解いていく前に、
実際に企画がGOになる過程から、
本が出版されるまで
について述べていきます。

もし、あなたがビジネス書を書くとしたら・・・

おそらくこんな流れになると思います。


◆まずは本が出版されるまでの全体像を知ろう

第7回までで、あなたが企画書を作る際に、
編集者の視点から、「こんなことが書いてほしい」ということがおわかりいただけたかと思います。

そんな企画書に目を留めた編集者が、
「この企画なら出版できるのではないか」という段階から、
実際に本が出版されるまでには、さまざまな行程があります。

この行程を知ると、本を書くという実感が湧くかもしれませんね。

●本が出版されるまでのおおまかな流れ
1.企画の検討、打合せ
2.企画会議(企画内容によっては出し戻しもあり)
3.原稿執筆依頼
4.脱稿
5.加筆・訂正・削除
6.初校(著者・校正者校正)
7.再校(著者・校正者校正)
8.タイトル決定(同時進行)
9.カバーラフ(著者確認)→カバー決定
10.販促打合せ(およそ同時進行)
11.本の出版(全国の書店、オンライン書店へ)

なんとなくわかるようでわからない、という方もいるかと思います。
とくに、この流れの時間軸(スケジュール)、つまり、1の企画の検討、打合せから11の本の出版まで、いったいどれくらいの時間を要するのかということです。

正直に言うと、早い人でも半年くらいはかかります。
長い人では1年以上、3年かかったという経験も私はあります。

なぜならば、上記の流れの中で“3つのターム”があるからです。

・企画の打合せ~企画通過まで(第1ターム)
・原稿執筆~脱稿まで(第2ターム)
・脱稿~出版まで(第3ターム)

第1タームは、編集者が著者とお会いして、さまざまなお話をうかがいながら、構成をブラッシュアップしていきます。
そして、社内の企画会議などを通じてプレゼンし、企画が通る。
もちろん、会議でもう少しこういった要素がほしいなどの要望があれば、
編集者は構成を練り直し、企画の再提出ということもあります。

社内の企画会議や経営者からのGOサインが出るまで、
1カ月くらいかかることもあれば、さらにかかる場合もあります(出版社によって、ここは違ってきますが)。

そして、企画が通って執筆をお願いし・・・第2タームへと入っていきます。
ここは著者の領域なので、執筆がひと通り書き終える“脱稿”まで、
どれくらいの時間を要するかは、著者しだい。

とはいえ、編集者も自身(会社)の出版スケジュールに乗せますから、
締め切りを設け、そこまでに叱咤激励、ときにはアドバイスをしながら脱稿までこぎつけるわけです。

私の経験の中では、原稿を2週間で書き上げたという方もいましたが、だいたい3カ月から6カ月くらいを執筆の時間に当ててもらいます。

そこからは第3ターム、編集作業です。
ここは印刷(校了)まで持っていくまでに2~3カ月くらいかかります。

大きく分けると、この3つのタームで本作りが行われます。

・企画の打合せ~企画GOまで→1カ月~2カ月
・原稿執筆~脱稿まで→3カ月~6カ月
・脱稿~出版まで→約2カ月

ざっと考えると、早くても半年、普通に考えても1年近くかかります。
つまり、言い換えれば、著者と編集者はそれだけ長い期間お付き合いすることになり、そこにさまざまな葛藤を交えながら、いい作品作りに共に取り組むことになるのです。

それでは以下、3つのタームについて解説していきます。


◆企画の打合せは実際にどう行われるのか(第1ターム)

企画書が送られ、編集者が一度お会いしてみたいと打合せの席を設けます。
これはあくまで私の場合ですが、やはり”第一印象”を大切にしています。
もしかしたら一緒に仕事をする方かもしれませんから、
お聞きしたいことを事前に用意し、なるべく本のテーマに沿った市場の情報収集をしておきます。

そこで実際にお会いし、その方がどれくらいテーマに精通しているかを判断させてもらっています。
というのも、編集者の知識は広く浅く。そのテーマに関しては、著者のほうが断然詳しいからです。
むろん、そこが面白いと感じたからこそ直接お会いするのですが、さらに深掘りしてお聞きすると、企画書では見えなかった部分が出てくることがよくあります。

そして、私はお話をうかがいながら、こんなことを感じています。

「(個性的に)かなり尖っているな」
「(いい意味で)オタクだな」
「話がうまいな」
「さすがにテーマに関して詳しいな」
「とても丁寧だな」

など、どれもいい意味ですが、著者の個性を探っています。

そんなお話から、最終的に著者が構成案をブラッシュアップすることもありますし、編集者側から修正する場合もあります。

本の内容に関しては、そうしたやり取りを通して、
編集者が会社に提案できる企画書へと仕上げていくのです。


◆原稿執筆から脱稿まで、編集者は何をするのか(第2ターム)

さて、構成も企画も決まり、ここから著者の原稿の執筆が始まるわけですが、ここでは文章の書き方ではなく、この間、編集者とどんなやり取りがあるのかを見ていきましょう。

なんと言っても、編集者は“脱稿まで待つ”というスタンスです。
原稿が何もなければ、助言もお願いもできず、締め切りの期日までは待つというのが普通です。

しかし、著者も不安になったり、途中でどう書けばいいかわからなくなる時もあります。
そんな時は、書き上げたところまでの原稿を見せていただくこともありますし、たとえば、第1章分までを提出していただくこともあります。

ある著者は、章ごとや項目ごとに原稿を送ってきました。その際は、方向性が間違っていないことを互いに確認したり、書き口を変えていただりしたこともありました。

どんな方法であれ、編集者は著者に書きやすいような方法で執筆を進めてもらいます。

また、途中で筆が止まってしまって書けない、どこから書いていいかわからないというような場合は、再度お会いして、叱咤激励とともにどんな感じで書いていけばいいのかなどをアドバイスしています。

とくにビジネス書の著者の多くは、本業をしながらの執筆になりますから、執筆時間を工面するのに苦労します。
よく、何日か缶詰になる時間を取って書いたほうがいいのかというご質問を受けますが、ここらへんは、私は手厳しく言ったりします。

「作家ではないのだから、ホテルを取って執筆するとかはやめてください。それよりも、毎日でもいいので書く時間を決めて書くとか、スキマ時間に書くとか、少しずつでもいいので1日の中で書く時間を探してください」

まさに著者との葛藤の始まりです。

でも私は、ビジネス書の著者は本業があくまでメインと思っています。本業が傾いてしまえば、それこそ本を書く意味がなくなってしまいますから、たまに手厳しいことも言ったりします。

こんな本音をぶつけながらも、温かい目で見守っている。そんなスタイルです。


◆脱稿から編集作業、そして本が出版されるまで(第3ターム)

ついに原稿を書き終えた!

この瞬間は、著者にとっても編集者にとってもうれしい瞬間であります。
編集者にとってうれしい瞬間なのは、これで出版スケジュールに乗せられるということもありますが、何より原稿を一番に目にする「第一の読者」であるからです。

原稿を読む時、私はこの「第一の読者」の目線で原稿を読んでいます。

そして、読者の立場で読んでみて、
「もう少しここを膨らませてほしい(加筆)
「ここはわかりづらいので別の例で示してほしい、書き換えてほしい(訂正)
「流れの中で、ここは蛇足ではないか、前にも同じことを言っている(削除)
など、脱稿した原稿をさらにブラッシュアップすべく、著者に修正を加えていただきます。

同時に、この部分はもっと先に持ってきたほうがいいのではないか、事例を先に出したほうがいいのではないか、ここは効果的に図版化してはどうかなど、いわゆる”改稿作業”と言われる作業に入っていきます。

こうしたやり取りを何度かしたのち、実際に書体にした「初校ゲラ」にしていきます。

初校ゲラが出れば、そこからは著者がさらに修正したい場合はゲラに赤字を入れていただく、いわゆる著者校正をします。
この期間は、出版されるスケジュールから逆算して決めますが、私はおおむね1週間から2週間くらいでお願いしています。

同時に、誤字・脱字がないか、文字が統一されているか(同じ言葉でも漢字やひらがなが混在していないか)、文章の整合性がとれているか(わかりづらい表現がないかも含め)など、いわゆる校正のプロ、校正者にゲラをチェックしてもらいます。

ぞの際に、差別用語はないか、引用が合っているか、参考文献に間違いがないか、著作権等で許諾が必要なものはないかなど(これらは編集者もチェックします)、ミスのないよう進めていきます。

こうしたものをすべてクリアしたうえで、再校を出し、ここで著者には大きな視点で間違いがないかなどを確認してもらいます。

それでも編集者、著者ともに不安なら、三校、四校と納得のいくまで繰り返されます。もちろん出版スケジュールを守るということもありますが、私の場合は脱稿したあとの段階で、あれこれ修正していただくので、再校もしくは印刷所に最終ゲラを入れる(これを入稿と言います)直前のゲラで、著者のギリギリ最終チェックとしております。

ここは編集者によってスタイルが違うと思いますが、おおむねこの進行だと思ってもらっていいでしょう。

以上、何度もやり取りを繰り返し、
ついに本の印刷ということになるのです。

1つ、忘れていた大事なことがあります。
それはタイトルとカバーです。
こちらについては、第1タームから第3タームの中で同時進行で行っていく作業になります。
タイトルやカバーについては、とても重要なことなので、ここは別の機会にお話させていただきます。

本日のまとめ
・企画書から本の出版までのおおまかな流れを知っておく
・本の出版が決まると、著者と編集者の長い付き合いが始まる
・本が出版されるまでの期間は、3つのタームの時間によって決まる
・著者には、構成の打合せ、原稿執筆、原稿の修正、ゲラのチェックなどの行程がある
・編集者は脱稿した原稿を「第一の読者」の目線で読む
・ゲラのチェックは、初校・再校(もしくは、それ以上)を経てブラッシュアップされる





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?