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虫の世界も「男はつらいよ」(?)

フォレスト出版編集部の寺崎です。

ふと、このタイトルを書いていて思ったのですが、渥美清主演の映画『男はつらいよ』シリーズのタイトルって、ジェンダーフリーの今の時代どうなんでしょうか。

天海祐希さんあたりを主役に据えて『女もつらいよ』という映画つくったらヒットするかも。しないか。

ところで先週、藤田紘一郎さんの生前最後のエッセイ『人の研究を笑うな』をご紹介しました。

藤田先生の本は2冊担当しましたが、じつは2冊ともリメイクでした。

1冊はこちらの新書。

もう1冊がコチラ。こっちも新書です。

気づいたら、100件以上ものレビューがついていました。ありがたや。

『残念な「オス」という生き物』は2015年6月に三五館さんから刊行された『女はバカ、男はもっとバカ』を改題・加筆および再編集したものです。

あらゆるアプローチを通して、「生物の多様性」を認めるという主張をされていた藤田先生の真骨頂といえる内容で、とにかくいろいろと考えさせられる内容だと思います。

今日はこの『残念な「オス」という生き物』から面白い部分をかいつまんでご紹介したいと思います。

完璧を目指すよりまず終わらせろ

 現在の私たちになるホモ・サピエンスが誕生したのは、たった20万年前のことです。地球上に生物が初めて出現した38億年前に比べて20万年というのは、まばたきする一瞬にすぎません。私たちの本来の姿は、動物とあまり相違ないのです。

 Done is better than perfect.
「完璧を目指すよりまず終わらせろ」

 この言葉はソーシャルネットワークサービス(SNS)を提供するフェイスブック社内の壁に貼られているモットーだそうです。完璧だけを目指していたらフラストレーションが溜まり、失敗を恐れて何もできなくなり、成長もないということです。
 動物の世界を見ていると、どれも完璧など目指していません。かなりいいかげんで、目的がある程度達成されると、途中でその仕事をやめてしまいます。
 たとえば多くの野生動物や昆虫は、同じ餌場(えさばでいつまでも食べ続けることはしません。同じ場所で食べ続けていると、餌場にいる餌はだんだん少なくなり、しまいには枯渇してしまうからです。鳥の研究者であるオックスフォード大学のジョン・クレブス博士は、このことを「最適採餌(さいじ)戦略」と定義して論じています。
 例を挙げると、テントウムシは植物についたアブラムシを食べていますが、全部食い尽くすことはしません。適当に食い散らかして、次の植物に移っていきます。
 食べ残されたアブラムシは、触覚で自分の仲間が少ないことを察知します。アブラムシのメスは春から夏にかけて単為生殖をするため、短期間で一気にたくさんの子どもを産み、あっという間に元の個体数へと戻すことができるのです。
 このように、完璧を目指すことは自らの生存をも脅かすということを、動物や昆虫はすでに知っているのです。彼らの生存するための知恵の一つといっていいでしょう。
 私たち人間も、完璧とは程遠い生き物です。にもかかわらず、いつも完璧を目指そうとしています。男女の関係にも同じことがいえて、不完全な生き物同士が互いに完璧を目指そうとするから行き違いや歪みが生じてくるのです。
 女性はいつも「男ってバカね」と不満を口にします。
 男性も「女はバカだ」と思っています。
 この男女の違いが、現代を生きる私たちのさまざまな悩みの原因になっています。
 女性が言っていることが本当か、男性の思っていることが本当なのか……。
 ここからはその真実について、さまざまな生物を例にとりながら検証していくことにしましょう。

「騙したもの勝ち」のオスとメスの熾烈な世界

 いくら残念と思われようが、男には捨てることのできないプライドがあります。
 プライドを堅持したままモテればいいのですが、そうもいかないのが現実です。
 恋敵に勝つために、時にはプライドをも捨てなければなりません。
 ハチの一種である寄生コバチでは、メスが出すフェロモンをオスが嗅ぎつけるやいなや、たちまちオスが集まってきて求愛を始めます。1匹のメスに対して、多い時で15匹ものオスがプロポーズのために集まることもあるといいます。
 求愛するとき、まずオスは第一作戦に出ます。この作戦は、他にライバルのオスがいないときに実行される戦術です。
 オスはメスのいる葉の端に降り立ち、翅を羽ばたいて低音の魅力で口説きます。そしてそのままお腹を上に押し立てて足場を振動させ、メスヘのさらに意味深なメッセージを送ります。
 その振動に心地よくなったメスは、翅をたたんで頭を垂れます。こうなるとメスからの嬉しいOKサインであり、オスはメスの上に乗ってめでたく交尾となるわけです。
 しかし、ライバルが多くいる場合は勝利の確率が下がります。
 そこで第二作戦の実行です。
 オスがメスに求愛している最中、他のオスがやってきたのを確認すると、自分の求愛をやめて、他のオスが求愛するのを息を殺しつつじっと見つめます。
 恋敵が足場を振動しはじめ、メスがそれにうっとりしてOKサインを出した途端、その場を静かに見つめていたオスは「今だ!」とばかりに突進してメスに飛び乗り、交尾をしてしまいます。
 メスを奪われた恋敵は啞然でしょうが、普通に求愛をして交尾に至るまでの時間が平均13秒であるのに対し、この便乗作戦だと8秒しかかからないとのことです。卑怯ではあるものの、非常に合理的な戦法といえます。
 そしてもう一つ、もっとすごい作戦があります。第三作戦はなんと女装です。
 オスがプロポーズにめでたく成功して交尾にこぎつけても、メスのフェロモンを嗅ぎつけて次から次へと他のオスが近づいてきます。
 近づいてくる恋敵にメスを奪われたくないオスは、ライバルに対してメスを装います。メスが交尾のOKサインを出すのと同じように、翅をたたんで頭を垂れる格好をするのです。このハチのオスとメスは外観にほとんど違いがないので、不幸にも恋敵はその姿を見てメスだと勘違いして、交尾をしようと乗り上がってきます。
 しかし、もちろんオス同士なので交尾はできないため、恋敵は無駄な時間を過ごしてしまいます。そうやってオスとオスとでくっついている姿を見て、「構っていられないわ」と言うのかどうかはわかりませんが、メスはさっさと別の場所へと立ち去ってしまうのです。
 卑怯だ、姑息だと言われようとも、寄生コバチのオスはきっと、騙されるほうが悪いのだと涼しい顔なのでしょう。
 それにしても必死でオス同士が不毛な交尾を演じている間に、メスは我関せずで立ち去ってしまう……ここではメスが一枚上手なのかもしれません。

メスのわがままに翻弄される生物界のオスたち

 日本には季節ごとにいろんな行事があります。正月、節分、七夕、お盆、クリスマスなどのように昔から馴染みの深いものに加え、ハロウィンやバレンタインといった新しいものまで、毎月のように祝い行事があるのは面白いものです。
 現代では、クリスマスと誕生日には贈り物をすることが常識のようで、街にある多くの店が、ギフト用商品の品揃えとラッピングサービスに力を入れているのがわかります。クリスマスが近くなり、デパートのアクセサリー売り場で、男性が一人で一生懸命にプレゼントを選んでいるのを見ると、どんなふうに渡すのかをつい想像してしまいます。
 さて、贈り物をするのは私たち人間だけではありません。
 なんと虫も彼女にプレゼントをするのです。
 ツマグロガガンボモドキという昆虫は、見た目は大きい蚊のようですが、シリアゲムシ目という分類に属していて蚊とは異なる虫です。肉食性であり、餌はアブラムシやハエなどの昆虫を捕らえて食べているため、蚊のように血を吸うことはありません。
 ツマグロガガンボモドキが餌を捕らえるときは、後ろ肢でしっかりと押さえながら、獲物に鋭い口吻(こうふん)を突き剌して殺します。同時に獲物の体内に特殊な酵素を注入して体内を液状化し、それを吸い取って餌としています。
 面白いことに、オスの狩り行動には変わった特徴があります。苦労してせっかく捕まえた餌でも、ある大きさ以下の小さい獲物は捨ててしまうのです。
 オスは捕らえた獲物でも3分の1くらいは、ちょっと試食しただけですぐに捨ててしまうそうです。メスはその捨てた獲物を捨って食べていることがあるため、味がまずいとか、食べにくいから捨てている、というわけではありません。
 オスが獲物の大きさにこだわって小さい獲物を捨ててしまうのは、メスヘのプレゼントを選りすぐっているからです。オスはメスヘのプレゼントのために、なるべく美味しくて、大きく見栄えのする獲物を吟味しているのです。
 ツマグロガガンボモドキのオスは、納得する大きさのプレゼントが用意できると、葉や小枝に前肢でぶら下がって、腹部の先端近くにある袋状の腺からフェロモンを放出します。メスはそのフェロモンに誘われて近くまでやってきて、小枝にぶら下がっているオスと向き合う形で、同じようにぶら下がります。
 オスはここがチャンスとばかりに、後ろ肢で掴んでいたプレゼントの獲物をメスに渡します。メスが獲物を掴んで口吻を突き剌して食べ始めると、オスは腹部後端を折り曲げてメスと交尾しようとします。交尾の間も、メスは受け取った獲物にしっかり口吻を突き刺して餌を吸い続けます。
 しかし、いつもすんなりと交尾に持ち込めるわけではありません。プレゼントの獲物がメスの口に合わなかったり、獲物の大きさが小さかったりした場合は、メスは交尾を中断して飛び去ってしまうのです。
 たとえばテントウムシは美味しくないのか、メスは受け取っても交尾を許さないそうです。可哀そうなオス……。なぜか私は自らの姿をツマグロガガンボモドキに重ねてしまったのでした。
 さて、平均で23分間と比較的交尾時間の長いツマグロガガンボモドキですが、甘い時間を過ごした2匹の間に、急に暗雲が垂れ込めてきます。
 その理由は、先ほどのプレゼントの所有権をお互いが主張するからです。
 オスはメスの掴んでいるプレゼントを奪い返そうとしますが、メスのほうも、せっかくもらったプレゼントを放すものかと力が入ります。
 しかしこの争いは、大体がオスの勝利に終わるそうです(なぜかほっとする私)。オスがメスから力ずくで奪い返した大きな獲物は、また違うメスを誘うためのプレゼントとして再利用するのです。
 オスが大きな獲物を捕らえるときは、やはり命の危険をともないます。なるべくなら危険を冒さないで複数のメスと関係を持ちたいと思うオスは、メスからプレゼントをもぎ取ってでも使いまわすのです。
 中にはもっとずる賢いオスもいるようで、交尾中のカップルから獲物を盗んだり、メスのふりをしてオスからプレゼントを受け取った途端、一目散に逃げたりもするそうです。
 餌の大きさと味の選り好みをするメス、あげたプレゼントを奪い返すオス、どちらのやっていることもずる賢くて、イーブンというところでしょうか。
 虫の世界でも、男と女の関係は複雑です。

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いかがでしょうか。この文章を読んでいるあなたが男性であれば、なかなか身につまされる話ではないでしょうか・・・。

もし来世、虫に生まれ変わったとしても、人間のころとやることはたいして違わないかもしれません。


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