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現役電通マンの提言:「専門性」がないビジネスパーソンは消えていく

ChatGPTの登場は、いろんな意味で社会に、とくにビジネスに大きなインパクトを与えました。これまでも「AIに仕事が奪われる」とは言われてきましたが、ようやく自分事として実感したというビジネスパーソンは多いことでしょう。

では、AIに仕事を奪われないためにはどうすればいいのか?

その答えの1つが、「専門性を身につける型を身につけること」だと、新刊『替えがきかない人材になるための専門性の身につけ方』の著者・国分峰樹さんは語ります。現役電通マンでありながら、大学講師も務めるハイブリッドキャリアの持ち主である国分さんだからこそできる提言です。

編集者という仕事は専門職と思われがちですが、書店に行けば金太郎飴みたいな本がたくさん並んでいます。やはり、独自性のある尖った本をつくるには、「編集者」という肩書以上の専門性を身につけなければ、と感じる次第です。
アマゾンでは明日7/21に発売。それに先駆けて、本書の「まえがき」を全文掲載します。


まえがき 専門性で戦えるビジネスパーソンになろう

「電通に入れば一生安泰だ」
 かつて私は、そんなふうに思っていた時代もありましたが、ひと昔の電通と今の電通はまったく別のような会社に生まれ変わっています。そしてこれからどのような姿に変わっていくのか、未来のビジネスを想像することもますます難しくなってきました。こういった感覚は、私だけでなく企業で働くビジネスパーソンにとって、多かれ少なかれ共通する部分があるのではないでしょうか。世の中の変化を先取りするように、ビジネスは生まれ変わっていかなければ成長できませんので、仕事に携わるビジネスパーソンも環境変化に適応していく必要があります。
 そんななかで、私が感じる決定的な変化は、ビジネスパーソンは「従業員」ではなく「プロフェッショナル」であるというプロ意識と、「ビジネスのプロ」としての存在意義が問われるようになったということです。
 プロ野球選手などプロのスポーツ選手は、自分の価値はプロフェッショナルとしての能力で決まるものであって、給料は「時間」に対して払われるものではない、という認識が当たり前のようにあります。逆に、アルバイトをしている人は、自分の給料は「時間」に対して支払われていると理解しています。
 それでは、企業で働くビジネスパーソンはどう考えているのでしょうか。「ビジネスのプロ」としての能力に対する価値が認められて、その対価を受け取っているという感覚はありますでしょうか。
 自分は会社のために働いた時間に対してお金をもらっているということであれば、それはプロスポーツ選手の「年俸」よりも、アルバイトの「時給」に近い感覚です。勤務した時間ではなく、自分の能力とそれによって生み出した成果が、プロとしての価値と考えるのが、「プロ意識」と呼ばれるものだと思います。
 結果がすべての世界に生きるプロは言い訳をしません。三振したことを他の誰かのせいにしたり、負けたのは作戦が良くなかったからだと文句を言ったり、チームメイトに愚痴をこぼしているような選手が、プロの世界で生き残るのは難しいです。現代のビジネスパーソンは、仕事の結果に対する全責任を背負って自分の実力を磨く「ビジネスのプロ」としての自覚を求められる時代に変わってきています。スポーツの世界と同じように、プロフェッショナルがしのぎを削る激戦区を、今後どう生き抜いていけばいいのか、それが私の問題意識です。

自己革新のキーワードは「専門性」

 社会学者のエズラ・ヴォーゲルさんが、一九七九年に出版した『Japan as Number One』(ハーバード大学出版局)がベストセラーになり、戦後の高度経済成長期における日本型経営が一躍脚光を浴びて以降、四〇年以上が経った二〇二三年の現在も続く「終身雇用」という三種の神器とまで呼ばれた日本企業の制度によって、日本のビジネスパーソンはこれまで、「専門性」がたいしてなかったとしても、それなりの会社員人生を歩むことができました。
 しかし、世界経済におけるグローバルな競争が激化するなかで、日本企業の国際競争力は低下しつづけており、今までと同じような意識のまま、ジェネラリストとして会社のなかでうまくやっていけば生きていけるような時代は、いよいよ終わりを迎えつつあります。
 デジタルトランスフォーメーションやイノベーションのジレンマが企業の経営課題となり、ジョブ型雇用やリスキリングが取り沙汰されていますが、まず変わらなければならないのは、自分自身です。ますます加速するテクノロジーの進化によって、目まぐるしく変わりつづける時代に、しっかりと適応するための「自己革新」が求められています。
 特に、ChatGPTの登場によって、AIに仕事を奪われる現実味が増してきた現代のビジネスにおいて、他の人でも代わりがきくような仕事を、自分にしかできないように抱え込んでこなしていても、その対価として今と同じレベルの給料が支払われつづける可能性は低く、残りのキャリアを何の専門性もないままやり遂げようという考え方は、すでに限界が見えている状況です。これからの社会を、自分らしく前向きに生きていくためには、自己革新を追求する必要があります。
 自己革新のキーワードは「専門性」です。
 専門性とは、すでに存在する専門知識を「インプット」することではなく、新たな専門知識を「アウトプット」できることを意味します。希少価値のある専門性を身につければ、企業から求められる人材になり、会社で活躍するチャンスや力を発揮できるフィールドが広がっていきます。自分の専門性を差別化することで、専門性で戦えるビジネスパーソンになろう! というのが、この本の目標です。

ビジネスパーソンに必要な「型」

 専門性の身につけ方は、長い歴史を積み重ねて「型化」されています。欧米のビジネスパーソンに比べて、日本人は終身雇用の世界を生きてきたこともあり、専門性の重要性に対する認識が甘く、専門性を身につける「型」についても、ちゃんと学ばないまま社会に出ている人が多いのです。いわば「型無し」の状態で、グローバルな争いを戦っているといえます。
 一度「型」を身につければ、何度でもそれを横展開することができるようになりますので、専門性の身につけ方を知らないというのは、何の武器も持たないまま丸腰で戦場に立っているのと同じ状況です。
 専門性を身につける方法は、「研究」にヒントがあります。日本人は、「探求」とか「追求」といった言葉には好意的なイメージをもっている人が多いですが、「研究」と言われると拒絶反応が出て、自分には関係がないものと思いがちです。研究は学者さんとか研究者がやるもので、ビジネスパーソンには関係ないでしょ、と考えてしまいます。
 したがって、専門性を身につけるにはどうしたらいいですか? と問いかけても、明確な答えがないことが多いのです。
 研究とは、「新しい知識を生み出す技法」です。その重要性に最初に気づいた一九世紀のドイツは、世界一の科学技術力をもつようになり、自動車産業や医学・物理学などを発展させて経済大国となりました。その後、ドイツに多くの留学生を送り込んで、研究の重要性を学んだアメリカが、世界最高峰の大学をたくさん創り上げた結果、現在に至るまで世界一の経済大国となっています。知識は日々進化しつづけるものですので、最先端の知識を創造することの重要性を理解している国や企業は強いです。
 日本を代表する経営学者の野中郁次郎さんは、『知識創造企業』(一九九六)という名著で、新たな知識を生み出すことの価値について明らかにしています。
 ビジネスパーソンは、研究者ではないので論文を書いたりする必要はありませんが、専門性を身につける「型」を知るために、研究のエッセンスを理解することは、大きな意味があります。

「専門性の身につけ方」を身につける

 私は現在、株式会社電通で働く企業人であり、青山学院大学や東京音楽大学などで非常勤講師を務めるとともに、東京大学大学院の博士課程で研究をしています。
 電通では、トランスフォーメーション・プロデュース部長を務めており、マーケティング・コミュニケーションのプロフェッショナルとして、世の中や消費者の変化を捉えてビジネスの変革を実現する仕事をしてきました。
 また東京大学大学院では、高度に情報化した社会のなかであらゆる情報が瞬時に手に入るようになった時代に、専門的な知識を学ぶ場としての大学はどうあるべきか? について研究をしています。
 マーケティング・コミュニケーションの研究では博士号を取得し、仕事と研究を通じて得た知識と経験をもとに、大学講師として青山学院大学や東京音楽大学などで、広告とメディアに関する科目を一三年以上にわたって講義しています。
 これらの活動の軸になっているのが、「専門性」です。ビジネスの世界における知見とアカデミックな世界の知見を掛け合わせることによって、「専門性を身につける方法」を体得したことで、どうやって専門性を身につけたらいいかを知らない人よりも素早く、ビジネスで活かせる専門性を身につけられるようになっていると思います。
 広告・マーケティング・メディアに関わる業界は、テクノロジーの進化によってビジネスが変化するスピードがとても速く、時代に適応していくための専門性が絶え間なく求められます。
 また、研究の世界においても、最先端を切り拓いていくスピードが加速するとともに、ひとつの専門性にとどまっていては解決できないような問題が増えているため、専門分野を越境する学際的な専門性がますます重要になってきました。
 こうした環境に身を置くなかで、第一線で活躍するトップランナーの人たちに共通する要素は、時代の変化を察知しながら、自己革新して新たな専門性を身につけるのが速いことだと感じています。
 つまり、ひとつの専門性に固執するのではなく、新しい領域を柔軟に取り入れて自分に付け加えていくことで、独自の形でブレンドされたスペシャリティを確立しているということです。そういった自己革新が自然とできる人であればそれに越したことはないですが、専門性で戦うビジネスパーソンになるためには、「専門性を身につける方法」を知ることが役に立ちます。
 専門性を身につける方法とは、一言でいうと「巨人の肩の上に立つ」ということです。これは哲学者のベルナルドゥスが語ったとされる言葉で、Google Scholarのトップページにも掲げられています。
 この本も、たくさんの「巨人の肩の上に立つ」形で、専門性を身につけることの大切さと、その方法について書いています。本書のなかで引用している多くの文献や参考文献に掲げている本は、ビジネスパーソンが専門性を身につけるとはどういうことかを考えるために、必読の本を厳選していますので、気になるものがあればぜひ読んでみていただきたいです。特に、『読書と社会科学』(内田義彦)、『知の技法』(小林康夫・船曳建夫)、『創造的論文の書き方』(伊丹敬之)、『知的複眼思考法』(苅谷剛彦)、『論文の教室』(戸田山和久)、『知的創造の条件』(吉見俊哉)などは、歴史的に型化された技法を伝承する文献といえます。これまで積み重ねられてきた偉大な知識をもとに、ビジネスパーソンが「研究マインド」をもって、専門性で戦えるビジネスパーソンになることを応援します。

本書の構成について

 本書は、大きく二部構成になっています。
 第Ⅰ部では、ビジネスパーソンが自らのキャリアを築いていくなかで、専門性がキーファクターになることを読み解いていきます。
 第1章で、プロ意識が高い人材が求められる時代背景を捉えた上で、第2章で、専門性がなかなか身につかない失敗例を掘り下げます。そして第3章で、専門性を身につける「型」を理解するために必要なポイントを把握することで、第Ⅰ部(第1章~第3章)全体として、これまでフワッとイメージしていた「専門性」に対する認識や見方を、はっきりさせることができると思います。
 第Ⅱ部(ステップ1~3)では、専門性を身につける方法について、スリーステップで解説します。
 専門性とは、知識をインプットすることではなく、アウトプットできるようになることですので、「勉強」ではなく「研究」のやり方を知る必要があります。勉強なら、与えられた問題を解けば、なんとなく勉強した気になることができますが、研究となると、「問題」もなく「正解」もわからないため、手っ取り早く「やった感」を味わうことはできないのが特徴といえます。自分独自の専門性を磨いていくためには、そういった感覚こそが貴重ですので、スリーステップを通して、「学び方」に対する考え方を根本的にチェンジ=トランスフォーメーションできるかが、専門性に続く道を歩めるかどうかの分かれ目になります。先入観を捨てて、まずは本書を片手に一歩踏み出してみるのが、何よりも大切なことだと考えています。

 この本が伝えたいことは、次の3点です。

  1. これからの時代に活躍するビジネスパーソンは、個性的な「専門性」が決め手になる。専門性という武器をもっていないビジネスパーソンは、会社での居場所や存在価値がどんどんなくなっていく。

  2. 日々の業務のなかだけで、ビジネスの競争に勝つ専門性を身につけるのは難しいため、自ら学ぶことが大切である。しかし、『〇時間で学べる△△』といったすぐ役立ちそうな自己啓発本を読んでも、ライバルと差がつくような専門性はなかなか身につかない。

  3. テクノロジーの発展とともに、仕事で求められる専門性の移り変わりは加速しており、時代の変化に応じて自分の専門性を進化させられるビジネスパーソンになるために、「専門性の身につけ方」自体を知ることが、替えがきかない人材になる近道である。

 本書を読んだビジネスパーソンの「プロ意識」が少しでも高まるきっかけになれば、大変うれしく思います。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

(編集部 いしぐろ)

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